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ギャラクシー・ヴォイス  作者: BUTAPENN
ギャラクシー・ヴォイス
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Galaxy Date


『火星にようこそ。

こちら、クリュス航宙ポート管制ステーション。ステラ管制官です』

 通信回線の向こうから、事務的な女の声が聞こえてくる。  キャプテンが、罵詈雑言まじりのイライラした声で応答した。

「こちら、YX35便。ポートへの誘導を要請する」

『了解しました。進入航路を確認いたします』

 ポートまでの誘導路のように4000km続く『マリネリス大峡谷』。その赤茶けた岩肌をはるか眼下に、YX35はゆっくりと降下していく。



 管制ステーションの誘導にしたがって、貨物シップはドッキングトンネルに進入した。

 牽引用のタグアームにからめとられ、吸い寄せられるように船体はロックされる。衝撃はほとんどない。

 ドッキングのあいだ、一度も姿勢制御用ロケットを噴射しなかった。キャプテンの操船術は相変わらず神業だ。これほどの腕を持つ彼が、内宇宙一周クルーズ用の豪華客船の船長や、銀河連邦軍の将校にならなかったのは、訳がある。

 ポートスタッフによる外壁の放射線洗浄が終了し、貨物の搬出が始まったあとも、キャプテンはじっと席に座ったまま、操縦レバーから手を離さない。

 いや、離せないと言ったほうがいい。こわばった手の指がレバーに貼りついてしまっているのだ。



  航宙大学の教官が宇宙一のパイロットだと口を極めて誉めるレイ・三神船長。僕が彼にあこがれて、卒業後すぐ彼の貨物シップに新米操縦士として雇ってもらったのは2年前だった。

 乗船しているときのキャプテンはいつもハイテンションで、あたりの者を罵りまくり怒鳴りまくり、女と見れば尻を触りまくる、どうしようもない俺様男だった。なのに、いったんシップを降りると口数の少ない理知的な男に変貌するのは何故なのか。

 やがて、見習い時代から彼のことを知っているという古参のエンジニアの爺さんが、その訳をこっそり教えてくれた。

「やっこさんはな、宇宙が恐くて恐くてたまらないんだよ」



 30年前、木星系から帰還する途中の調査移民船が隕石に巻き込まれて爆発した。彼はそのただひとりの生き残りだったのだ。暗黒に対する極度の恐怖心から、それから何年もの間、心理治療を受けなければならなかったという。

 それなのに、どうして航宙士という職業を選んだのか、僕にはわからない。だが今でもキャプテンは、宇宙と、そして自分と戦っているのだと思う。僕たちクルーは、そんなキャプテンに心底ほれちまったヤツらの集団だった。



 ポートから地上へ降りるエレベーターの中で、僕たちは2ヶ月ぶりの火星の夜の街に繰り出す相談で、大騒ぎしていた。

「キャプテン、ユナちゃんが一億キロの彼方だからって、浮気しちゃだめですよ~」

 シップの上で言ったら瞬殺されそうなセリフも、船を降りた今なら平気で言える。

 白鳥ユナは、クシロ航宙ポートの管制官で、キャプテンの恋人。たぐいまれなる『ギャラクシー・ヴォイス』の持ち主だ。

 彼女の「ようこそ地球へ」という声が聞こえると、僕たちはまるでずっと息を殺して待っていた子どもみたいに、ほうっとふるさとへ帰った喜びに包まれるのだった。

 彼女に出会ってからのキャプテンは、少し変わったと思う。地球との交信中、いつもの下品な口調で彼女をからかいながらも、ときおり安堵した無邪気な表情を浮かべるときがある。

 キャプテンはもうひとりで戦わなくてもよくなったのかもしれない。

「そう言えば、今度帰ったとき、ユナちゃんを膝の上に乗っけて、宇宙を見せてやるって約束してましたよね」

「月までのデートなんかいかがですか? 近いから、宇宙貧血に弱いユナちゃんにも楽だし」

「これがほんとの『ハネムーン』、だなんてねっ」

「あ、そういえば静かの海に新しくできた「クリスタル・チャペル」で式をあげるのが、今女の子たちのあいだであこがれみたいですよ」

 黙って苦笑しているキャプテンをいいことに、僕たちはしゃべりまくった。



 まさか、その冗談が本当になるとはつゆ知らず。





このエピソードは、自サイトでは、別の方との合作でしたが、「なろう」では、合作部分を削除して掲載しています。もしよろしければ、

下記サイトへどうぞ。

http://butapenn.com/galaxy/date.html

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