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第10話 愛とは時に重いもの

微エロありです。

 空を飛んでいる間はとてつもない時間が過ぎた気がする。

 頭に血が登り意識が朦朧としてきた。

 なぜ俺ばかりこんなロクでもない目にあうのか、神様がいたらぶん殴ってやりたい。

 やがて高度が下がっていることに気づく。

 どうやら森の開けた場所に着地するらしい。

 ゆっくりゆっくりと高度が下がり俺は地面に肉薄する。

 そしてまた時間をかけてものすごく慎重丁寧に俺は地面へと転がされた。

 もう疲れて起き上がりたくないがそうも言ってはいられない状況なので目眩を強引にこらえながら立ち上がった。


「大丈夫?」


 パタンと倒れ気絶したふりをする。

 だって起きたら目の前にドラゴンの顔があってしかもそれが女声で話しかけてくるとかインパクトが強すぎて現実逃避したくなる。

「ああっ 寝たふりなんてしないでよー」

 しかし げんじつからは にげられない!

 覚悟を決めむくりと起き上がった。

「何の用だ? 返答によっては戦闘も辞さない」

「別にいいけど…… 私すごく強いよ?」

 見栄やハッタリといったものではなく単純な事実なのだろう。

 とりあえず太刀を地面に置き戦闘の意思は全く無いことを示す。

「いいよ別にそんなことしなくても。あなたと戦おうなんて微塵とも思っていないから」

「じゃあ何故こんなところへ俺をさらってきた? そもそもお前はなんだ?」

「聞きたいことが多いのね。じゃあひとつずつ聞いてあげる」

「そんじゃ初めにお前はなんて名だ?」

「カメリアって名前よ」

「一丁前に名前持っているのか、だったらこの行為に及んだ理由をできる限り簡潔に頼む」

「それを話すと長くなるんだけどね。まずあなたと初めて出会ったのはあの森の中でだったよね」

「ああ、確か剣が刺さってたやつか」

「そうそれ。その時の貴方の行動にものすごく惹かれちゃって……」

「へ?」

「私って人間大好きだから人間とは戦いたくないのに私の姿を見ただけですぐに敵意を向けてくる血の気の多い冒険者が多くって。しまいには剣を突き刺してくるし…… はぁ……」

 ドラゴンの吐息が顔にかかる。

「でもあなたは違っていた。私を見ても全く恐れず武器を捨てて対話しようとした。その上私に刺さっていた剣を抜く優しさも持っていた。私はあなたみたいな人間をずっと望んでいたのよ」

「今思えば愚業だと思うがね。あんたじゃなきゃ食われても文句は言えなかったさ」

「謙虚なのね。でもそういうところも好きよ」

 つまりは結果オーライというやつか。

「でも喋れるんなら剣抜いてくれって言えばいいのに」

「それはちょっとプライドがね…… それに少し試していたってのもあるし」

「面倒くさいんだな、お前」

「それからあなたに惹かれた私はそれからずーっとこっそりあなたを影から見守っていた。盗賊とか女騎士なんかと戦ってる時のあなたはすごくかっこよかったわよ」

 人はそれをストーカーと呼ぶ。

 まあ、気づかなかった俺も結構問題がある気がするが。

 で、今までスルーしてきたことを聞いてみることにした。

「もしかしてお前ってさ、人間に化けられるのか?」

「そうよ。見る?」

「というか最初からそっちの姿でいてくれ。鼻息が気色悪い」

「結構歯に衣着せないのね、あなた……」

 するとドラゴンの輪郭が歪み薄れていく。

 やがてその場からドラゴンの巨影は消え失せた。

 そして代わりに先ほどまでドラゴンのいた場所にはあの道具屋で出会った少女がいた。

 ――それも全裸で。

「あんただったのか。しかし随分と可愛く化けたもんだな」

「見た目が良いほうが何かと得だからね。……ところでなんで後ろ向いてるの?」」

「今のあんたはまぶしすぎる、それも直視できねえ程に……」

「ねえ、アカツキ君」

 ムニュ

 カメリアは俺の首に後ろから手を回す。

 その時柔らかい物が背中に当たる。

「――これは何の冗談だ?」

「冗談じゃないよ。あなたを追っていくうちにあなたという人間に惚れたんだから。 ……責任とってよね?」

「そりゃあ悪かった、謝るよ」

「ちーがーうー 女の子を惚れさせた責任の取り方なんて一つしかないでしょ?」

 カメリアは首に手を回したまま俺の正面に回りこむ。

 その艶かしい裸体と押し付けられて潰れた豊満な胸に思わず目が釘付けになる。

「私ずっと前から好きになった人からやってほしいことがあったのよね。何かわかる?」

「分かんねえな」

「じゃあヒントあげる んっ……」

 そう言うとカメリアは目を閉じこちらに口を突き出してきた。

「…………」

「……んっ」

 さらに顔を近づけてくる。

「‥‥‥‥‥‥」

「……もうっ、キスして欲しいのよ! お願いだから早くやってよ!」

「いや、何をして欲しいか分からないわけじゃねえんだ」

「じゃあ何で? 私じゃ不満なの?」

「そういうわけでもない。お前は本当に可愛くて色気のあるやつだと思っているよ。ただ俺がちょっとな……」

「大丈夫、あなたぐらいかっこいい人になら何をされていいよ」

「そういう意味じゃねえんだ。ただちょっと…… 痛くて……」

「へ?」

「畜生…… 情緒もクソもねえぞバカ野郎共が……」

 カメリアを突き放し背を向け後方の茂みに向き直る。

「!? その背中……」

 俺の背には数本の矢が突き刺さっていた。

 見て驚くのも無理はない。

「へっへっへ…… ガキのくせに調子に乗るからこうなるんだよ!」

 茂みより弓を持った数人の男と立派な剣を持ったリーダーらしき男が現れる。

「その女を渡せばお前の命は助けてやる。おっと一歩でも動いたらまた矢が刺さるぞ。もしかしたら手元が狂ってその女に当たっちまうかもなぁ」

「外道が……」

 多分こいつらは目の前の少女の正体を知らないのだろう。

 だがそれでもなお俺はこの少女を守らないといけないという強い思いが心を支配していた。

「少し時間をくれてやる。その時間でその女をこっちに渡すか殺されるかさっさと選べ」

 リーダーらしき男は不愉快にニヤニヤ笑った。


「アカツキ君大丈夫!?」

「心配するな、まだ死にはしないさ」

「もう、なんで黙っていたのよ!」

「悪いな。あんな状況じゃどうしても言い出しにくくってさ……」

「それってつまり…… 私のせい?」

「阿呆が。そんなもん俺の責任に決まっているだろうが」

「……ふふっ」

「何がおかしい?」

「ごめんね、やっぱりあなたって根っからかっこいい人なんだと思って」

「はあ? それってどういう……」

「時間だ。選択は?」

「悪いけどあなたたちはタイプじゃないからこちらからお断りさせてもらうわね!」

「ほう、ならばその男を痛めつけて気が変わるようにしてやろうか。撃て!」

「おい、ちょっとま」

 一斉に矢が放たれた。

「ファイアウォール!」

 直後俺の前方を覆うかのように炎の壁が発生した。

「な、なんだと!?」

 矢は次々と炎の壁に飲み込まれていき……

 そして勢いそのまま燃えた矢が俺に向け殺到した。

「なんでだよ!」

 とりあえず太刀を拾いいくつかは弾き返したもののまた数本の矢が体に突き刺さった。

「おい…… なんで無駄にダメージ増やしてるんだよ……」

「ご、ごめん! 燃やし尽くしてしまおうかと思ったんだけど……」

「仮に燃やし尽くしても矢尻が飛んでくるだろうが!」

「よくわからないが効いてるようだな。ならば2発目を……」

「させないんだから! サンダーボルト!」

 今度は雷が敵の上方より何本も降り注ぐ。

「おいっ! うろたえ…… うわあああ!」

「助けてくれー!」

 今度はさすがに効いたらしく敵はまとめて雷に打ちのめされる。

「馬鹿な!? これはまずい!」

 リーダーらしき男が逃亡しようとするのが見えた。

「逃がすかよ!」

 太刀の鞘を全力で投げつける。

 回転しながら飛んだ鞘は見事に男の後頭部を直撃した。

「投げてみりゃ当たるもんだな。さて、俺をコケにした報いを受けてもらおうじゃねえか」

 地面にうつぶせに倒れ付している男の顔面の上空に足を持ち上げる。

「これが…… 報いだ!」

 男の後頭部めがけて全力で踏みつけた。


■■■


「それでわしらの旅に同行したいと?」

「うん、いいでしょ?」

「そう言われてものー……」

 あれからしばらくしてなぜかリーザとエルナがやってきた。

 リーザの話によればなんでも以前神殿に突き出した盗賊がリーダーとアジトの存在を吐いたらしくその場所がちょうどカメリアが俺を連れて行った方向と一致していたとのこと。

 そこでとりあえずそちらの方角へ行ったら偶然この状況に居合わせて無事合流に成功したとのこと。

 盗賊たちは全員が神殿からの応援に回収された。

 俺の傷も回復薬によってある程度は楽になった。

「しかしあのドラゴンがこのようにコンパクトになるとは…… 世界は広いのぉ」

「えー もっと褒めるべきところがあるんじゃないの?」

「アカツキ殿申し訳ない! 君を守ることができなかった! この詫びは私の命で……」

「いや、いいから! そんなことで死なれたらこっちが胸糞悪いわ!」

 女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。

「とにかく私はアカツキ君と一緒に旅したいの! ね、いいでしょ?」

「そうは言われても今ひとつお主は信用できぬ」

「何で? 理由を教えてよ!」

「君はアカツキ殿をさらった前科があるだろう? 理由も理由だしまたアカツキ殿をさらって強引に駆け落ちされたらたまらないからな」

「同意じゃ、その上お主は魔物じゃからな。話が通じるからといって安易に全面的に信用はできぬ」

「…………」

「……別に仲間にしてもいいんじゃねえのか?」

 横から口を挟む。

「こいつの根が悪い奴じゃないのは俺が保障するし戦力としても十分だ。それにまあ…… 好かれている相手を無下に扱うわけにもいかないしな」

「アカツキ君……」

「アカツキ殿がそう言うなら私は反対しないぞ」

「なんじゃと?」

「そもそも私は護衛だ。護衛対象の内情まで首は突っ込まない。個人的には反対しているが私の意見はないものと扱ってくれても構わない」

「むむ、するとわしの方が少数派か……」

「お願い! 絶対に迷惑をかけないで皆の役に立つから! 特にアカツキ君の役に立ちたい!」

 カメリアは横から俺に抱きついてきた。

 言い忘れていたがカメリアは今も裸のままだ。

「のうアカツキ、もしやそやつの色香に篭絡されたわけじゃあるまいな?」

「それはない……と思う」

「……まあ、今回はわしが折れるかの」

「と、いうことは?」

「カメリアよ、お主の同行を認めよう。ただし迂闊なことをすればすぐに追い出すからの」

「やったあ! アカツキ君愛してる!」

 カメリアにさらに力強く抱きしめられる。

 というかドラゴンのパワーで抱きしめられ窒息死しそうになる。

「ちょっ、苦しっ…… 死ぬ……」

「おい、助けないのか?」

「愛というものの重みを知る良い機会じゃ。しばらく様子を見ようではないか」

「よくわからないがそう言うのならそうなんだろうな」

「もう絶対に離さないんだから。ずっと一緒だよ!」

「誰か助け……」


 こうしてドラゴンのカメリアが仲間になった。

とりあえず一区切りです。

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