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13.トップツー降臨


「ううっ、ひどい目にあったぜ……絶対に訴えてやる……」

「まあまあ、機嫌直してよ。お詫びに奢るから」


 昼休み。ご馳走するという雨音に誘われ、健吾は学生食堂に来ていた。

 奢りなら普段とは違う高いメニューでも選んでみようと思い、健吾は『ウルトラデラックス肉定食』というものを頼んでみた。

 食券を買い、カウンターで受け取ってみると、それは大皿に山盛りの分厚い肉が積まれたものと丼に山盛りのご飯がセットになったメニューだった。

 食堂の南側には屋外に張り出したテラスがあり、そちらでも食事がとれるようになっている。

 今日は天気がいいので健吾達はテラスに出て、テーブルに着いた。


「うーん、これがウルトラデラックス肉定食か。確かに肉だらけだな」

「すごく豪快なメニューね。野蛮人の横賀君にはぴったりだわ」

「誰が野蛮人だ。お前を食ってやろうか?」

「わ、私を食べちゃうの? い、いやらしいわね……!」

「そういう意味じゃねえよ!」


 雨音はハンバーグ定食を注文し、健吾の向かいに座っている。

 女子と二人で昼食をとるのは何やら恥ずかしく、健吾は山盛りの肉を食らう事に集中するように努めた。

 食堂がある建物は四階建てで、上階から張り出したバルコニーにも食事をとっている生徒の姿が見えた。

 上の階を見上げ、健吾は呟いた。


「上にも行けるのか。あっちで食べた方がよかったかな」

「一年は一階で食べるのが普通よ。二階より上は二年生以上が利用するんだって」

「そうなのか。身分制度みたいで面倒くさいな」


 上に行くほど張り出しが小さくなっていて、上の階から下の階の様子が見下ろせる構造になっている。

 肉を頬張りながら健吾は上階をぼんやりと眺めた。


「二階は二年、三階は三年が使ってるのかな。じゃあ、四階は?」

「生徒会の人とか、ごく一部の限られた人達が使ってるらしいわ」

「詳しいんだな」

「ま、まあね」


 なぜか決まりが悪そうにしている雨音に健吾が首をかしげていると、頭上を何かの影がよぎった。

 上の方の階から飛来した何かが、食堂一階のテラスを囲う柵の上にスタッと着地する。

 鳥か何かと思いきや、それが制服姿の生徒だったので、健吾は驚いてしまった。


「な、なんだ? 人が降ってきたぞ」


 一人は長い金髪をなびかせた、長身の美少女。もう一人は栗色の髪をした、こちらも美少女。

 二人は笑顔で健吾達を見下ろし、声を掛けてきた。


「ごきげんよう、天道さん。こんなところにいらしたのね」

「ど、どうも。こんにちは、藤谷先輩、古宮先輩」


 どうやら二人は上級生で、雨音の知り合いらしい。

 居心地が悪そうにしている雨音に、健吾は尋ねてみた。


「なあ、誰だ?」

「ば、馬鹿、知らないの? 生徒会長と副会長よ。三年の、ううん、全校生徒のトップツーじゃないの!」

「へえ、そうなんだ。ここのトップって女子だったんだな」


 特に考えもせず素直な感想を述べた健吾に、雨音は冷や汗をかき、おそるおそる上級生二人の様子をうかがった。

 二人は笑顔だったが、どちらも口元がヒクヒクしている。


「う、うふふ、まさか私達の顔を知らない生徒がいるなんて……驚いたわね」

「す、すみません、藤谷先輩! 彼はちょっと変わってるので、気にしないでください!」

「……まあいいわ。それより天道さん、あなたは新入生のトップなのだし、四階への出入りを許可されているはず。何度もお誘いしているのにどうしていらっしゃらないのかしら?」


 藤谷と呼ばれた金髪の少女が問い掛けてきて、雨音は困った顔をしていた。

 四階は限られた人間だけが使う事を許されているという話だったが、どうやら雨音もその一人だったらしい。さすがは新入生のエースといったところか。


「えっと、何となく行きにくくて……一年の私が先輩達の中に交ざるのは難易度高そうっていうか……」

「あら、私達と一緒じゃ嫌なのかしら? そんなに構えなくてもいいのよ」

「べ、別に嫌ってわけじゃないんですけど……」


 そこで健吾は、上級生達に告げた。


「いいじゃないですか、昼飯ぐらいどこで食べても。天道の自由でしょう」

「私達は天道さんと話をしているのだけど。部外者が口を挟まないでくれる?」

「部外者って……見ての通り、天道は俺と飯を食ってるんですけど。いくら上級生でも食事中に乱入してくるのは非常識なんじゃないんですか?」

「ほう。なかなかいい度胸をしているわね……」


 藤谷が目を細め、声のトーンを低いものに変えて呟く。

 彼女の魔力が高まっていくのを感じ取り、雨音は顔色を変えた。


「お、横賀君、やめて! 藤谷先輩は対魔技能レベルAAAの実力者なのよ! 調査団に同行している現役の戦士でもあるんだから! 私達とは立場が違う人なのよ!」

「だからなんだよ? 俺はただ、人が飯食ってるのに邪魔するなって言ってるだけだぜ」

「ば、馬鹿、少しは言葉を選びなさいよ!」


 雨音は懸命に訴えたが、健吾は平然としていた。

 藤谷が眉を吊り上げ、不愉快をあらわにして呟く。


「どうやら礼儀を知らないようね。少し教育が必要かしら……」


 言うが早いか、藤谷は腰に提げた魔銃剣に手をやり、柵の上から姿を消した。

 魔力を利用しての高速移動。雨音もまだ修得していない高等技術を使い、瞬間的に間合いを詰め、テーブルに着いた健吾に襲い掛かる。

 背後から魔力剣を一閃、健吾を袈裟斬りにする。

 出力レベルを最弱にして威力を抑えて放ったので、大怪我をする心配はない。

 それでも気絶ぐらいはするだろうが、生意気な新入生にはいい薬になるだろう――。


 ――だが、しかし。

 藤谷の放った斬撃は何もない空間を薙いだだけだった。

 捉えたはずの健吾の姿が消えてしまい、藤谷は愕然とした。


「えっ、き、消えた……?」

「……危ないなあ。不意打ちはよくないですよ、先輩」

「なっ……!」


 真後ろから声がして、藤谷は慌てて反転した。

 彼女が構え直すより速く、健吾は藤谷の手首をつかみ、魔銃剣を取り上げてしまった。


「こんなもん、人間相手に振り回しちゃだめでしょう。ほら、ちゃんと仕舞っとかないと」


 健吾は奪った魔銃剣をクルッと一回転させ、藤谷の腰にあるホルスターに収めてやった。

 藤谷は呆然として立ち尽くし、健吾の顔を見つめた。


「あ、あなた、何者なの……もしや、私より対魔技能レベルが上の……」

「いや、俺は魔力ゼロなんで。レベルもゼロっていうか、無能力者なんですよね」

「魔力ゼロの無能力者!? そんな、嘘でしょ……」


 藤谷はしばらく呆けていたが、やがてハッと我に返り、真っ赤になって健吾をにらんだ。


「こ、こんな辱めを受けたのは初めてだわ……信じられない……!」

「あ、あの、先輩? 俺もちょっと言いすぎたと思うんで、許してもらえませんか。生徒会長と喧嘩なんかしたくないし」

「私は副会長よ! 会長はあっち!」

「えっ、そうなんですか?」


 てっきり藤谷が生徒会長だと思っていたが、どうやらそれは健吾の勘違いだったらしい。

 傍観者に徹していた古宮が柵の上から降りてきて、ぎこちない笑みを浮かべて言う。


「よく間違われるんだけど、会長は私なの。マリリンの方が目立つし対魔技能レベルも上なんだけどね」

「マリリン?」

「藤谷マリエンヌだからマリリン。ちなみに私は古宮由香里だからユカリンと呼ばれているの」

「こら、由香里! それはあなたが勝手に言ってるだけでしょうが! 一年に変な事吹き込まないで!」


 古宮を怒鳴り付け、藤谷は健吾をキッとにらみ、呟いた。


「あなた、名前は?」

「お、横賀健吾です」

「横賀健吾……覚えておくわ。この私に恥をかかせたのだから、ただで済むとは思わない事ね……!」

「そ、そんな。あの、謝りますから勘弁して……」

「……ちょっと気に入ったわ。私、強い男に惹かれるのよね……」

「えっ?」

「ふふふ、それじゃね。今度、ゆっくりお話しましょう」


 健吾に熱い眼差しを向け、頬を染めながら藤谷はいずこかへ去っていった。古宮も後を追い、姿を消す。

 二人を見送った健吾は首をひねり、椅子に座り直した。


「変な先輩達だな。さて、飯の続きを……うおっ!?」


 向かいの席に座る雨音が眉を吊り上げ、殺意をみなぎらせてにらんでいるのに気付き、健吾は目を丸くした。


「ど、どうしたんだ、天道。怒ってるのか?」

「別に……ちょっとむかついてるだけ」

「な、なんでだ?」

「さあね。横賀君ってやっぱ、年上好きなんじゃないの?」

「?」


 なぜか不機嫌になっている雨音に健吾は首をかしげた。


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