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8.ありえない襲撃


 前方からベキベキと木が折れていくような音が聞こえてきて、皆は緊張に身を固くした。

 そこで雨音がハッとして呟く。


「これ、魔力だわ。強い魔力を持った生き物が近付いてきてる……!」

「強い魔力って、まさか……」


 生い茂る木々を押し退け、なぎ倒し、そいつは姿を現した。

 体長は約五メートル、全身が緑の体毛に覆われた、異形の化け物。

 二足歩行型で身体付きはゴリラに似ているが、頭部はなく、胸に二つの目玉があり、腹の部分が大きな口になっている。

 言うまでもなく、こんな生き物はこの世界に存在していない。異世界に棲息する魔物で間違いないだろう。


 魔物は全身から魔力を発し、すさまじい殺気をまとっていた。

 舞は涙目になってガクガクと震え、美絵は目を丸くして立ち尽くす。

 いきなり現れた魔物に対し、何をどうしたらよいのか分からないようだ。

 二人がそうなるのも無理はない。魔物は異世界の生き物であり、こちらの世界に現れるはずがないのだから。


「二人とも、下がって!」


 声を上げたのは雨音だった。舞と美絵を下がらせ、腰のホルスターから魔銃剣を抜く。

 既に魔力を充填済み、出力レベルは『3』に設定してある。

 銃口を標的に向けるのと同時に引き金を引き、雨音は魔力弾を連射した。

 だが――。


「くっ、こいつもこの前のやつと同じ……魔力弾が効かない……!」


 魔力弾の直撃を受けても無傷で立っている魔物をにらみ、雨音は悔しげにうなった。出力レベルを上げるしかないのか。

 なぜ最初から出力を上げておかないのかと言えば、使用回数が少なくなるからだ。

 魔銃剣に充填可能な魔力量には限界があり、また、内蔵している増幅器や変換器で処理できる魔力にも同じく上限がある。

 雨音のように魔力が高い者なら武器を使用しながら補充する事も可能だが、それでも機器が対応している限界量以上の充填はできないのだ。

 チャージできる魔力量に限りがあるのならば、出力を上げれば使用可能回数が減るのは道理というもの。

 ガンモードだと魔力弾の発射回数が減り、ソードモードだと持続時間が短くなる。

 それが現時点における人間の技術の限界なのだ。


 しかし、今は出し惜しみをしている状況ではない。

 魔力をチャージしつつ、雨音は出力レベルを『4』に設定した。

 『5』にしなかったのは、最高出力だとフルチャージでも一発しか撃てないからだ。


「これでもくらえ!」


 両手で銃を構え、引き金を引く。まばゆい光がほとばしり、通常よりも巨大な魔力弾が魔物の胴体に直撃する。

 光が弾け、激しい爆発が魔物を包み、爆風が吹き荒れる。


 やった、倒した、と思った雨音だったが、爆発による煙が風に流されたあとに魔物が立っているのを目にして愕然とした。

 しかも、まったくの無傷で。


 魔物は胸にある大きな目をパチパチさせ、長い腕を振り上げてノシノシと歩いてくる。雨音は二発目を撃とうとして躊躇した。

 ――距離が近すぎる。これでは爆風に巻き込まれてこちらまで吹き飛ばされてしまう。

 後退して距離を取るべきか、魔力剣に切り替えて応戦するべきか。逡巡する雨音に魔物が迫ってくる。

 魔物が長い腕を伸ばしてきて、舞が叫ぶ。


「て、天道さん、危ない!」

「くっ……!」


 そこへ、一つの影が滑り込んでくる。

 雨音を庇うようにして立ち、つかみかかってきた魔物の巨大な手を受け止めたのは、それまで様子をうかがっていた健吾だった。


「大丈夫か、天道!」

「お、横賀君……!」


 手を出すべきか否か、健吾は迷っていた。

 操からは目立たないようにと言われていたし、雨音が仕留めてくれるのなら彼女に任せておくべきかとも考えた。

 だが、雨音が危ないのを見て、もはやジッとしていられなかった。

 黙って見ていれば、雨音はもっと強力な攻撃方法で逆転したのかもしれない。それでも、もう我慢できなかった。


 これでまた、化け物扱いされるかもしれない。

 雨音以外の二人にも知られてしまうし、他の班の連中がやって来る可能性もある。だが、それでも――。


「目の前で女が危ない目にあってるのに、動かないのは男じゃないよなあ……!」


 魔物の巨大な手をつかみ、押しとどめる。先日のトカゲよりもはるかに強いのが分かる。

 だが、特に問題は感じなかった。


「うおおおおお!」


 大地を踏み締め、健吾は前に出た。両手で押さえた魔物の大木のような右腕がメキメキと軋み、その巨体がググッと下がる。

 すると魔物は腹部にある大口を開け、そこから長い舌を射出し、健吾の身体に巻き付けた。

 大蛇のような舌が締め付けてきて、常人なら一瞬で潰されていたであろう、強烈な圧力が掛かってくる。

 だが、健吾には効かない。巻き付いた舌をつかみ、グシャッと握り潰して引き剥がす。

 縛めから難なく脱出、魔物の懐へ飛び込み、振り上げた拳を口の少し上のあたりに叩き込む。


「おりゃあ!」


 ズドン、と。すさまじいパワーを込めた拳が魔物の巨体にめり込み、弾き飛ばす。

 魔物は大砲の直撃でも受けたように吹き飛び、木々を薙ぎ倒しながら森の奥へ奥へと突き進み、やがて見えなくなった。


「ふう。大丈夫だったか、みんな」


 額の汗を拭い、声を掛けてきた健吾に返事をしようとして、雨音はハッとした。

 健吾は左右の手首にリストバンドを巻いているのだが、それの表面に幾何学模様のラインが浮かび上がり、鈍く光っている。

 明らかにただのリストバンドではなく、何かの機能を発動中のように見えた。


「横賀君、それ……さてはそのリストバンドの機能なのね! あなたがでたらめなパワーを使えるのは!」

「えっ?」


 ビシッと人差し指を突き付けてきた雨音に、健吾は首をひねり、そしてハッとした。


「あ、ああ、実はそうなんだ。バレちまったか」

「ふっ、やっぱりね! 素手で魔物を倒せるなんておかしいと思ってたのよ! やっと謎が解けたわ!」


 胸を張り、得意げに語る雨音の台詞を聞き、それまで呆気に取られていた舞がおずおずと呟く。


「そ、そうなんだ。すごいね、横賀君。筋力増強とか、そういうのなの?」

「まあな。まだ開発中で秘密にされてるから、誰にも言わないでくれるか?」

「うん、言わないよ。でも、いいなあ。それを付ければ私でも魔物と戦えるのかな?」


 舞はしきりにうらやましそうにしている。

 その傍らで、美絵は健吾のリストバンドをジッと見つめていた。


「……筋力増強? そんな風には見えないけど……」

「どうしたの、神谷さん。何か言った?」

「……何でもないわ」


 怪訝そうに問い掛けてきた雨音に、美絵は首を横に振った。



 その後は特に何事もなく、訓練は無事に終了した。

 雨音達から魔物出現の報告を受けた操は、難しい顔をしてうなっていた。


「森に魔物が……どういう事かしら」

「先生が訓練用に用意したんじゃないんですか?」

「そんな危ない真似をするはずないでしょう。騒ぎになるとまずいから、この事は黙っていて」


 雨音達に口止めをしておき、操は健吾を呼んで皆から離れ、彼と二人で話した。


「健吾君が倒したのね? 訓練中の生徒にあなたがいたのは不幸中の幸いだったかも」

「なんで魔物がこっちの世界に……ゲートをくぐり抜けてきたんですかね?」

「そんな報告は受けていないし、異世界に通じるゲートは二四時間体制で監視されているわ。ここから一番近いゲートは五キロも離れているし、そこから大型の魔物が誰にも気付かれずにここまで来られるとは思えない」

「じゃ、じゃあ、どういう事なんですか?」


 戸惑う健吾に、操は真面目な口調で呟いた。


「考えられる可能性は二つ。誰かが監視の目を欺いて魔物をこちらの世界に持ち込んだか、もしくは……この近くに誰にも知られていない新たなゲートが開いたか……」

「た、大変じゃないですか。早く調べないと!」

「もちろん、すぐに報告しておくわ。しばらくの間、森への立ち入りは禁止にしましょう」


 異世界へのゲートが開くと、磁場の乱れや空間の歪みが生じる。

 なぜゲートが発生するのかは分かっていないが、ゲートを探知するシステムは構築されており、位置の特定は難しくない。

 新たなゲートが開いたのなら、すぐに発見されるだろうとの事だ。

 だが、本当に新たなゲートが発生しただけなのだろうか。

 嫌な予感を覚え、健吾はブルッと震えた。


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