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昔々あるところに

昔々あるところに_011

作者: イカエル

昔々あるところにモグさんという貧しい青年がおりました。


あるとき、夜道を歩いておりますと、ひたひたとつけてくる足音が聞こえます。


ふと後ろを振り返ると、恰幅のいい紳士が歩いておりました。

ライトグレイに縦筋の模様。

ベルベストのスーツを着た中年の男性です。

千鳥足で、ふらふらと歩いており、やや出来上がっているように見受けられました。

モグさんに向かって手を挙げ「よおっ」と言いました。

面識はありませんでした。


『誰?何の用だろう……』モグさんは不思議に思いました。

紳士は、角を曲がると、夜の街、ネオン街のほうに消えてゆきました。

それからしばしばモグさんは紳士を見かけるようになりました。

喫茶店ベロンチェに入ったときは、斜め向かいの席にその男が陣取っていました。


隣に、白いブラウスを着た、派手な化粧の女をはべらせ、なにやら楽しそうに談笑していました。

そして、モグさんを見つけると「よおっ」と手を挙げて店を出て行きました。

商店街で買い物をしていたとき、紳士は赤いポルシェに乗り、排気音を立てながら表通りを徐行、「よおっ」と言いながら去っていきました。

モグさんは、いつも気まずい感じを受けました。


それは次第に訳のわからないいらだちに変わり、徐々に怒りの感情になってゆきました。


-------------------



ある日、自宅に戻ると、男が居ました。

座椅子に座り、テレビを見ていました。

男は、いつも通り「よおっ」と手を挙げました。


「あんたは、一体何だ。いつもボクをつけて回って……失礼だ。それに、これは不法侵入だぞ!」

モグさんは語気を強めてそう言いました。

「まあ、そうかりかりせんと」男は関西弁で、したてに出ました。

「それより、えろう腹がすきましたなあ。なんぞ食べまへんか?」

そう言われるとモグさんも突然猛烈におなかがすいてきました。

我慢できなくなって、流しに行き、カップ麺を作り始めました。


男はモグさんの家の電話を取り上げ外に掛けていました。


「何をしているんだ?」モグさんはそう言いました。

「はあ、出前でんがな……」

ほどなく寿司屋の出前が来ました。

「特上寿司、三千円ですな。おおきに」


そう言って男はモグさんの財布から千円札を三枚抜き取って配達員に渡しました。

「何をする!人の金を」モグさんは怒鳴りつけました。

「まあ、そうかりかりせんと」男は言いました。

するとモグさんは不思議と、反抗する気力がいっぺんに消え失せました。

「あんたは一体何者??」

唖然とするモグさんを前に後に男は寿司をぺろりと平らげておもむろに立ち上がり、

「ほな、また……」そう言い残して帰って行きました。

「あのやろう。疫病神だ」モグさんは悔しくてたまりませんでした。


『あんなやつ死ねばいい』そう思いました。

それから数日、男は現れませんでした。


-------------------


『ようやく疫病神から解放されたか』モグさんはほっとしました。

しかし、牛丼屋で、並どんぶりを食べていたとき、異様な雰囲気を察知しました。

みすぼらしい、乞食のような身なりの中年男が、モグさんの後ろに立っているのです。

男は何をするでもなく、ただモグさんの真後ろに突っ立ってじっと見ていました。

『また新手がやってきたか』そう思ったモグさんは男に向かってこう言いました。

「あんたに恵むモノは何もないよ」

しかし男は言いました。

「いや何もいらないのです。私はこうやってあなたを見ているだけでいいのです」

「変な奴だ」

しかし男はその後、頻繁に現れるようになりました。

喫茶店ベロンチェに入ったとき、モグさんの真後ろに突っ立っています。臭いし、みすぼらしいし、邪魔で仕方ありません。


「お連れの方は?ご注文は?」店員が男に聞きました。

「いや私は何もいらないのです」男はそう言います。

「いや、当店は何か注文していただかないと……」

「では水を一杯ください」

「はあ……」


モグさんはさすがに顔から火の出るほど恥ずかしく思いました。


「あんた、ボクにつきまとわないでくれ」きっぱりと言いました。

男は水を一杯飲むと、店を出て行きました。

ある日、自宅に戻ると、みすぼらしいその男が正座して待っていました。

「なんだなんだなんだ、不法侵入だぞ!」モグさんは言いました。

「あんた、あの太った男の仲間か?」

「いいえ、私は福の神であります。」そう言いました。

差し出した名刺を見ると


【(株)天運 /福の神/福福太郎】とありました。

「福の神。すると数日前までボクをつけ回していたあの太った男は」

「あいつは貧乏神であります。あなたの運勢を勝手に使って、

人生を謳歌するダニのような汚い奴らです」

「ふうんそうか。じゃあの貧乏神はいったいどうしたんだ?」

「貧乏神のやつは、放蕩無頼が過ぎて肝臓を壊して寝ています。


それで私が派遣されたのであります」

「ふうんそうか、でも福の神と言うからには福を与えてくれるんだろうな」

「もちろんであります」

男は一枚の紙を出して

「領収書です」そう言いました。

見ると、【総合運72/金運92/異性運65/仕事運59】と書いてありました。

「これは、あなたがここ一ヵ月間、節約した福運の目録であります。

今日はあなたのチャージした運勢を払い戻しにやってきました」

「そうか、福が戻るのか」モグさんはうれしくなりました。

「そうです、福運は元来た道を戻るのです」

そう言って男は領収書にふうと息を吹きかけたのです。


すると、領収書はキラキラキラと輝いて、その光る玉は、男をすっぽりと包みました。


次の瞬間、男は、立派な服を着た、笑顔の紳士に早変わりしていました。


「あ、おまえは!」モグさんは驚きました。あの太った男がそこにいたのです。


「福をもらって、貧乏神から福の神に戻れました。ありがとうございます」

そう言うと、男は去ってゆきました。




あああああああああああああああああああああああああああああああ


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