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19.合体戦士


 全校放送で緊急事態が知らされ、生徒達は避難するよう指示を受け、訓練場からゾロゾロと出て行く。

 腰に提げたポーチから着信音が鳴り、雨音が慌てて携帯電話を取り出す。

 メールを確認した雨音は、顔面蒼白となった。


「また魔物が出たんだって……どうしよう……」

「おいおい、よりによってこんな時にか……本当に人生最悪の日だな」


 先日の魔物は雨音が撃退した事になっているため、今回も活躍を期待されているらしく、生徒会が応援を要請してきたらしい。

 魔物が現れたというのなら、もはや迷ってなどいられない。

 健吾は力を込めて左右の足を交互に持ち上げ、ブーツを分解して強引に引き抜いた。

 台座から飛び降り、雨音を抱えたまま訓練場を後にする。

 廊下を走っていく健吾に、雨音が叫ぶ。


「ちょ、ちょっと、このまま行くつもり!? まず離れないとだめでしょ!」

「服を破かないと無理だ! 着替えてる暇はないし、我慢しろ!」

「嘘ぉ! なんでこんな事になるのよう!」

「俺だって泣きたい気分だよ! 元はと言えば天道のせいだろ!」


 接着剤でくっついているのは互いの胴体前面、胸元から腰のあたりまでで、手足は自由に動かせるのが幸いだった。

 そして健吾のパワーなら雨音を担いでいても余裕で走れる。

 仕方なく雨音は健吾に手足を絡ませてしがみつき、彼の邪魔にならないようにした。


「どこへ行けばいいんだ? 校門か?」

「反対側にある裏門の方よ! 裏手にある山から魔物が迫ってきてるんだって!」

「最初は学園の東、次は北、今度は南側か。もうどこから魔物が現れてもおかしくない状況になってるな……」

「先回りして西に行ってみる?」

「この状況で冗談が言えるなんてすごいな……ちょっと尊敬するよ」

「あははは……ごめん」


 そう、状況はかなり最悪と言えた。

 二人はベッタリとくっついた状態のまま、戦いの場に赴かなければならないのだから。

 これではどちらの能力もフルに発揮できないだろう。

 しかし、グズグズしていては迎撃に出た者達が全滅するかもしれないし、魔物が学園まで到達するかもしれない。急いで現場に向かうしかないのだ。


「俺が戦うから、天道はしがみついてろ。振り落とされないようにな」

「りょ、了解。がんばってね」

「努力するよ」


 やがて健吾は校舎から飛び出し、学園の裏手へと走った。靴を取りに行く余裕もないので裸足のままだ。

 裏門は閉ざされており、健吾は門を飛び越えて外に出た。学園の外周を走る道路があり、その先は森になっている。

 森へ入ってすぐのところで、生徒会を中心とした上級生達の姿を見掛けた。

 副会長の藤谷が健吾に気付き、声を掛けてくる。


「あら、横賀君も来て……ちょ、ちょっとあなた達、何してるの!?」


 健吾と雨音の姿を見て、藤谷は目を丸くし、他の生徒達も仰天している。

 雨音は真っ赤になって顔を伏せ、健吾は赤面しながら言い訳をした。


「く、訓練中の事故で離れられなくなっちゃって。気にしないでください」

「どんな事故よ!? そんな斬新な戦闘スタイル、見た事もないわ!」


 誰かが「漫画で見た事ある」と言っていたが、詳しい説明はなかった。

 知らない方がよさそうだったので、健吾は訊かないでおいた。

 藤谷が気を取り直し、状況を説明する。


「もう魔物はすぐ近くまで来てるわ。先生達が先行してるから、合流して食い止めるわよ! 横賀君達は……まあその、邪魔にならないようにね」


 さすがにこんな状態では戦力にならないと思ったのか、藤谷は健吾達を頭数から外していた。

 森の奥へと向かう上級生達の後に続き、健吾は敵の気配を探った。


「いるな。この先か……しかもこいつは……」

「ね、ねえ。森の奥からものすごく強い魔力を感じるんだけど……これって魔物の?」

「ああ、そうらしい。こいつは大物だな」


 近付くにつれ、強烈な気配が漂ってきて、健吾はゴクリと喉を鳴らした。

 森の空気そのものが淀んでいるような、とても嫌な感じがする。

 この禍々しい気配を発しているのが生き物なのだとしたら、そいつはどれほどの化け物なのか。

 できれば勘違いであって欲しいと願いつつ、健吾は気配のする方角へ進んだ。


 鬱蒼と木々の生い茂る森の奥に、そいつはいた。

 最初はそこに何があるのか、健吾は分からなかった。

 森全体が動いているように見え、自分の目がおかしくなったのかと思った。


 そいつは、巨大な生き物だった。

 横幅が一〇メートルほどあり、高さは五メートルぐらい。深い緑色をしているために木々との見分けが付かなかったのだ。

 非常識な大きさをしたそいつは、亀のような生き物だった。

 全長はおそらく二〇メートル以上、小山のような甲羅を背負い、四つ足で立っている。

 亀と大きく違うのは、甲羅の上にいくつものゴツゴツした巻き貝みたいな物が生えている事だった。それが回転しながら何かを打ち出している。

 見ると、既に教師達はやられてしまったらしく、負傷者を引きずりながら撤退しようとしていた。

 藤谷を中心とする高レベルの上級生達が攻撃を開始したが、岩山のような怪生物を相手にして、早くも苦戦を強いられていた。


「くっ、なんなのコイツ! 攻撃がまったく効かない!」


 魔力弾を一箇所に集中して撃っているが、甲羅はもちろん、頭部や足にすら傷一つ付けられないでいる。

 怪物はジッとしていて、何かを待っているように見えた。

 背中の巻き貝から放たれた何かが当たり、上級生達が一人、また一人と倒れていく。


「なんだ? 何を飛ばしてるんだ?」


 健吾は目を細めて観察し、攻撃の正体を見極めようとしたが、彼の常人離れをした眼力をもってしても捉えられなかった。何も飛ばしていないように見える。


「ね、ねえ、ちょっと。私にも見せてよ」


 向き合う形でくっついているため、雨音には敵の姿が見えない。

 健吾は身体の向きを真横にして、彼女にも見えるようにした。


「うわっ、何あれ! ギドラの次はガメラ?」

「そういや、旧ガメラは宇宙怪獣だったな……もしかして異世界ってのは宇宙にあるのか?」

「別次元の宇宙と考えるとそうかもね。あるいは数千光年離れた惑星とゲートで繋がっているだけなのかも」

「こら、そこ! のんびりお話ししてる暇があったら援護ぐらいしなさい!」


 藤谷が叫び、健吾と雨音は「すみません」と謝罪した。

 雨音が腰のホルスターから魔銃剣を抜き、右腕を真横に伸ばして構える。


「て、天道? この状態で撃つつもりか」

「ちょっと狙いにくいけど、問題ないわ。ブレないように支えてくれる?」

「お、おう。こうかな?」


 健吾は雨音の腰に腕を回し、抱え込むようにして支えた。

 雨音は頬を染めつつ、気持ちを引き締めて銃の狙いを付けた。

 威力レベルを『4』にして、化け物亀の頭部、左目を狙う。

 高威力の魔力弾が発射され、狙い違わず怪物の左目にヒット、爆発を起こす。


 確実に当てた。だが、怪物は無傷だった。目にゴミが入ったぐらいにしか感じていないらしい。

 ちょっとは痛がってよ、と思った雨音だったが、狙い通りだ。

 攻撃が効かないのは分かっている。敵の視界を遮るのが一番の援護になると考えたのだ。

 健吾は雨音を抱えて移動し、援護射撃を行いやすい位置を確保するように努めた。

 藤谷達は怪物にダメージを与えられないまま、負傷者を担いで後退していく。


「もう正規の部隊が来るのを待つしかないわ。あなた達も早く撤退して!」


 健吾達に声を掛け、最後まで粘っていた藤谷も去っていった。

 またしても残ったのは健吾と雨音の二人だけになった。

 前回と違うのは、敵がより巨大で手強そうな相手である事と、健吾達がベッタリくっついて密着状態である事だ。

 健吾にしがみついた姿勢で、雨音は器用に正確な射撃をこなしていた。だが、これでは健吾が戦えない。


「なあ、俺達も撤退した方がよくないか?」

「私もそう思うわ。あの亀がここで大人しくしていてくれるんならね」


 ここから学園まで、四〇〇メートルもない。こんな怪物が学園に入ったらどうなるのか。


「やるしかないか。かなり動きにくいが」

「邪魔にならないようにするわ。私の事はかわいらしいぬいぐるみだとでも思って」

「こんな気持ちいいぬいぐるみがあるとは思えないが……すんません、なんでもないです」


 真っ赤になった雨音に超至近距離からにらまれ、健吾は目をそらしながら謝った。

 ともかく、やれるだけやってみる事にする。

 

 巨大亀はゆっくりと足を踏み鳴らし、学園へ向かって移動を再開した。

 やはり大人しくしていてはくれないようだ。

 健吾は拳を握り締め、身構えた。


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