召喚
学校が終わり、いつも通りの道で家へと向かう。時刻は19時30分。この時間になるのは部活をしている訳ではなく、生徒会長としての仕事を終わらせているから。
勘違いしてほしくないのだけれど、僕は別に真面目で正義感が強い訳ではない。ただ、周りの人間と同列で居たくないだけ。運動だろうが勉強だろうが、さらには容姿ですら、自他共に認める程度には他に勝っている。
そりゃもちろん大学の教授より優れているかと聞かれればそんな訳はないし、運動部に技術で勝てるかと言われたら勝てるわけがない。
だけど全国の同年代の学生の中では一番勉強はできるし、それは全国模試一位という結果からも分かってもらえると思う。運動に関しては技術ではそれを専門としている人達と比べたら劣るものの、基礎的な身体能力やセンスでは負けてはいない。
まあそんなわけで、生徒会長をやっているのは他人より優れている者が人の上に立つのは当然であるからだ。
さて、そんないつも通りの帰り道。
僕の家は学校から少し遠く、片道一時間くらい。なので家の近くに同級生が住んでいるということがなく、いつも一人で帰っている。
「……っ」
結果から言おう。
今日はそれが災いした。
僕の目の前に突然光る扉が出現した。完全な不意打ちだったために光をもろに受けてしまい、眩しくて目が開けられない。
とりあえず下がろうとしたら、なぜか下がれない。それはそうだ。扉の方から何かに引っ張られているんだから。
こうして僕は抗うことができず、その意味不明な扉の向こうへと連れていかれた。
目を開けると、そこはどこかの室内だった。壁も天井もある。そして後ろを振り返ると、そこにはいかにも王様って感じの人、その隣には恐らく王妃様が座っている。
その他にもちらほらと鎧を着て腰に剣をぶら下げている騎士?のような格好をしている人がいる。ここはコスプレ会場か?
「そこのお主、名を名乗れ」
王様?が話しかけてきた。
いきなり現れたであろう僕に対して驚いてないことから、この人が僕を呼び出したんだろう。……ふざけやがって。
「なぜ、名乗る必要が?」
「貴様!無礼だぞ!」
「うるさい、お前には話しかけてないだろ」
僕が挑発的に返すと、近くにいた騎士が怒鳴り散らしてくる、が、一蹴。まあこれはあれだ、恐らく勇者召喚とかそういう類いの物だろう。
先程も言ったが、僕は真面目な訳ではない。勉強ばっかしてた訳じゃないし、ゲームに漫画に小説等々幅広く趣味を持っている。だからこのくらいのテンプレなら理解できる。
だけど、だからと言って受け入れられる訳ではない。
「知っているとは思うけど、僕は変な扉のせいで他の世界からここへ来た。元の世界でもこういう類いの話はたくさんあったし、まあなんとなく呼ばれた理由も理解できる。が、僕にも生活と言うものがある。向こうでは家族円満だったし恋人もいた。いい友人にも恵まれ、進路が決まり、ようやく夢に向かって歩き出せるところだった。それを潰したお前らの言うことを何故聞かなければいけないのか」
ふう。割と一気に喋ったけど、息切れとかはしない。まあよく人前で話してたしね。あ、ちなみにこれ全部本当の話だからね。
僕は人を見下したりはするけど、信用も信頼も恋愛も人並みにはする。あまり関わらない人にはそう見えないようだけど、仲のいい人にはかなり感情が分かりやすいらしい。
「ふむ、確かにお主の言う通りじゃな。私たちはお主の、そしてお主と関わりのあった人間の生活を奪った。それについては謝罪しよう。だが、こちらも理由があってそうした。分かれとは言わぬが、話だけでも聞いてほしい」
僕の言葉に対して、王様はそう返した。正直な話、王様ってのはもっと傲慢なのかと思っていた。だけどそうでもないみたい。話を聞く前から話を引き受けるつもりはないけど、聞くだけ聞いてあげよう。
「…わかった。でも、引き受けると決めた訳ではない」
「感謝する」
王様は僕のそんな言葉にも気分を害した様子もなく、語り始めた。
「この世界には、魔王と呼ばれる者がおる。魔王とは魔族と呼ばれる者達の長であり、人族と長年侵略しあっている。原因は恐らく人族の侵攻。これは残っている文献などから分かったことじゃ。だけどのう、だからと言って無抵抗にやられる訳にはいかんのじゃ。しかしここ数年、魔王自らが出陣していることで人族が押されておる。そこで古より伝わる勇者召喚という方法をとらせてもらったわけじゃ」
なるほど。まあ、理解はした。納得はしないけど。この人達が同じ種族であろうがなんだろうが、僕には関係ない。なんせ他の世界の住人だし。この時代の人間が悪い訳ではないけど、まあ自業自得だろう。
「つまり、僕に死ねと。戦争どころか命の危険そのものに遭遇する確率がかなり低い場所で育ったたった一人の少年に、つねに命をかけて生きてきた人達の、ましてやそんな世界で一番強いやつの相手をしろと。あんたらバカじゃないの?まあ、召喚されたときに僕に何か特別な力とかが宿ったんだろうけど」
まったく、冗談じゃない。
王様は一切目を逸らさず、こちらを見ている。
「まあ、そういうことになるのう」
そして、こう言った。