赤ベルトに見えた唯一の希望。
目覚めた。
いつの間にか私はまた、あの白い世界に
戻っていた。もう1度地上に戻りたかったが、
モニターは何度試してもつかなかった。
「ねえねえ」
隣の部屋の子が私の部屋のカーテンを
ペロッとめくり、顔を出して私を見ていた。
「あ、私なつきっていうの。よろしくね。
ちょっといいかな?」
「あ、うん。私なこ、よろしく」
なつきは、赤ベルトだった。
「これにサインしてほしいんだけど…」
そう言って、名簿のような紙を差し出し、
32番を指差した。
「これなに?」
「生き返り許可証。赤ベルトの人は、ここにいる人全員と室長にサインをもらえたら生き返ることができるの。」
「そ、そうなんだ。(そんなのあるんだ…めろは教えてくれなかったな。室長なんていることも知らなかったなあ。)」
そのとき放心状態だった私は、生き返りたいという思いはあるものの、行動に移す気力はなく、ただ話を聞くことしかできずにいた。
「生き返るって決めてからもう3ヵ月が立つんだけど…地上にいる人の入れ替えとかの関係もあってなかなか集まらなくて…。あともう少しなんだ!」
(入れ替えなんてあるんだ…だからモニターもつかなかったのかな。)
後から知ったが、人によって地上に行ける時間帯が決まっているらしく、行けない時間帯はモニターがつかなくなっているらしい。
「サインするのは全然いいんだけどさ、その前に自殺した理由って…きいてもいい?」
なつきは少し黙ってから、話し始めた。
「私ね、逃げたの。生きづらかったこの人生から逃げたくて。
私のお父さんね、ひどいアルコール依存で酒ばっかり飲んでお母さんに暴力を奮ってたの。
お父さんが暴れて、お母さんは泣きながら毎日暴力を奮われてた。
そのうちお父さんは仕事を辞めて、毎日昼間から酒を飲むようになって。お父さんが仕事を辞めた分、稼がなきゃって、お母さんは家事をしながら仕事もしてくれてた。それでもお母さんだけの稼ぎじゃお金は足りなくて、家は貧乏になった。それが原因で私は学校でいじめられるようになったの。
お母さんはね、きっとこのこと気づいてたんだ。でも、私から話すまで、無理に聞き出したりはしないでくれた。毎日働いて毎日暴力を奮われて…そんないっぱいいっぱいなのに私の心配までしてくれた。すごく嬉しかった。
嬉しかったんだけど、すごく申し訳なかった。
お父さんと離婚しないのもきっと私のためだし、私がいなくなればお母さんを楽にできる。
お父さんがアルコール依存になったのも、もしかしたら私の存在に対するストレスかもしれない。私が消えれば、お父さんのアルコール依存が少しは治るかもしれない。私が消えれば、私をいじめていた子たちのストレスも減るかもしれない。私が消えれば、私が消えれば…。って、自分をどんどん追い込んでいったの。
一人っ子だった私はこの悩みを共有できる兄弟もいなくて…。だから私死にたくなっちゃって。家のマンションの屋上から飛び降りた。
飛び降りた瞬間はすごく気持ちよくて、
あぁこれで楽になれるんだって思った。
でもね地面につく直前に思ったの。
『もう1度お母さんに会いたい。お母さんに抱きしめてもらいたい。』って。
そう思ったときにはもう遅くて、気づいたらここにいた。そんな迷いがあったせいか、私は
死にきれなくて…頭を打って脳死になった。
私がここに来てから初めて地上に行ったとき、お母さん…すごく泣いてくれてたの。
その瞬間すごく後悔して、その場で何度もごめんなさい、ごめんなさいって言った。届くはずないんだけどね。
そのとき私気づいたの。逃げちゃだめだって。生きなきゃって。」
気づいたら、なつきはボロボロ泣いていた。
聞いているだけで辛い話だった。
でも、私は何と声をかけていいのかわからず、
ただただなつきの背中を撫で続けた。




