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4.限りなく実戦に近い訓練


 戦士育成を目的とした学園であるだけに、広大な学園の敷地内には様々な訓練用の施設がある。

 雨音が向かったのは、学園の片隅にある旧型の施設だった。

 近い内に取り壊して建て直す予定だとかで、現在はほとんど利用されていない。


 建物はドーム形で、屋根は開閉式の全天候型。

 施設内部のフィールドには土が盛られていて、訓練用にわざと地面の状態を荒らしてある。

 ドームに入り、フィールドの中央付近まで進んだところで健吾と向き合い、雨音は彼に告げた。


「ここなら邪魔は入らないでしょう。やっと二人きりになれたわね」

「えっ? それってどういう……」

「ずっとこうなる機会を狙っていたのよ。教室じゃ人目があるしね……」


 薄く笑みを浮かべ、潤んだ瞳で見つめてきた雨音に、健吾はゴクリと喉を鳴らした。

 放課後、人気のない施設で二人きり。これはもしや……。


 ――恋愛イベント的な何かなのか。あるいはもっと上級の、アダルトな要素を含んだものという可能性もある。

 そうすると、訓練に付き合ってなどというのは単なる口実だったのかもしれない。

 緊張に身を固くした健吾を見つめ、雨音が落ち着いた口調で呟く。


「さて、それじゃ始めましょうか」

「は、始めるって、何を……」

「そんなの決まってるでしょう? いちいち説明させないで」


 健吾は戸惑い、声が上ずりそうになるのを抑えて言葉を紡いだ。


「あ、あのさ、俺達、知り合ったばかりだし、こういうのはお互いをもっとよく理解してからの方が……」

「理解するためにやるんじゃないの。とりあえず脱いで」

「いきなり脱ぐの!? なんか色々と過程をすっ飛ばしてないか!」

「その方が動きやすいでしょ。着たままでいいのなら無理にとは言わないけど」


 オロオロとうろたえる健吾の前で、雨音は上着のボタンを外し、さっさと脱いでしまった。

 上着の下にはノースリーブのシャツを着ていて、意外と大きい二つのふくらみが薄い布地を押し上げて自己主張しているのを見つめ、健吾は赤面してしまった。

 なんて大胆な。ここは男としてきちんと対応してみせなければなるまい。

 だがしかし、具体的にどうすれば……とりあえず服を脱げばいいのか。


 傍らに置いた通学用バッグの上に畳んだ上着を乗せ、雨音は健吾に向き直った。

 居心地が悪そうに立ち尽くしている彼を見て首をかしげ、腰に提げたホルスターから魔銃剣を抜く。

 雨音が武器を手にしたのを見て、あれこれと妄想していた健吾はハッとした。


「あ、あれ? もしかして本当に訓練をやるのか?」

「当たり前でしょ。何をすると思ったのよ?」

「そ、そうだよな、訓練以外に考えられないよな! 俺もそうじゃないかなー、と思ってたんだよ、うん!」

「?」


 なぜか赤い顔をしている健吾に首をひねり、雨音は銃に魔力を充填チャージした。

 先日の失敗から、暇さえあれば魔力を充填する練習を行っている。

 その成果もあり、今ではそれほど意識を集中させなくてもすばやく充填を行えるようになった。

 とりあえず威力レベルを一番低い『1』に設定し、安全装置を外す。

 これでも普通の人間が相手なら大怪我をしてしまう威力だが、健吾なら大丈夫だろう。


「準備はいい? 始めるわよ」

「お、おい、ちょっと待て! それ、訓練用の武器じゃないよな?」

「もちろん、実戦用の本物よ。安心して」

「いや、危ないだろ! 生身の人間相手に使っていい代物じゃ……」


 顔色を変えた健吾に構わず、雨音はグリップのボタンを押しながら銃を振って本体とグリップが一直線になるよう変形させ、引き金を引いた。

 銃身の下にマウントされたナイフが光を放ち、長さ約一メートルの光の刃を生じさせる。


 魔銃剣、ソードモード。接近戦に特化した形態で、魔力で守られた魔物の皮膚を切り裂くために考案された、増幅した魔力に刃の性質を持たせた武器である。

 ガンモードの魔力弾とソードモードの魔力剣。この二つの機能を使い分ける事ができるのが魔銃剣の特徴なのだ。


「というわけで、くらえええ!」

「うわあ!」


 雨音が踏み込み、光の刃を振るって斬り付けてくる。

 慌てて攻撃をかわし、健吾は冷や汗をかいた。


「ちょっ、危な! これほんとに訓練か!?」

「限りなく実戦に近い訓練よ! うりゃあああ!」

「なんでそんなに気合い入ってるんだよ!?」


 基本的に雨音は全力で事に当たる主義である。

 訓練であろうと決して手を抜いたりしないし、限界ギリギリまで力を出し切るタイプだ。

 しかも相手は正体不明の、魔物を素手で倒せる謎の男。彼の能力を見極めるためにも本気でやるつもりだ。


 雨音は休みなく刃を振るい、猛然と斬りかかった。

 健吾は後ずさりながら斬撃をかわしていく。

 腰が引けているように見えて、必要最小限の動きで攻撃を回避している彼に、雨音はギリッと唇を噛んだ。


(こいつ、剣の軌道が見えてる……やっぱり只者じゃないわね……!)


 対魔技能レベルAAは伊達ではない。

 雨音は魔力が高いだけではなく、身体能力もずば抜けていて、剣術も得意としている。

 対魔技能とは、魔力と身体能力、それらの総合的な能力を示すものなのだ。

 健吾は魔力測定値がゼロで、そのために対魔技能レベルは判定不能という事になっていると聞く。

 それが事実だとすれば、魔物を倒した力は何なのか。雨音はその力の正体を暴いてやろうと考えていた。


「なんで避けるのよ! あなたならこんなの当たっても平気でしょ!」

「いや、なんか切れ味よさそうだし、怪我しそうな気がして。避けられるもんは避けとくだろ、普通」

「あー、そう! なら、これならどうよ!」

「!?」


 ソードモードの魔銃剣をすばやく変形させ、ガンモードに戻す。

 銃口を健吾に向けると同時に引き金を引き、至近距離から魔力弾をお見舞いする。

 かわすのは無理、受けるしかない。さあ、どうする。


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