第7話 不本意な一騎打ち
「だーかーらー、何度も言うが盗賊は縛られていたやつらで……」
「黙れ! 言いたいことがあるなら私に勝った後に言うが良い!」
なぜリーザが神殿を苦手としているか俺にも理解できた気がした。
あのあとなぜか成り行きで一騎打ちをすることになってしまった。
女騎士の装備は片手剣と中型の盾で鎧は非常に重厚な金属鎧である。
つまりは典型的なナイトであり防御力が高いところまでは容易に予想がついた。
よく見ると鎧と盾には何か十字をあしらった文様のようなものがついているがそれについて深く考える時間はなかった。
「まあ頑張るのじゃ、怪我しても治療費は出すからの」
できれば怪我だけで済むことを祈っておこう。
「なあ、頼むからとりあえず話を……」
「よし、良き戦いにしようではないか!」
まるで聞いちゃいねえ。
「おいおい、相手の話聞かねえと嫌われるぞ?」
「減らず口を……叩くな!」
鋭い剣の一閃を間一髪回避しその隙を見計らいこちらからも一閃を返す。
その一撃でフィーネは後方に吹き飛ぶがダメージは鎧によりほとんど防がれてしまったようだ。
当たってもダメージが通る気がせず向こうの一撃は食らうとほぼ間違いなく痛い。
どう考えてもレベル違いの無理ゲーである。
「アカツキ! 避けるのじゃ!」
リーザの声に反応しその場を慌てて飛び退く。
するとついさっきまで立っていた場所に光が集まったかと思うと大爆発を起こした。
「神聖魔法か。気をつけろ、今のをまともに食らうと骨の数本は砕けておったわ」
「真剣勝負に口出しをするな! 次に余計なことを口走れば貴様も斬る!」
「わかった、言いたいことは最後にまとめて言わせてもらおうかの」
できれば今言うべきことを言って欲しかった。
しかしこの女騎士は戦わないと話すら聞いてくれないタイプだろう。
「さあ、貴様の本気を見せてみろ! 私の全力を持って答えようではないか!」
「ああ、いいぜ。だったら受け取りやがれ!」
太刀を構え全力で女騎士に向けて突進する。
ちなみに全力といっても所詮意識の問題で技なんかを使ったわけでもない。
そして当然予想通りというかなんというか、俺の全力はあっさりと盾で受け流されてその勢いで俺は転倒した。
「格好悪いのう」
茶をすすりながらリーザにダメ出しされる。
「どうやら私の見込みは思い過ごしだったようだな……」
女騎士がゆっくり近づき俺に向け剣を突きつける。
「貴様の負けだ、何か言い残すことは?」
「そうだな…… 敢えて言うとすれば……」
右手をグッと握り込む。
「油断大敵……かな」
右手に握りこんだ砂を顔めがけて思いっきり投げる。
「なっ!?」
避ける暇もなく砂が目に入り狼狽する女騎士。
「しまった! 目が……」
「これで終わりにする!」
「くっ…… させるかぁ!」
空を斬る二つの太刀筋。
それらが音を立ててぶつかり合う。
そして同時に乾いた音と共に弾け飛び静寂が周囲を支配した。
■■■
「つまりは貴公らは善良な一般市民で野盗を捕らえ神殿に突き出すところだったと」
「だから何度もそう言っているだろうが……」
「本当に申し訳ない! 善良な一般市民を悪党呼ばわりしてしまうとは!」
土下座スレスレの姿勢で謝る女騎士。
なら最初から話を聞けよ……
「全く、これだから神殿は」
「え、やっぱり神殿の騎士なの?」
「うむ、奴の装備はイシュトリアの神聖十字騎士団のものじゃ」
「その通り、私は神聖十字騎士団団長エルナ・ベルネットだ。貴公らの名は?」
「ああ、俺はアカツキ」
「わしはリーザじゃ」
「アカツキにリーザか、先程は申し訳……」
「ちょっと待て、ついスルーしたけどさっきなんて言った?」
「だから先程は申し訳なかったと」
「そのちょっと前だ」
「エルナ・ベルネット……」
「もうちょっとだけ前」
「私は神聖十字騎士団団長」
「そこっ! お前団長なのかよ!?」
「ああ、その通りだが…… なぜそんな顔をするのだ?」
リーザと二人して開いた口が塞がらない。
このスットコドッコイが団長で神聖十字騎士団大丈夫なのかとか俺はそんなのと戦っていたのとか言いたいことは山ほどある。
リーザも
「これだから神殿は」
と再びぼやいていた。
「しかしあの状況をひっくり返す戦術があるとは…… 砂をつかみ敵にかけて視界を奪うなど私には到底考えつかない」
「なんかすいません」
「いや、これは褒めているのだ。しかしなかなかの太刀筋だった。君も騎士団に入らないか?」
「こちらからお断りじゃ」
リーザが口を挟む。
「というかお主、わしを知らぬのか? 神殿の重要関係者ならわしの名ぐらいは知っていると思っておったが……」
「いや? 聞いたことはあるかもしれぬがそれを覚えきれぬものでな」
「うむむ、嬉しいような悲しいような複雑な気分じゃ」
「おーい、俺たちを無視しないでくれー……」
悲しい叫びがこだまする。
そういえばいたことをすっかり忘れていた。
「とりあえずお主にこいつらは預けようと思うのだがそれで良いか?」
「それで良い。ああそうだ、良かったら君たちも一緒に神殿に来ないか? 報酬も出ると思うし私からもお茶ぐらいなら出せる」
「それは断る理由がないな。ぜひ同行させてもらう」
「ちょ、待つのじゃ!」
リーザに引っ張られてエルナから少し離れたところに連れて行かれる。
「わしは神殿など行きたくないぞ!? 面倒事はゴメンじゃ!」
「そう言われても俺としては神殿がどんなとこなのか詳しく知りたいとかいろいろあるんだよ。それに神殿とはコネを持っておいたほうが最終的には便利だと思うからな」
「確かにそうじゃが…… うう」
「それに神殿に話を付けるにもいい機会だと思うぞ。今を逃せば旅先でも延々と干渉を受け続けるかもしれねえな」
「……」
無言で再び俺の服を引っ張りエルナのもとへ戻るリーザ。
「……不味い茶を飲まさせたら許さぬぞ?」
こうして俺とリーザはエルナに連れられ神殿の総本山へ向かうことになった。