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10.チームワーク


 午後の授業は屋内訓練場で訓練が行われた。

 学園内に複数存在する施設の一つで、天井は高く、人工芝が敷き詰められたフィールドは陸上競技場並みの広さがあり、今日は五つのクラスが合同で訓練を行っていて、その中にはA組の生徒も含まれていた。


「というわけでね。危うく寿命を縮めるところだったのよ」

「は、ははは……そりゃ大変だったな」


 各班ごとに分かれて実技訓練に励む中、雨音は健吾と話していた。

 舞と美絵もいて、二人とも慣れない手付きで魔銃剣を操作する練習を行っている。

 健吾も一応、魔銃剣を手にしているが、彼には魔力がないので武器の機能を作動させる事ができず、適当にいじっているだけだった。


「で、先生の年齢っていくつなの?」

「俺に訊くなよ。前に一度尋ねてみたら、『結婚してくれるんなら教えてあげる』って言われて、それきり訊かないようにしてるんだ」

「じゃあ、結婚しちゃえば?」

「無茶言うなよ!」


 健吾ですら操の詳しい素性は知らないらしい。という事はつまり、二人は親戚などではないのか。


「元はと言えば、あなたが謎だらけだから悪いのよ。魔力ゼロのくせに入学してるし、馬鹿みたいに頑丈だし、魔物を素手で倒しちゃうし。一体全体、何者なのよ?」

「何者と言われても、別に特別な何かってわけじゃないんだけど。あえて言うなら……ナイスガイ?」

「ふふっ、ぶっ殺すわよ、この野郎」

「こ、怖い顔でにらむなよ。冗談ぐらい言わせてくれ」


 怯えた目をしてブルブルと震える健吾にため息をつき、雨音は彼の手を取った。

 袖をまくってリストバンドを露出させ、しげしげと眺めてみる。


「金属製? 今は光ってないのね」

「ま、まあな」


 身を寄せてきて、ペタペタと触ってくる雨音に、健吾は赤面した。

 どうも雨音は警戒心が薄いというか、相手が異性でも構わずに距離を詰めてくる嫌いがある。

 基本的に女性を苦手としている健吾としては対応に困ってしまう。


 健吾が目を泳がせていると、数人の男子生徒がすぐ近くに集まっていて、こちらを見ているのに気付いた。


「おっ、こいつらだろ、一年で最弱の班って」

「そうそう。訓練なんかやっても無駄なんじゃね?」


 声を発したのは、他のクラスの生徒達だった。

 健吾達四人を値踏みするようにジロジロと眺め、小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

 雨音はムッとして、彼らに鋭い眼差しを向けた。


「何よ、あなた達。誰が最弱ですって?」

「いや、天道は違うよ? こんな低レベルの連中と組まされてかわいそうに、って話してたんだよ」

「特にそいつ、魔力ゼロのやつとか最悪だよな。お前さ、恥ずかしくねーの? 俺がお前なら退学届け出してるぜ」


 どこにでもこういう輩はいる。この手の人種は自分より能力が低い者や立場が弱い者を見付けるなり、意味もなく絡み、馬鹿にする事で優越感に浸るのだ。

 雨音はこの手のタイプが大嫌いだった。彼らに冷ややかな目を向け、つまらなそうに呟く。


「恥ずかしいのはどっちかしら。頭悪そうな台詞吐いてないで、自分の腕を磨いたらどう?」

「……なんだと」


 彼らは顔色を変え、雨音を取り囲んできた。

 全部で八人、結構な数だが、雨音は臆する事もなく、余裕の笑みを浮かべていた。


「おい、天道。ちょっと成績いいからって調子に乗るなよ」

「何よ、やる気? 言っとくけど、人数集めりゃ勝てると思ってるんなら甘いわよ。あなた達全員、泣かせてあげようか?」


 魔銃剣を握り締め、雨音が不敵に呟く。

 ちなみに今現在使っているのは訓練用の武器で、内蔵している増幅器や変換器にリミッターが掛かっているため、殺傷能力はない。

 しかし、それでも出力を最大にして使用すれば、人間を気絶させる事ぐらいなら可能だ。

 絡んできた連中は顔を見合わせ、一斉に魔銃剣を抜いた。いくら雨音が相手でも全員で掛かれば勝てると踏んだらしい。

 そこで動いたのは健吾だった。雨音を庇うようにして彼女の前に立ち、正面にいた男の首を片手でつかみ、吊り上げる。


「ぐっ、て、てめえ……は、放せ……!」

「女一人相手に大勢で、恥ずかしくないのか、お前ら。やるんなら俺が相手をしてやるぜ」


 宙吊りにされた男は健吾の腕をつかんでもがいたが、健吾は微動だにしない。

 男の仲間が顔色を変え、健吾を殴る蹴るしてきたが、やはり健吾は平然としていて、逆に暴行を加えた連中の方が手や足を押さえて悲鳴を上げていた。


「い、いてえ、手が、手があ!」

「な、なんだこいつ! 鉄で出来てるんじゃねえのか!?」


 首をつかんだ男が死にそうになっていたので、健吾は手を放してやった。

 彼らは後ずさり、怒りに震えながら怯えきった目をしていた。


「こ、こいつ、魔力ゼロのくせに! いくら馬鹿力があったって魔物には通用しないんだからな!」

「そうだな。でも、お前らの頭を吹っ飛ばす事ぐらいならできるんだぜ。試してみるか?」

「くっ……お、覚えてろよ!」


 健吾が拳を掲げて告げたところ、彼らは捨て台詞を残して退散していった。

 ため息をつく健吾に、雨音が不愉快そうに呟く。


「もう、また余計な真似をして。あんな連中、私一人で十分だったのに」

「いや、天道に任せてたら皆殺しにするだろうと思って」

「しないわよ! さてはいつかの仕返し? 意外と根に持つ方なのね……」


 ヘラヘラと笑う健吾に雨音はムッとして、彼のリストバンドを見つめた。


「それ、全然光らなかったわね。つまり、人間一人を吊り上げるぐらいなら素の状態で可能って事?」

「あ、ああ、うん。さっきのやつ、めちゃくちゃ軽かったからさ。あのぐらいならどうにか……」

「ふうん? どうも怪しいわね……」

「天道を持ち上げようと思ったら目一杯増幅掛けないと無理かもな」

「どういう意味よ! だったらほら、私を持ち上げてみなさいよ!」

「ははは、よせよ、潰されちまう」

「な、なんですってえ!」


 雨音は顔を真っ赤にして眉を吊り上げ、健吾を殴ろうとしたが、普通に殴っても彼には効かないのを思い出し、ぐぬぬとうなった。

 そこで雨音はすばやく健吾の背後に回り込み、彼の背中に飛び付いた。


「ほら、重くなんかないでしょうが! ちゃんと確かめなさい!」

「ちょっ、馬鹿、よせ! しがみつくなって!」


 背中に弾力抜群の柔らかいふくらみがムニュッと押し付けられ、健吾は耳まで真っ赤になった。

 慌てて振りほどこうとしたが、雨音は彼の首に腕を回してしがみつき、離れようとしない。


「どう、軽いでしょ? 軽いって言いなさい! うりゃ、うりゃ!」

「くっ、気持ち良すぎて力が入らない……だ、誰か、助けてくれ!」


 健吾はうろたえ、同じ班の二人に救いを求めた。

 舞は気まずそうに目をそらし、美絵は無表情で眺めるだけで、手を貸そうとはしなかった。


「横賀君と天道さんって、仲いいよね……」

「青春してるわね。そっとしておきましょう」

「お、おい、見捨てないでくれよ! こら、やめろ天道! ひいいいい!」


 四人はそれなりに打ち解けていたが、チームワークについてはイマイチだった。



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