遭遇
(何なんだあいつは…‼︎)
俺は、咄嗟に口を押さえた左手に感謝しながら、必死に呼吸を落ち付けようとした。
(見つかったらまずいってのは明らかすぎるっ。なんだあのやばい生物。どう考えても現実に存在していいもんじゃねえ)
その巨大な狼は、河の中央付近でこちらに背を向けて水浴びをしていた。
ソイツは、俺に気づいている様子はなさそうだった。
だが、俺はソイツを見ているだけで、この巨大生物の、目には見えない圧力のようなものを確かに感じていた。
それは、俺にとっては紛れもなく「死」の圧力であった。
(とにかく身を隠したい…。いつ気づかれるか分ったもんじゃない)
今の俺は、右手とそこに掴まれた枝で草をかき分け、左手で口を押さえ、上半身を草の中から出した状態で静止している状態である。
(ゆっくり、ゆっくりだ……‼︎)
俺は音を出さないように細心の注意を払いながら、上半身を草の中に戻し始めた。
自分の頬を伝わる汗がやけにハッキリと感じられ、自分の関節で骨が擦れている音が聞こえてくる気がした。
長い時間をかけて上半身を草の中に戻し切ったときには、俺はすっかり疲労困憊していた。
心臓がバクバクと脈打ち、全身から汗が吹き出ていた。
俺は息を整え、口内にたまった唾を呑み込みむ。
そして、改めて、わずかな草の隙間からソイツを見た。
狼…な訳がない。
あの4mはあるだろう巨体。
そして何より、
(鱗に覆われた翼……だと)
いやいやいやいや、おかしすぎるだろ。
なんで狼に翼が生えてんだよ。
あんな図体じゃ絶対飛べないだろ。
しかもなんなんだあの翼は。
(まるでゲームとかに出てくるドラゴンの翼みたいだ…)
そう。
白銀の毛に包まれ、背中からはドラゴンの翼を生やす巨大な狼。
まるっきりゲームに出てくる怪物じゃないか。
(やっぱり夢を見てんのか…?)
夢であってくれ。
そうであって欲しいと切に思った。
ジャングルに来たときのように、気づいたときには会社に戻っていてくれたらどんなに嬉しいことか。
しかし反面、あの狼から発せられる「死」の圧力と、なにより自分の心臓の激しい動悸がここが現実だと俺に確信をもたせていた。
(とにかく一旦離れよう。ここにいたら死ぬ)
アイツに気づかれていない今しか、生き延びるチャンスはないと、俺は無意識に気づいていた。
慎重に左足を後ろ向きに踏み出す。
あの「死」に背を向ける度胸は無い。
踏み出した左足に、ゆっくりと体重を預けていく。
(よしっ…、これで一歩)
アイツが気づいた様子はない。
そして同じように右足を踏み出すために持ち上げる。
その時だった。
「ピロリン♪ピロリン♪12時です」
「ピロリン♪ピロリン♪12時です」
やけに大きな音で、俺の携帯から正午のアラームが鳴り響いた。
(やばい‼︎‼︎‼︎)
慌てて携帯の入っている左側のポケットを押さえたが、すでにアラームは止まっていて、痛いくらいの静寂があたりを覆った。
息が止まる。
次の瞬間、爆音が鳴り響き、俺に今までとは比べ物にならないくらいの圧力が叩きつけられた。
すぐに反転しようとしたが、生まれて初めて味わう濃密な死の気配に俺の腰は砕け、足は地面を捉えることは無く、地面に倒れこんだ。
(クソッタレが‼︎)
とにかく立ち上がろうと、頭を上げようとしたその時、甲高い金属音と共に、頭上の植物が全て消えた。
(え……)
そして直後、號と暴風が周囲を吹き荒れる。
(な………)
理解、出来ない。
これは、何だ。
何で植物が消えたんだ。
何とか首を巡らすと、周囲のジャングルは、すっかりと更地になり、細い糸のようなものが大量に空を舞っている。
そしてその向こう側には宙に羽ばたく白銀の狼の姿があった。
(植物が、あの糸くずになったのか?)
ジャングルがすり潰されたのか?
太い樹木も何本もあったジャングルが?
もし、
もし、俺の頭がもう少し上にあったら、もし倒れてなかったら
俺はどうなってた?
もしかして、
死んでたのか?
死。
死ぬ?
「あ、あァァァァアアア、」
俺は死ぬのか?
死ぬのか、、?
この、見しらぬ場所で
家族にも会えないまま……、、
俺は…
お、れ……は…
………
…
「放て!!!!!」
その時、視界の広くなったジャングルに、河上から、赤い煙を纏った弓矢が大量に降り注いだ。
河の上には、いつの間にか一艘の漆黒の船が浮かんでいる。
「ほぉれ、回収してこい」
そんな言葉に応えるかのように、船から黒い影が倒れ臥す男の元へと向かった。
黒い影は男に駆け寄り、男の手首で脈を取り、それから素早く肩に担ぎ上げ、船へと戻って来た。
「生存してます。人族ですね」
「人族だぁ?おいおい、間違ってんじゃねえの」
「しかし、他に生物の気配はありませんが」
「分かってるっつうの、そんくらい。まあいい、シンが離れてる間にさっさとズラかんぞ」
そうして、男を乗せた船は河上へと上っていった。
その黒い影には頭の上に三角の耳が生えていた。
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文才が無さすぎて悲しくなりますほんと。