第一話 テンプレから始まる異世界召喚
あらすじにも書きましたが、この作品は『テンプレなんぞクソくらえ!』を書き直したものです。
大筋は変えないつもりですが、所々改稿前とは違う展開がありますので、ご了承ください。
もし書き直す前のものが読みたいという方は作者ページから飛んでください。
ただし、そちらは初めて書いた小説のため、何もかもがダメダメです。
もう少しで夏休みを迎えるという高校二年生の初夏の日の朝、学校に登校を果たした俺はヘッドホンを外しながら、窓際の角にある自分の席に着席する。
「よう、刀堂」
着席すると同時に呼びかけられ、その方向を見てみると、斜め前の席に座る田中明の顔があった。
それを認めると、適当に返事を返してから、ポケットに手を突っ込みスマホを取り出す。
えっ? 素っ気ないって?
そんなことは――ある。
だって、そんな仲良くないし。話すことも特にないし。
学校での俺はいつもこんな感じだ。
特別仲の良い友達を作ることはなく、無難な関係を続ける。
いつも一人、趣味の読書をしているか、スマホで何かしらやっているか。
勘違いしないで欲しいが、決してボッチという訳ではない。断じてない。
話し掛けられれば、ちゃんと対応するし、用があれば俺からも話しかけることはある。
ただ、俺は他人という存在がどうにも信用できないのだ。
他人というモノは結局どこまで行っても他人であり、それ以上でもそれ以下にもなり得ない。
それは今まで生きてきた中で痛いほど経験してきたことだった。
朝のホームルームまで、スマホをいじって時間を潰す。
画面に表示されているのは、ネット小説サイト。
最近のマイブームは、異世界モノの小説だ。
俺も異世界に行ってみたいものである。
そんな風に過ごしていると、やがてチャイムが鳴り、朝のホームルームがやって来た担任の先生によって進められていく。
それも数分ほどで終わりを告げ、一限目前の休み時間となる。
すると、それは唐突に、それでいて秘密裏に開始された。
「おい、鈴木ぃ」
高圧的な口調で語りかけながら、一人の男子生徒を三人の男子生徒が囲む。
――イジメだ。
囲んでいる三人はどれも素行が悪いことで有名な不良だったりする。
その証拠に三人とも奇抜な髪色をしている。
この学校は偏差値がそれなりに高いため、ある程度校則に自由があり、髪を染めること自体がいけないことではないが、あそこまで明るい色に染めてる者は少ない。
一方、囲まれている――つまり、イジメられている鈴木と呼ばれた男子生徒とは、小太りで背が低く、長い前髪で目元が見えない、といった暗い印象を受ける容姿をしている。
彼は今回のように度々、この不良三人組にイジメを受けている。
しかし、それを周りは見て見ぬ振りをする。
自分に飛び火することを恐れているから、というのも一つの理由なのだろうが、本当の理由はもっと別のところに――
「佐久間、君は何やってるんだっ!」
イジメ現場を眺めながら、思考をしていると、その現場に四人の男女が現れた。
その内の一人である、茶髪の男子生徒が不良三人組に向かって怒鳴りつけた。
彼の名は、光道隼人といい、眉目秀麗の上、文武両道の完璧超人と名高いこのクラスのリーダー的な存在だ。
その後ろには、筋骨隆々な大男――立花大輝が不良三人組へ睨みをきかせている。
そして、残りの二人はというと、イジメられていた鈴木の側へと駆け寄っていた。
「大丈夫? 鈴木くん?」
「…………」
鈴木へ声をかけたのは、この学校で三本の指には入る美貌の持ち主として有名な天風薫だ。
心配されている鈴木はというと、揺れる天風さんの大きな胸を凝視している。
「ちょっとあんた、どこ見てんのよ!?」
それに気付いた、残りの一人である快活そうな印象の茶髪の少女――青木晴が天風さんを鈴木の視線から隠すように抱き寄せる。
その一連の流れが終わると、ようやく不良三人組の内の一人が光道に向き合う。
「何だよ、光道。天風さんにこんなことをするようなヤツを擁護するのか?」
「だと、してもやりすぎだ」
不良の言うことは最もで、鈴木がイジメられている最大の要因だと言っていい。
鈴木はこのようにセクハラ紛いの行為を繰り返している。
イジメられる側にも原因があるとは言うが、これがまさにいい例だろう。
まあ、あの巨乳を前にしたら、自然と視線がそちらへ向かってしまうのは仕方ないというか、男の性のような気もするが。
しかし、正義感の強い光道にはそんなもの通用しないようで反論する。
まあ、だけど――
「……うるせぇなぁ、俺の席の近くで騒ぐなよ」
小さな声で不満を漏らす。
毎回毎回俺の席の近くで騒ぎやがって、こっちは読書中だっつーの。
やるなら外に行ってやって欲しいものだ。
そんなことを考えていると、この場で最も役に立ちそうな人間がやってきた。
「何やってるんですか!?」
そう、それは今まで教卓で他の生徒と話し込んでいた担任の先生だ。
今この場この状況では、最も事態の収束に役立ってくれるだろう。
まあ、後で呼び出しやら何やらと面倒ごとが舞い込むのだろうが、それは俺が知ることではない。
先生はヒールをカツカツと鳴らしながら、凄い形相でイジメの現場へ急行する。
――しかし、その足は突然起こった出来事によって止めざるを得なかった。
「な、なんだ!?」
「きゃっ!?」
クラス中から吃驚の声が聞こえてくる。
その原因は皆の足元にあった。
――教室の床全体を埋め尽くす、光り輝く幾何学的紋様。
得体の知れない突然の自体にクラス中が混乱に見舞われる中、俺にはそれが何であるかが分かっていた。
「魔法陣……」
自然とその言葉が漏れる。
この現象が何であるのか、この後に何が起こるのか、俺には予想がついていた。
それは今もなお、俺のスマホに映し出されている文字列に記されていること。
異世界召喚きたー?!
俺は心の中で歓喜の声をあげながら、教室を埋め尽くす強い光に包まれていった。
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