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魔法より愛だ! あ、これ劇の名前です

 兄が小説家だという噂が学校には広まってしまい、クラスメイトは当然のように、また見た事も無い下級生からも、兄へ『劇のリクエスト』な手紙を何枚も貰う。

 私はそれらを兄に渡すため、何度も兄と会話する羽目になった。

 

 兄は相も変わらず家に引きこもってはいるけれど、私が起きている時間にも台本を書いているらしく、『劇のリクエスト』の手紙を渡す際に部屋を訪れてもブックシャワーをする機会はなかった。

 それがかなり悔しい。

 また小説と劇の台本では勝手が違うらしく、中々にてこずっている様子だった。

 そんな兄を見て『まずはあらすじで良いって言ったじゃん』等とは言えずに、感謝してしまった自分が凄く悔しい。


 狩野君は『親友の転校生』から『親友のクラスメイト』に順調に変化していき、一週間が経つ頃には私たちのクラスに完全に馴染んでいた。

 その一方で、私はあの手紙の事も聞けずに、狩野君の方からも手紙について何のリアクションも無いし、気が付けばどうでも良いかなと思うようになった。

 

 毒子ちゃんは「お兄さんの書いた劇をやる覚悟は出来たかい?」等と同情と好奇の表情で質問してくる。

 この機会に兄への興味が強まったらしい。

 ただあの誕生日の事については全く触れないでくれている。

 

 村ちゃんはもっと兄への興味が強まったらしい。

 特にペンネームについて知りたがっていた。

 月曜日のミーティング以降、時折陰ちゃんになりながらかなり厳しく私に追求してくる。

 もちろん私はいつものように「どうだろうね~?」とその追求を受け流している。

 

 演劇部の方は、浮き足立ちながらも普段通りの練習をする一週間となった。

 義理姉さん作戦を遂行するに当たり、まず斉藤先生に兄が学校に来ても良いか聞いた所、外部指導員なる役職があるらしい。

 そのための書類を兄に書いてもらった。




 そうして一週間がすぎ、ついに劇の演目を決める月曜日。

 兄が登校する初日という事もあって、校門前で待ち合わせの約束をしている。

 私は帰りのホームルームが終わって直ぐに向かおうと思ったのだけれど、教室を出る所を斉藤先生に呼び止められた。


「舞子ちゃん。今日はお兄さんが来る日でしょ?」


「えぇ。これから迎えに行こうかなと思っています」


「なら、私も一緒に行くわ。入校許可の名札も渡して無いし」


 そう言って斉藤先生は、首紐付きのプラスチックケースに入った名札をポケットから取り出し、微笑んだ。


「それに見知らぬ大人がうろついていると、みんなに不安を与えるかもしれないでしょ」


「確かに。お兄ちゃんって見かけ不審者だし。

 中身もだけど。

 先生と一緒なら変質者と思われないかもしれないですね」


「そんな事無いわよ。素敵だと思うけどなぁ」


 そんな会話をしながら、斉藤先生と歩く廊下は、出会う人全てが頭を下げて挨拶してくれるので、ちょっとだけ私自身が偉くなった気がする。

 ただ先生は玄関前で、教頭先生に捕まってしまったので、私は先に校門に向かう事にした。


 校門前に着けば、狩野君がいた。

 門の石柱、敷地の外側に寄りかかり、遠くを見ている。


「狩野君。どうしたの?」


「待ち人。ちょっとある人に用があってね」


「ふ~ん。

 なんか狩野君って待ち合わせが趣味の人に認定されつつあるよ。

 私の中で」


「それは酷いな~。

 僕が転校してきてから校門で人を待つのはまだ二回目だよ。

 今日は君のお兄さんを待っていたんだ」


「ふ~ん。そして私の家族に付きまとうのが趣味の人に認定されつつあるよ。

 私の中で」


 狩野君は失笑し、それ以降は特に会話もなく、兄や斉藤先生を待つ事になる。


 先に現れたのは兄だった。


 私の姿を確認すると「舞子~! 来たぞ~!」なんて大声をあげ、走りながら近づいてくる兄を見て、狩野君がいなければ殴っていたのにと思いつつも、クラスメイトの前なので一応は女の子を演じる事にした。


「止めてよ。お兄ちゃん、大声出さないで……。舞子恥ずかしい……」


「私はぶりっ子シスターの方が恥ずかしいぞ!」


 見知らぬ大人が中学校の校門にいる。

 さらに大声を出している。

 そんな状況は下校中の生徒の視線を容赦なく集める訳で、いやコレ、マジで恥ずかしいよ。

 やっぱり家に帰ったら殴っとこうと決意を固めた所で、兄は狩野君に気がついた。


「やぁ。狩野君だね?」


「えぇ。お久しぶりです。高志さん」


 挨拶をする二人を見て、私は尋ねる。


「やっぱり、二人は知り合いなんだ」


「まぁな」


 とだけ兄は答えた。

 狩野君は私に向かって微笑むだけ。


「どんな知り合いなの?」


 と聞けば、兄はいつかの憎たらしい笑顔で、右手の人指し指を顔の左右に移動させながら、お尻も左右に揺らしながら……、


「ひ・み・つ! エヘ! テヘ! キャピキャピ!!」


「はいはい。そうですか。

 カッコ、三十歳引きこもり、カッコ閉じ」

 

 狩野君は私のツッコミを見届けてから、


「そうだ。高志さん。

 この前の手紙には連絡先がなかったでしょ。

 これが僕の連絡先です」


 そう言って、またも無機質なラブレター? を渡す。


「今夜にでも、家に帰ったら直ぐに連絡するぞ! 舞子の前ではお互いに話し難いだろ?」


 どうやら私は邪魔者みたいだ。


「そうですね。まだ急がないですし、焦っても仕方ないですしね。

 今日はこのまま帰ります」


 そう言って去っていく狩野君を見ながら、私は『斉藤義姉さん大作戦』を確実に遂行しなければいけないのだと、思った。


 兄に無断で学校には入れない事、斉藤先生が許可証を持ってきてくれる事、そういった事情を改めて説明し終わると同時に、斉藤先生が来た。


 斉藤先生は深く頭を下げながら、大人の挨拶をしようとした。


「この度は、私ども演劇部のために貴重なお時間を……」


 けれど、兄は挨拶を遮り、大笑いした。


「堅苦しい挨拶はなしだ! 私はそういうのが苦手でな!」


 斉藤先生は失礼な事をされたのに、何故か嬉しそうに微笑んでいた。


「そうですか。分かりました。

 そうそう。

 馴れ馴れしいかもしれませんが『高志さん』って呼ばせてもらいますね。

『木村』さんだと舞子ちゃんもいるので、どちらを呼んだか分かり難いでしょう?」


「私は構わんぞ!」


 挨拶が済んだ所で、私たちは演劇部の部室、つまりは第一視聴覚室に向かう。

 兄は教室に着くまで我慢出来なかったのか、廊下で鞄から台本を取り出し、斉藤先生に手渡した。


「とりあえず書いてみたのだが、照明やら音響の事は全く分からなくてな。

 どうもまだ未完としか言えない出来になってしまった」


「お兄ちゃん。今日はあらすじだけで良いの。

 話の雰囲気が伝われば大丈夫だよ」


 斉藤先生は、速読するように台本をパラパラとめくり、


「でも、これ、殆ど完成ですよ。

 ちょっと小説っぽいけど、行動描写なんかもしっかりしてますし。

 演出関連なら、生徒たちの自主性に任せても良いと思います」


「そうか! それなら良かった!

 所で、斉藤さん。年に一回しか公演しないのだろ?

 ならば何故一年かけて練習しないのだ?」


 斉藤先生は台本を閉じ立ち止る。

 そして「そうですね~」という言葉で考えをまとめるための間を少し作り、話し始める。


「一年かける。そして劇の完成度を高める。そうする事で得られる物って、きっとかけがえの無い経験になると思います。

 その方が劇の知識や経験も積めるもしれません。

 でも、私は舞子さんたちに、中学生のみんなには、色々な話に触れてもらいたいと思っているんです」


 少し私を見て微笑み、話を続ける。


「普段、私たちの演劇部の練習では実に様々なお話を演じます。

 時には台本片手に、あるいはうろ覚えのセリフで、時には設定だけ決めて完全アドリブの時もありますね。

 そういう練習方式を取っているんです。

 もちろん一度練習したお話は二度とやら無い訳では無いんですよ。

 でも同じ話をやったとしても、その時にによって演じる役は異なります。

 みんなが色々な役をやるんです。

 だから演技力の高い子や舞台映えする子が主役を独り占めしてしまう事もなければ、目立たない役が好きな子も主役だって悪役だって演じます」


「そうそう。

 配役なんかはその場で決めちゃいますよね。

 じゃんけんとかくじ引きとかで。

 チンピラCの役で『いい女連れ歩いてるじゃね~か!』とか言わされるの困ります。

 花の乙女なのに」


「ゴメンね。舞子ちゃん。

 でも、そうやって色々な役を演じて欲しいの。

 だって、演劇の魅力って誰でもが、誰にでも、いいえ人じゃないものにだって、何にでもなれちゃう事だと思うの。

 そして色々な役になりきる事で見えてくる世界もあると思うんです」


 斉藤先生は私から兄へと目線を移し、


「だから技術とかより、そういう経験を知って欲しいなって思ってるんです。

 それが正しい演劇部の方針なのかと問われれば、私自身も否定してしまうかもしれません。

 でもそれが私の方針なんですよ」


「ふむ。色々な世界を見るのは良い事だと思うぞ。

 舞子も私の小説を読めば良いのに」


「読めるか~!」


「そうよね。

 十八禁を読む資格を得るには、もう少し年月が必要ですね」


「違います!」


「ならば舞子は黙ってれば良い。

 私が朗読してやろう。

 偶然だ。偶然私が一人で朗読していたのを、聞いてしまった事にすれば良いぞ!」


「だから、読みたくないんだって……」


「そんな方法は通用しません。駄目ですよ。

 舞子ちゃんの十八歳の誕生日に、沢山聞かせてあげるべきです」


 大人二人に中学生は勝てないように出来ているのか、と言うか中学生をイジメる大人二人ってどうなの? なんて不満を覚えながら、これ以降は私をからかう流れの会話のまま、やっと歩き出した私たちは第一視聴覚室に向かう。


 兄を迎えに行く時とは違い、今度はすれ違う生徒の殆どが挨拶を返してくれない。

 斉藤先生よりずっと、見知らぬ不審者の方が気になるみたいだ。

 遠くから兄を凝視する。

 そのまますれ違う。

 そして後ろから聞こえるヒソヒソ話。

 手痛い大人からのイジメもあって、私はこの空気が凄く恥ずかしいけれど、兄はもちろん、斉藤先生も気にならないみたい。

 

 斉藤先生が校門に来るのが思った以上に遅かったのか、あるいは移動中に立ち止り熱弁していた時間が思った以上に長かったのか、とにかく教室に到着した頃には体力トレーニングは終わってしまったらしく、発声トレーニングの最中だった。

 

 だけど、私たちがドアを開けた瞬間に静まり返る。

 視線が私たちに集まる。

 

 斉藤先生はみんなに呼びかけた。


「練習を続けて~。

 って言うのは無理よね。

 今日は特別に発声練習はお休みにしましょう。

 座って良いよ」


 そう言って、教室前方の中央にいる、部長さんの隣まで移動する。

 兄は斉藤先生の後に続き、私は毒子ちゃんの隣に座る。

 部長さんを含め、みんなは無言のまま兄を見つめている。

 私は彼らの頭の中を想像するのだけれど、何故か中傷的な言葉を想像してしまう。

 エロ小説家だってバレていなくたって、知り合いに兄妹を見られるのは、特に理由も見当たらなくても恥ずかしいものみたい。

 

 斉藤先生は、兄の紹介を始めた。


「こちらが、舞子ちゃんのお兄さん、木村 高志さんです。

 なんと私たちの希望を聞いてくださり台本を書いてくれたの。

 今日は台本を届けにわざわざ来てくれたんです。

 しかも、もうその台本は完成品と言っていい出来上がりなの。

 しかも、もしこの台本の劇をやるなら練習の指導もしてく下さるの。

 こんなにも演劇部のために尽くしてくれた高志さんに、みんなからお礼を言わなくちゃね」


 その言葉が先生の本心なのか、あるいは多数決の前に最後の投票操作をしているのか、私には分かりかねるが、それでも兄の劇をやるのはもう確定的だろうなと思った。


 兄と先生の一番近くにいた部長さんが、深々と頭を下げ、


「ありがとうございます!」


 と演劇部らしい、歯切れの良い気持ちの良い挨拶をする。

 それに続いて私以外の全員が起立し同じように続く。

 更に部員全員から送られる拍手の一斉射撃。

 私の顔は超赤面。

 兄は嬉しそうに照れ笑いしながら、両手でバスケットボールのエアドリブルするかのように静粛を求める。

 みんなが静まり返り着席したのを確認して、兄は話し始める。


「お礼など言う必要は無いぞ!」


 と意外に優しい一面を見せたかと思ったら、とんでもない事を言い出す。


「全て舞子のためだからな!

 むしろ私に書かせてくれる機会を与えてくれたみなに感謝したいぐらいだ!!

 舞子の役に立てて嬉しいのだ!!」


 今度は教室全体の視線が私に集まる。

 笑いを隠すためか、何人かの咳払いが聞こえた。

『今日は私たち兄妹で演劇部の視線を独占ね』などとふざける余裕なんて無いぐらいに恥ずかしい。


 が兄の仕打ちは終わらない。


「さて、改めて自己紹介させてもらおう。

 私の名は木村 高志だ!

 みなの知っている美しい女子中学生、舞子のお兄さんだ!

 しかしそれは私の持つ一つの顔に過ぎない。

世間では『今岳 大人』として知られているぞ! 

 これが小説家としての顔、そして名前だ!

 今はナウの今。岳は山岳の岳。だいとはおとなと書くぞ!」


 私が守り続けていた、秘密をあっさりと暴露しやがった。


 何人かが、ペンネームをメモしているのが見える。

 もちろん陰ちゃんも大興奮でメモしてる。「高志さん、ナイスです!!」とか大きな声で独り言を言いながら。

 

 まだまだ続くよ。兄の仕打ち。

 

 兄は鞄から、自信作らしい一冊を取り出し、表紙をみんなに見せびらかすかのように本を高く掲げた。

 本の表紙はピンクの背景色で、中心に描かれるは半裸なのに何故かナースキャップを被っている女性。


「『ナースは純潔をナクース』だ!! これはとある悪い入院患者に……」


 兄がエロ小説のあらすじを話し始めたので、慌てて斉藤先生は兄の前に飛び出し手をばたつかせながら、


「駄目です~! それ中学生には読めないお話ですから!」


 止めに入る。

 でもタイミングがもの凄く遅いよ。


 兄は不満そうに、斉藤先生に訴えた。


「この本もプレゼントしようと持ってきたのだが……」


「駄目です!」


 きつく断れていた。

 斉藤先生は私たちの方に振り返り、


「みんな、興味があっても買ったり見ては駄目よ。十八歳未満は見れないお話なの。

 中学生が見てはいけないエッチなお話なの!」


 と注意を促すが、それは私にとっては『止めの一撃』を示す言葉だった。


 もう恥ずかしさに我慢出来なくなったので、机に伏せて顔を隠す。

 それでも感じるみんなの視線。

 それと聞こえる爆笑と陰ちゃんの鼻息、それと感じる毒子ちゃんの残酷な背中さすり。


「ふむ。プレゼントは失敗したが、つかみはオッケーだな!」


 と兄の声が聞こえるけれど、腹が立つ。

 けどその言葉でみんなの視線が兄に戻ったのを感じ、顔を上げてみれば、兄は鞄から台本を取り出し前方に座っている生徒たちに配っていた。

 人数分用意しているらしく、次々と鞄から台本が出てくる。

 前方の生徒は、台本たちから自分の分をとり、残りを手渡しで後ろの生徒に渡していく。

 

 そう言えば兄が台本を見せてくれなかったので、私も中身がどんな内容なのか知らない。


「ついにですね! 楽しみです!」


 と陰ちゃんが私たちに話しかけてくる。


「そうだね。舞子には悪いけどさ。お兄さんがどんな小説を書くか、はもう分かっちゃったけど……。だからこそ楽しみだね」


 と毒子ちゃんは言う。

 私は内容も知らなければ、それ以前に避けたい会話でもあるので、


「それより、村ちゃん。本当にお兄ちゃんの本なんて買ったら駄目だよ」


 と誤魔化せば、陰ちゃんは堂々とした笑顔で嘘をついていた。


「もちろんです!」


 そんな会話をしている間に、私たちの所にも台本が回ってきて、自分の分を取り、残りを後ろの生徒に手渡す。


 まだまだ終わっていなかったよ。兄の仕打ち。


 全員に台本が行き渡ったのを確認した斉藤先生は私たちに台本の黙読を指示し、兄をいつもの自分の席に誘導し座らせる。

 チラ見してくる生徒の視線を無視して、私も台本を流し読みする。

 なるほどね。

 先ほどの斉藤先生の評価は間違っていないと思う。

 会話分を主軸に捉えた書き方で、どこからかテンプレートをダウンロードしてきたのか、すっぽりと演出効果は抜けているけれど、形式として確かに台本として成立している。

 それに画面切り替えが出来ない演劇の本質を理解しているのか、多様なシーン切り替えも無い。

 素人目で見る分には、演出効果が殆ど記載されて無い事を除けば、特に問題の無い台本だと思う。

 

 いやいや。

 今のは嘘ね。

 

 見逃せない致命的な欠陥があるんですけど。


 チラ見される理由は、台本を読み始めて直ぐに分かった。

 それこそ、三ページ目にして答えは見えてくる。

 三ページ目は、まだ人物紹介の途中だ。

 

 ラージ――旅の魔法使い。その魔力の強さは生ける伝説だ。中身は九百九十九歳だけど、見た目は十五歳である。

 

 ……だってさ。別にアイタタタな設定に問題は無い。

 って言うか、ラージさんに問題はない。

 弱小国の王フィールクーさんにも、弱小国なのに何故か居座っている天才宮廷魔法使いのオールサイさんにも、異人ながら騎士団長にまで登り詰めたコーファイさんにだって、お惚けメイドなのに隠密活動は平然とこなすモイモイさんも関係ない。

 実は優しい魔族の軍団長ギャックジさんも全然問題なければ、善悪を問う哲学的な魔王ゴーカイ王も問題ない。

 

 致命的な欠陥、困ったさんはお姫様だ。

 

 ちょっと待って。

 まずはあらすじを説明するね。

 別に説明する必要も無いけれど、恥ずかしいのよ。


 お姫様は幼少期から病弱なお姫様だった。

 そんな彼女が十五歳の時だ。

 世界中に死の病が蔓延した。

 人間も魔族も無差別に襲う、その病の原因は『憎しみ』が具現化したものだった。

 人知れずその事実に気がついたお姫様は、自分の身を犠牲に世界に広がる病を、呪いを浄化しようとした。

 お姫様は死ぬはずだった。

 でも都合よく偶然通りかかった旅の魔法使いラージさんが、お姫様の命を救う。

 しかも都合よく儀式は成功していた。

 この『死の病』が世界から消えた事が原因で、人と魔族は戦争を止めた。

 と言っても緊張が残る冷戦状態。

 ただ百五十年続いた戦争を、小さい国が収めた。

 世界を絶望に追い込んだ病の問題すらも解決してしまった。

 一躍有名になる王国。

 ただしかし、ラージさんはお姫様を救う時に魔力の殆どを失ってしまった訳。

 ラージさんは直感するの。

 世界から病を消した儀式が原因だって。

 だから、この地に留まる為、宮廷魔法使いになると申し出る。

 そこで、お城の人や魔族の人と交流を図りながら、次第に精神的に成長するラージさん。

 最後に宮廷魔法使いオールサイさんの裏切りで、二つの種族は再び戦争する事になったの。

 事態を止められない事に涙するお姫様に、いつしや恋をしていたラージさんはキスをする。

 するとあら不思議。

 ラージさんは魔力を取り戻してしまう。

 そんな二人は、今正に戦闘を開始しようとしている両軍の間に割って入るのね。

 そして説得するわ。

『憎しみで苦しんだ事を忘れたの? 冷戦状態での交流は偽者だったの?』ってね。

 そこから色々会話して、みんなは目を覚ましてくれちゃって、ついに人も魔族も関係ない社会が生まれました。

 めでたしめでたし。

 

 とまぁ、こんなあらすじなのだけれど……。

 

 うん。お姫様は問題がありすぎる。

 

 お姫様は何もしてなくて騒ぐだけだったとか、一国のお姫様が自己犠牲の精神で命を捨てようとするのは美談じゃなくてワガママだとか、見る人によって意見が分かれる話じゃないわ。

 

 誰がどう考えたって、お姫様は庇いようの無い欠陥姫なのよ。

 

 だって、名前が舞子姫。

 

 そう。

 カタカナ名が続くこの台本で、唯一お姫様は漢字を使われる人物なのだ。

 

 って言うか私と同じ名前だ。

 

 とりあえず、私の文章を読む速度は人より優れているらしく、台本を読み終わって時計を確認すれば、時間はまだ十分間ほど余っている。

 

 あぁ、このインフルエンザにでもかかったかのように、私から理性を奪おうとする顔の熱は、怒りが原因か恥が原因か。


 兄を睨みつけるも、斉藤先生とお喋りしていて全然こっちを見そうに無い。

 チラ見してくる連中の視線を、私は睨み返し打ち落としながら、毒子ちゃんに訴えてみる。


「ねぇ、毒子ちゃん。

 内容はともかく、名前は変更するべきだよね?

 ふざけてるわ!」


「う~ん。良いんじゃないかな。面白いし。

 ……と思いますよ。舞子姫」


 イタズラ少年がいた。

 味方にはなってくれないらしい。

 それを聞いていた陰ちゃんは、


「私は好きです! 面白いです!!」

 

 と会話になりそうもない。


『斉藤義理姉さん』作戦を中止するもやむなし、私は急遽兄の劇を潰すための作戦を考える。


『魔法』の世界であれば、きっとみんなも納得してくれるのよ。

『魔の誕生日』を思い出すとか、その辺の事は諦めるしか無いわ。


 作戦会議を立てながら、私は神経質に丁寧にチラ見視線を撃退する。

 毒子ちゃんは時々噴出しながら、陰ちゃんはフンフン鼻息を鳴らしながら、台本を読んでいる。

 

 こいつらは敵だ。

 

 孤独の中における、いや孤独ゆえに見える、ピンチを抜け出すための起死回生の策!

 は私の中には浮かんでこない。


 イライライライラ。

 見るな。

 笑うな。

 ヒソヒソ話するな~!

 何より馬鹿兄貴!

 あんたはこっち見なさいよ。

 無関心にニヤニヤ話してんじゃないよ。

 いや、斉藤先生と仲良くするのは良い事のはずなんだけど、今はあり得ないぐらいに腹立つわ~。

 

 焦りと苛立ちと絶望と、孤独な私。

 なんてネガティブワードが頭の中で飛び回る。

 

 こうして私が独り作戦会議をしている間に、台本を読むために割り当てられている時間は終わったらしく、斉藤先生は部長さんにミーティングを始めるように指示を出す。


 部長さんは教室前方に移動し、


「それではこれから文化祭でやる演目を決めます。

 えっと、木村さんの『魔法より愛だ!』が一つの候補ですね。

 他に案がある人いますか?」


 私は勢い良く手を挙げる。


 何故かあちらこちらから聞こえる動揺の声。

 いや、なんでさ。

 そして人一倍動揺しているは、馬鹿兄貴と陰ちゃん。

 隣から聞こえるは毒子ちゃんの「頑張って! 舞子姫」と言う野次。

 あぁ~、も~! 

 どいつもこいつも~!!


「え? え? それじゃあ、木村先輩」


 と部長さんにも私の行動は不思議に映るらしく、動揺しながら私を指名する。

 私は影ちゃんばりに鼻息を鳴らしながら、大またで教室前方へと移動し、部長さんの隣に立つ。

 ヤンキー首フリとヤンキー睨みでうろたえる兄を責めてみる。

 すると、兄は「何故だ。何故なのだ」と頭をかきむしり、膝を抱え込むように丸くなる。

 その兄の背中をさする斉藤先生。


 兄の視線が途切れたので、私は振り返りみんなの方を向く。

 深呼吸、そして咳払い。

 あと嘘笑顔。


「良い? 私が言うから問題ないわ。

 お兄ちゃんが作った台本なんか忘れてしまいなさい。

 無視して良いわ。

 別に今回使われなくたって、この物語が消える訳でもない。

 それにオリジナルの話をやるのは良いと思う。

 でもこの物語に私たちの個性はある?

 私たちの事をろくに知りもしない兄が書いた台本に、私たちの個性はあるの?

 違うでしょ。それでは、この物語に私たちの個性を反映させられる?

 演じ方や演出で反映させられるかもね。

 でも、原作者がちょこちょこ顔を出して来るんだよ。

 指導するって、馬鹿じゃないの。

 演劇の知識なんて何一つ持って無いくせに。

 そんな環境じゃ、肝心の台本自体は書き換え難いよね。

 個性が出せないわ!」

 

 うん。私が仕向けた事も否定しているけどね。

 兄は割かし台本の書き換えには柔軟に対応してくれると思うけどね。

 結構頑張って書いてくれていたけどね。

 そんな事は、この際どうでも良いのよ。

 とにかく、兄の台本が悪く見えるように印象操作が出来れば良いの。

 緊急事態だから仕方ないのよ。

 私は続ける。


「そこで私は考えたわ。何百年も語り継がれる名作を、演じてこそ、見てくれる人みんなが知っている演目を私たちなりに演出してこそ、この演劇部の個性が見えるのよ!!

 だって、見る人の中にもある物語を演じるんですもの」


 私はやたらとグダグダと前置きをし、最後に提案した。


「シンデレラを提案します。

 でも主役は魔女です。

 そう。

 魔女視点で描く、シンデレラを提案します!」


 どうだ! と教室を見回す。


 さっきから、私はみんなを睨みすぎたかもしれない。殆どの人は机を、つまりは下を見ている。

 

 って言うか笑いをこらえてる!?


 すると女生徒が手を挙げたので、部長さんが指名する。

 毒子ちゃんだ。


「え~っと、舞子は個性を主張したいようだけど……。この台本には演出効果が書いてないよね?

 例えば、効果音や音楽の選曲だけで充分個性を出せると思うけどね。

 そもそもこの台本を読んでイメージする人物像なんて結構個人差があるよ。

 演じる役者が違うだけで、別の味が出るはずさ。

 あとね~、私たちの個性が無かったとしても、木村兄妹の個性は凄く出てると思いますよ。

 舞子姫」

 

 一斉に吹き出す、演劇部員たち。

 付け焼刃の私の理論では、もはや反論出来ない。

 それでもなんとか反撃を試みるけれど、


「毒子~! そこまでか! そこまで私を追い詰めたいか!!」


「ふ~……。

 舞子さ。

 気持ちは分かるけど、反対するにもお兄さんを落す必要は無い。

 あんたはやっちゃいけない事をやったんじゃないのかい?

 この台本を書くのが簡単じゃない事は分かるよね?

 身近で見ていたあんたなら尚更分かるでしょ?

 無視して良い、は良くない言い方だよね?」


「それは……。そうだけど……」


「じゃあ、まずはお兄さんに謝るべきだ! でしょ?」


「でも舞子姫とか酷いじゃない……。私だってそれがなかったら……」


「グズグズ言わない! 悪かったと思ってるなら、ちゃんと謝る!」


 気がつけば被害者だと思われる私は公開お説教の最中で、笑っていた連中も気まずそうに沈黙していたのも気が付けばだった。

 そして右やや後ろから聞こえるすすり泣きの音。

 これも気がつけばで、ついに兄は泣いてしまったらしい。


 私が後ろを振り向くと、まだ小さく丸まっていた兄は肩を震わせていて、それを慰めるように献身的に背中をさすり続ける斉藤先生。


「あのね。ゴメンね。お兄ちゃん。

 お兄ちゃんが頑張ってくれたのは分かってるよ。

 でも、舞子姫は嫌なのよ。

 姫とか言われたくないの。

 そこさえ変えてくれれば、私もこの台本を応援しちゃうな」


 すると兄は勢い良く椅子から立ち上がり、涙の欠片も無い素敵な笑顔で言った。


「そうか! 分かってくれたか! 妹よ!!」


「はぁ? 今のは嘘泣きだったの!?」


「違うぞ。嘘じゃない!

 お前への気持ちは嘘じゃない!

 アイ ラブ 舞子だ!!」 


 一斉に沸く教室。

 私はみんなの方へ振り向きビシッと指を刺して「ここ、笑うシーンじゃない!」と一喝。

 

 一瞬だけ教室は静まり返るも、毒子ちゃんだけは机を叩いて大笑いしている。

 それにつられるように、結局みんなも笑い出す。

 もう一度「面白い事なんて何もおきて無いよ!」と言ってみるけれど彼らは気にする事無く笑い続けている。

 演劇部員たちの認識としては、どうやら私と毒子ちゃんの意見が対立した時、私の意見に耳を傾ける必要は無い事になっているらしい。

 

 でも陰ちゃんは笑ってない。

 兄、あるいは斉藤先生の方を、可愛らしいふくれっつらで見つめている。

 

 恥ずかしさと悲しさで、私は無意識にはしたなく地団太を踏んでしまう。

 敵だらだけの教室で私は思う。

 誰かフォロー ミー。

 とここで兄のフォローが入った。


「心配するな、舞子! 私はこれで、この台本で完成したとは思っていない。

 もしこの劇をやる事になったとしても、随時書き換えるつもりだ。

 もちろんみなに負担が掛からないように、セリフの変更は抑えたいとは思っているがな。

 それでお前の言う演劇部の個性とやらに近づけるのかは分からないが、とにかく心配するな!

 兄に任せろ!!!」


 なるほどね~。

 そうなんだ。

 これで安心ね。

 とでも言うと思ってるのか、この馬鹿は。


 私は兄に詰め寄る。

 多分今の私は鬼の形相をしている。


「だから、お兄ちゃんに任せた結果が舞子姫なのよ!

 って言うか書き直すつもりがあるのなら、まず舞子姫の名前を変えなさい!!」


「それは嫌だ!!」


「変えろ!!」


「嫌なのだ! 愛! ラブ! 舞子!!」


 もう諦めた。

 と言うか、私と兄が喋るたびに教室中で大爆笑な空気に耐えられなくなったので、兄に舌打ちを送りつけて、みんなの方を向く。

 さっきから限界値まで振り切りっぱなしであろう、真っ赤に熱い顔で、出来るだけ優しい笑顔を作り、宣言した。


「私は断固として、シンデレラをオススメします!!」


 その後に響く、大拍手。

 この拍手の意味は何なのか。

 拍手の花道を歩きながら、私は元いた席に戻った。

 顔の熱は下がりそうに無い。

 

 席に座ると毒子ちゃんが、堪えきれない笑いのせいで震えた声で褒めてくれた。


「良く謝ったよ。

 それだけじゃない。あんたは恥辱の空気の中、劣勢の中、良くやったよ」


「じゃあ、毒子ちゃんはシンデレラに投票してくれる?」


「いや。『魔法より愛だ!』が気にいっちゃった。ゴメンよ」


 謝ってるとは思えない、嬉しそうな笑顔で答えた。

 私は、ガクッとわざとらしく肩を落して同情を引こうとする。


「舞子さんの馬鹿~!!」


 と何故か陰ちゃんから責められる。


「あ、ゴメンね。やっぱり頑張ってる人を侮辱するのは良くなかったよね。

 でもそういう事で怒れる村ちゃんはカワイイね~。

 私の事嫌いにならないでね」


「そうじゃないんです! 怒ってる理由は……。舞子さんが悪いとかじゃなくて、いや舞子さんが悪いんですけど……、嫌いとかじゃなくて……」

 

 どうにも陰ちゃんモードらしからぬ、まるで村ちゃんモードな歯切れの悪さだ。


「じゃあ、どうして?」と私は聞くのだけど。


「もう良いですよ! でも舞子さんは好きなままです!

 でも舞子さんは馬鹿なんです!!」


 と謎の言葉を残して、そっぽを向いてしまう。

 私は理由を聞こうと思ったのだけれど、大きな二回の手を鳴らす音が聞こえた。

 音の方を、教室の前方を見てみれば、部長さんがみんなの注意を引くために鳴らしたらしい。


「他に意見も無いようなので、今から投票用紙を配ります。

『魔法より愛だ』か『シンデレラ』か、どちらか一つを記入して持ってきて下さい」


 そう言ってA四コピー用紙を八等分に切って作られた、投票用紙を配っていく。

 やっと静けさを取り戻した教室の中、ボールペンが机にぶつかる音だけが聞こえる。

 それでも私の顔の熱は取れる事は無い。

 みんな悩む事無く書いている姿を見て、どちらに投票するかは決まっているみたいだと思った。

 もちろん私も迷う事無く、デカデカと書いてやった。『シンデレラ』と。

 

 五分も掛からず、みんなが部長さんの所に投票用紙を持って行き終わる。

 部長さんはそれらを仕分けしていく。

 どうやら圧倒的な結果らしく、片方は一票だけで、もう片方が残り全部の票を集めているらしい。

 

 私がシンデレラの勝利を願い目を瞑り手を合わせると、毒子ちゃんは余計な事を言った。


「こんな時でも諦めない、舞子が好きだな~」


 でも毒子ちゃんの予想は当たってたらしく、集計を終えた部長さんから出た言葉は「結果が出ました。二十三票で『魔法より愛だ』に決まりました!」だった。


 送られる拍手や口笛に、嬉しそうに何度もお辞儀をしながら「ありがとう」と言う兄を見て、私から漏れる小さな「あぁぁぁぁ……」うめき声。


 私の瞳に映る、この世界は、絶望で出来ている。

 もちろん私の耳に届く音も、絶望で出来ている。

 例えば毒子ちゃんのこんな同情の言葉も絶望で出来ている。


「舞子。お気の毒だけど、私はあんたのお兄さんが気に入った!!」


 励まそうとなんて思ってないんだわ。

 私を更に、絶望と言う感情の底は何処まで深いのかを探す手伝いでもしてくれるつもりなのか、より追い詰める毒舌ちゃん。

 しかしそれを聞いて反応したのは、陰ちゃんだった。


「なんですと!! どういう事ですか? ドク子さん!」


「あはは。大丈夫だよ。

 遠くで見る分には面白い人だなぁって思っただけ。

 近づきたいとは思わないさ。

 安心しな。私は違うから」


「そうですか。安心です!」


 二人の会話は、少し私の理解を超えようとしていたが、とりあえずその内容は私を追い詰めるものなのは確かだ。

 遠くで見ている分には楽しいか。

 強制的に生活を共にしなければいけない、家族の前で言うセリフじゃないよ。

 

 何度も静粛を求めなければいけない、不憫な部長さんが辛抱強く言った。


「まだミーティング中だよ。静かにして!」


 部長さんはみんなの注意を引き、


「それじゃ、急に役を決めると言っても、ちょっと大変だと思います。

 なので、今日と明日……。

 それと明後日ぐらいかな。 

 三日かけて、各々台本を読んで考えてきてください!」


 という事になった。

 そして斉藤先生が、


「まだ部活の時間は残っているけれど、舞子ちゃんが制服だし、何より今日は練習に身が入らないでしょ?

 早めに終わりましょうか」


 と締めくくった事で、今日の部活はいつもより一時間ほど早く終わる事になった。


「舞子~! 一緒に帰るぞ!!」

 と屈託の無い、この教室にいるどの中学生よりも少年らしい笑顔で話しかけてくる兄に、


「私たちは着替えるの。先に帰ってよね。

 って言うか、これからもずっと、もう未来永劫、お兄ちゃんなんかと一緒に帰るつもりは無いから!」


 私は今日の仕打ちに対して復讐するかのように、きつい口調で言った。

 残念そうにしている兄を見て、家に帰ってから釘を刺しとこうと思った。

 

 それよりも気になったのは、何故着替える必要の無い私が更衣室に向かうのだろう。

 女子中学生の乙女心は、それは現代科学をもってしても解明出来ない、ミステリーなのだろう。

 何故か残念そうな陰ちゃんを引っ張るように、私たちは第一視聴覚室を後にした。


 そして、更衣室。

 ガールズトークに花を咲かせながらも、特にする事の無い私は落ち着いて友達を観察する。

 男の子は聞いただけでも羨ましがるシチュエーションだろうなとか、とりあえず胸は私の圧勝ねとか、けしからん想像をしながら、なんか色々な意味で優越感に浸り、それでも爽やかな乙女な笑顔でガールズトークして、先ほどの兄の仕打ちも忘れるほどに、とても幸せだったのだけれど、毒子ちゃんが劇の話を持ち出した所で夢のような時間は終わる。


「舞子は舞子姫だよね。私はどうしようかな~」


「いやいやいや。

 私は絶対にやらないよ。

 もう勝手に誰かやってよって思ってるよ」


「そ、それは無理だと思います。

 だ、だって、舞子姫さんには立候補しずらいですよ。

 舞子さんなんですから」


 お、村ちゃんモードに戻った。

 とかは今は凄くどうでも良くて、


「じゃあ、責任持って私が誰かを推薦する!」

 と意地でも拒絶したいのだけれど、


「でも、みんなは舞子を舞子姫に推薦すると思うけどね」

 否定された。


 問題の解決にはならないとしても、とりあえず話題をそらした。


「村ちゃんは何の役か決めたの?」


「え、あ、まだです。三年生になると悩みますよね」


「そうだよね~。ん~、私はどうしようかな。メイドさんとか興味あるなぁ。

 一度着てみたかったのよね。メイド服!」


「いや、舞子姫はドレスを着なよ」


 結局話題は戻った。

 でもまぁ、なんだかんだで一年に一回の行事な訳だし、演劇部員がこれからやる劇の話をして、つまらない訳が無いのだ。

 ちょっとずつ舞子姫についても受け入れがちで、覚悟を決めながら更衣室を出た。


 いつもと違って、まだまだ明るい夏の夕日を背に、一度流し読みしただけの劇について盛り上がる。

 うん。こうして楽しく会話すると、この会話のおかげかもしれないけれど、兄の書いた話を初めて読むのだけれど、舞子姫以外は意外と好きかも知れない。

 

 そして、学校を出て最初に通るコンビニを通り過ぎた所で、後ろから話しかけられた。


「よぉ、ポチャヒントリオ!」


 この無駄に男らしい、野生的な声を私は知っている。

 友達Bさんだ。

 振り返ると、やっぱりいたのは、マッチョを見せ付けたいのか露出の多いタンクトップシャツを着こなすオヤジ、兄の友達Bさんだった。


「舞子。

 お前、凄く失礼な事を考えてるだろ。

 そんな顔だ。

 凄く嫌そうな顔だ」


「いえいえ。とんでもないですよ。友達Bさん」


「はは。友達Bさんね。

 じゃあ、水原がAさんか?

 それとも妖花がAさんか?

 でも、その程度の失礼なら、おあいこだな。ポチャヒントリオ」


 豪快に笑う、友達Bさん。

 すると毒子ちゃんは何かに気が付いたのか、半笑いで友達Bさんを睨みながら聞いた。


「是非、ポチャヒンの意味を知りたいね。友達Bさん」


「そのまんまだよ。

 ぽっちゃりちゃんと貧乳ちゃん。

 名前を知らないから、分かりやすいあだ名をつけてやったんだよ。

 まぁ、舞子の名前は知ってるけど、どうせなら、な。

 トリオの名前をつけた方が連帯感が出来て嬉しいだろ?」


 私は確認するように右を見てみる。

 

 ドレッドヘアーの長身スレンダーな少女がいた。

 貧乳だ。

 

 左を見てみる。

 

 せっかくの可愛らしい顔を髪の毛で隠しちゃってる小柄なスレンダー少女がいた。

 貧乳だ。

 

 なるほどね。


「この! ぽっちゃりって私の事か!!」


 友達Bさんの胸倉をつかみ、抗議する。


 すると毒子ちゃんが援護してくれたかと思ったのだけれど、

「舞子。やめときな。確かに許せないあだ名の付け方だけど、その反論の仕方じゃ傷をえぐるだけだよ」

 援護じゃなかった。


 村ちゃんも庇ってくれたのだけれど、

「で、でも。舞子さんはふくよかな方がカワイイと思います」

 嬉しくなかった。

 

 私はそんな二人に手振り身振りで説明する。


「違うのよ。体脂肪的には平均の範囲なの!」(ギリギリだけど)。


「体脂肪か。あれは良いよな。励みになる。

 俺は体脂肪七パーセントだ!

 普通体型らしい舞子はどのぐらいだ?」


 友達Bさんの質問には答えられなかった。


「もう! 何なの? 用事があるんですか? 嫌味を言うために話しかけたんですか!」


「いや、用事は無いが偶然見かけたからな。

 そんなに怒るな。おあいこだって言ったろ?」


 睨む私。

 笑いながら受け流すオヤジ。

 凍りつく空気。

 会話が途切れた所で、ちょっと大人な毒子ちゃんが、


「私は国土 綾芽。とりあえずドク子で通ってるから、そう呼んで貰っても構わないよ。

 こっちの子が陰村 花。

 私らは村って呼んでるね。

 で、友達Bさんなんて名前なんだい?」


「これはこれはご丁寧に、どうも。見かけによらずレディーなんだな。

 俺は金間 力。

 マッチョって呼んでいいぞ」


「うゎ。ダサいあだ名ですね! 友達Bさん!」


「こら~。舞子。だから、やめときなって。

 うちらは今回、結構不利なんだよ。

 じゃあ、マッチョさん。

 今後は友達Bさんって言わないから、ポチャヒントリオってもう口にするんじゃないよ。

 あんたの言う通りこれでおあいこ、痛み分け。いいね?」


 私と違って、筋肉オヤジとはに大した面識の無いはずなのに、堂々と凄む所は流石は毒子ちゃんね。


「分かったよ。レディー・ドク子。プリティー・村。……・舞子」


 私の前にある、微妙な『間』は気づかなかった事にして、


「じゃあね。今度こそバイバイ!!」


 私は苛立ちながらも、その場を離れようとしたけれど、


「おっと。大切な事を忘れてた。お前ら、あの日の事を、魔法とかそういう事を人に言ったりしてるのか?」


 私達は口を揃えて答える。

 言って無いと。


「そうか。そうだよな。人に説明するのも面倒だもんな」


 安心したような表情を見せるマッチョさん。

 すると毒子ちゃんが含み笑いをし、私を見る。


「って言うか、今日、あの日以上の事件が起きたから、大丈夫だよ。人に言わないさ」


 もしかしたら兄からマッチョさんに伝わるのかもしれないけれど、と言うか文化祭に来られたら直ぐバレるのだけれど、私はとりあえず舞子姫の話題が出る前に逃げようとした。

 

 私が「行こうよ」と逃げようとした時、新たな登場人物発見だ。

 コンビニから出てきたのは、見覚えのあるシルエット。

 涼しそうなシャンプレーシャツを着こなすツンツンヘアーの少年は、狩野君だった。

 はぁ~、私服姿のクラスメイトを見るのも、中々良い物ね。新鮮だわ。

 とか言ってる場合じゃなくて。


「狩野君~!」


 私は呼び止め、大きく手を振る。


 毒子ちゃんも「お」と、村ちゃんも「あ……」と声を漏らし、一緒になって手を振る。


 私達に気が付いた狩野君は小走りで近づいてきた。


「やぁ。演劇部の美人トリオじゃないか。

 嬉しいけど、私服姿を見られるのは照れるなぁ」


 とどこかの筋肉馬鹿とは全然違う、リアクション。

 でも狩野君ってクラスメイトの女の子に平気で美人とか言えちゃうキザな男だったんだ。

 ちょっと意外だった。


「また会った。

 狩野君って、やっぱり私の家族のストーカーだよね」


「それは酷いよ。今回話しかけたのは、そちらでしょ?」


 と首をすくめるが、その顔はどこか険しい。

 私は怒らせてしまったのかと不安になったけれど、そうではなくて、どうもマッチョさんを見ているようだった。

 

 迷惑な事に狩野君は途中入場したので、マッチョさんを怪しい人物だと認識しているのかもしれない。


「あ、この人は怪しくないよ。

 タンクトップのオヤジだけど、怪しく無いんだよ。

 お兄ちゃんの友達なの」


 説明するけれど、私を無視するかのようにマッチョさんも険しい顔だ。


「狩野君……か。

 君が、例の?

 そうか。話は聞いてるよ」


 対する狩野君も、感じの悪い口調で答えた。


「そうですね。

 多分あなたが想像した人物と、僕は、同一人物です」


 気まずい沈黙。


 少しして、毒子ちゃんが、

「おいおい。どうしたのさ。いきなり睨みあっちゃって。よしなよ」と仲裁に入るけれど、

 村ちゃんも、

 「あ、あの仲良くしましょ~!」

 と仲裁に入るけれど、二人には聞こえて無いのか、無言のまま見つめ合っている。


 私も「二人は知り合いなの?」とデジャブを感じる質問を投げかけるけれど、無視された。


 この気まずい空気を壊したのは、もう一人のストーカー。

 と言うかもう一人の変人オヤジと言うか。

 

 とにかく兄だった。

 

 学校方面からトボトボと歩いて来た兄だが、私たちの集団に気がつくと急ぐように走ってきた。

 そして兄としては珍しく私に話しかける事無く、先に険悪ムードな男達に話しかける。


「マッチョ! 中学生の前で何をしておる! 狩野もいきり立つな!」


 陽気な口調だが、顔はちょっと真剣モード。


 マッチョさんは、怒りを吐き出すように大きく息を吐き、そして言った。   

「そうだな。今出来る事は無いんだよな」


「僕の方は……、そうでも無いんですけどね」


 でも狩野君は臨戦態勢を崩そうとしなかったが、「狩野!!」と言う兄の声で、やっと柔らかい笑顔を作った。


「大丈夫ですよ。大丈夫です。大丈夫ですから」


 自分に言い聞かせるかのように、大丈夫を繰り返した。


 私には全然状況が理解出来ない。

 この男三人に、どういった関係があるのかも分からない。

 兄だけではなく、マッチョさんも、狩野君と繋がりがあるらしい、と言う事以外は何も分からなかった。


 完全に和やかムードになったマッチョさんは「元気だったか?」と軽く兄と社交辞令を済ませ、

「俺も忙しい身でな」と信じられないような衝撃の事実を明かし、

 コンビニの駐車場に止めてあった車に乗り込んでいった。

 

 マッチョさんがいなくなり、狩野君もようやくいつもの狩野君に戻り、兄と軽く談笑中。

 私はこの質問は何度目かしらと思いつつも、


「ねぇ、結局三人は知り合いなの?」


 と聞けば、あぁコレも何度目だろう……。


「秘密なのだ! エヘ! テヘ! キャピキャピ!」


 とふざけた兄の答え。

 それより、コレを友達に見られるのはかなり恥ずかしい。

 そしてこれも今日何回目だろうか、またもや赤面する私。


「やっぱり、舞子のお兄さんは良いよ!」


 でも毒子ちゃんは、大うけ。

 村ちゃんも私同様今日は忙しいようで、またもや陰ちゃんモードになりつつ、兄が言ったギャグの仕草を練習中。

 え? 何で?

 

 地べたに転がりそうなぐらい大笑いする豪快な友達と、ブツブツと小声で呟きながら変な仕草を練習中の二重人格の友達に、可愛らしく「やめてよ~」とお願いする可憐な女子中学生。

 

 先ほどの険悪なムードとは打って変わって、とても和やかだね~。

 けれど、空気クラッシャーはいつでも兄で、なにやら狩野君に言わせようとしている。

 

 どうせロクデモない事なのだから、私は気がつかないフリをして、逃げようかと思った。

 けれど、同級生が三十路オヤジに「ほら、言うのだ! 頑張るのだ!」とか強制されているのを見て、黙っている毒子ちゃんじゃなかった。


「こら~。お兄さん。言いたい事があるなら、自分で言いなさいよ。

 中学生に頼らないでさ」


「うむ。しかし……。私が言うと怒られるのだ」


 やっぱり、ロクデモない事らしい。


「じゃあ、言わなくて良いよ!

 狩野君もね!

 ではでは、バイバイ!」


 私は言うのだけれど、


「一緒に帰ろう。だって」


  狩野君はキザキャラを見せたばかりだと言うのに、乙女の気持ちを分かってくれない男だった。

 駄目な男だった。

 残念君だ。


「お兄ちゃん! 言ったでしょ? 絶対に一緒に帰りませんからね!」


 私は兄を指差す。でも陰ちゃんは、


「是非に! ご一緒しましょう!!」


 とか言うけれど、毒子ちゃんは今度こそ味方してくれるみたいで、


「村。今日は諦めな。そろそろ舞子姫が限界だよ」


「うぅぅ。分かりました……」


 と多少納得のいかない流れではあるけど、私たちの意向は『一緒に帰らない』で統一された。


「まぁまぁ、高志さん。せっかくなのだから男同士で歩きながら話ましょうよ」


 と狩野君も『一緒に帰らない』と言う意思を示した事で、兄はやっと諦めてくれた。

 こうして、私達と男共は方向が同じだけれど、と言うか兄なんか目的地が同じなんだけれど、別々に帰宅する事になった。


 家に着き、あぁ狩野君と兄を二人っきりにして大丈夫だったろうか、同姓恋愛的な意味で。

 と思ったけれど終わった事を悩んでも仕方が無いので、玄関空けたら二分でご飯作戦を決行しようと思う。

 ただ、筋肉馬鹿のせいで多少時間は潰せたが、やっぱり約一時間も早く部活が終わったと言う事実は、作戦を困難にする要素としては充分すぎるぐらいに脅威だったので、白飯だけで小腹を満たした。

 一日四食、と書けば四字熟語のようでカッコイイのでこの件についてはなんら問題は無い。

 

 でもやはり、今日は一日に多くの事が起きたなぁ。

 

 二度目の夕飯を食べた私は、ベッドに横になり、今日一日を回想してみた。

 ついつい忘れていたけれど、狩野君と兄の関係は未だ謎のままだ。

 と言うか、マッチョさんも関係しているらしい。

 この流れでいくと、もしかしたら妖花さんも狩野君と何らかの繋がりがあるのかもしれない。

 それらを踏まえると、狩野君の手紙はラブレターじゃなかったのかもしれない。

 

 文化祭の演目は、兄が書いた台本『魔法より愛だ!』に決まった。

 のは良いとして、舞子姫の存在は大きな問題だ。

 ただ斉藤先生と兄はソコソコ相性が良いように見えたのは、喜ばしいかもしれない。

 これは身内ひいき目線だからだろうか?

 

 そうだ。その時、私が必死に守り通していた兄の秘密、つまりはエロ小説家だと言う事が部活メンバーに広まってしまった。

 兄が小説家だと言う噂が学校中に広まった事を考えれば、多分エロ小説家だと言う事実は確実に噂になる。

 

 友達との関係にも、多少の変化があった。

 毒子ちゃんは兄を気に入ってしまうし、良く分からないまま陰ちゃんには怒られるし。

 

 人って生き物は不思議なもので、こうして整理してみると、あるいは整理してみないと、自分がするべき答えは見つけられないのかもしれない。

 逆に言えば、答えは見えてきた。

 

 私がするべき事は二つだ。

 

 一つ。

 もう~! 考えるの面倒臭いわ! 出た所勝負よ!

 と問題について考える事を放棄する事にした。

 

 もう一つ。

 私は兄に対して、しなくてはいけない決意を二つ思い出した。

 これは凄い大事な事なので、確実に実行しなければいけない。

 

 丁度その時、随分と狩野君と仲良くやっていたのか、私より一時間程遅れて兄が帰ってきた。


「ただいまなのだぞ~!」と玄関から兄の声が聞こえた。


 私は勢い良くベッドから飛び出した。

 そのまま勢い良くドアを開け、勢い良く玄関まで走る。

 私が玄関に辿り着いた時、兄の背中が見えた。

 まだ兄は靴を脱いだ所らしく靴棚に靴をしまっている。

 私は出来る限りの優しい笑顔を作る。

 

 兄は振り返ると、一瞬驚きの表情を見せるも、嬉しそうに勘違いした発言をした。


「おぉ! 舞子! 今日のお礼か? 珍しいな。わざわざ出迎えに来てくれるなんて!」 


 何故お礼されると思うのか。

 どうも兄は可笑しな事を言ってたので、とりあえずスルーした。

 そして、私は無言のまま笑顔を作り続け、そして、兄の腕目掛けて、フルスイングビンタをお見舞いした。

 肌と肌が直接触れ合った音。触れ合ったと言うには少々勢いがあったような気もするけれど、とにかくそんな音が玄関に響き渡った。


 もちろん兄は状況が理解できる訳もなく、うろたえながら「何故だ? 舞子~……」と理由を尋ねてくる。


 私は今日、校門で兄と待ち合わせた際に恥をかかされたので『帰ったら兄を殴る』と言う決意を固めたのだ。


 更に、舞子姫やら、エロ小説家だっていう秘密暴露やらで、その決意は忘れてはならないのだと、何がどうあろうと実行しなくてはならないのだと悟ったのだ。

 それに私が抱える問題の全てが兄のせいだ、とは言えないにしても、概ねそうだし。

 何より見事に全ての問題に兄が絡んでいる。

 更に更に、今日の事で兄へずっと冷たい態度を取ろうものなら毒子ちゃん辺りに説教されそうだし、これから部活で何度も会わなくてはいけない兄と今まで以上に気まずい空気で過ごすのは私もつまらないし、この一発で今日の事は全て水に流してあげようって事。

 

 なんて兄に説明するのは、とても面倒なので、一言だけで説明した。


「天罰よ」


「うぬぬ?」


 と肩をさすりながら、とても納得出来てない顔をしていた兄を無視して、もう一つの決意を実行する。


「お兄ちゃん。年頃の中学生と言うのは、身内と下校したくない生き物なの。

 まぁ人によるだろうけど、私はそうなの。

 だから、今度『一緒に帰ろう』なんて言ったりしたら、二度と口をきかないから」


 もちろん優しい笑顔のまま、伝えたのだけれど。


「そうか……。

 ならば、また校門で待ち合わせしようではないか!」


 どうやら、あまり理解出来てない様子だったので、


「その言葉も今後禁止ね」


 私は言い捨てて、部屋に戻ろうとした。

 けれど……。

 後ろから聞こえるうめき声にちょっと同情してしまったので、


「その二つを守れれば、普通に会話するから大丈夫だよ」


 余計な事を言ってしまった。


「デレた! 舞子がデレた!」


 そう言った兄は腕の痛みを忘れてしまうぐらい嬉しかったのか、痛むはずの左腕を大きく振り回しながら、


「マジカル、マジカル、高志の魔法。

 舞子よもっと素直にな~れ!」

 

 とまさか『エヘ、テヘ、キャピキャピ』以上に人に見せられない隠し技を持っていた事を、教えてくれた。

 

 そうか。さっきのベッド上での整理では忘れてしまっていたけれど、兄は魔法使い(自称とか)なんだった。

 

 私は優しい微笑みのまま、


「それも禁止ね」


 告げて、今度こそ、落ち込む兄を無視して部屋に戻った。


 って言うか、学校であんな魔法を使われていたら、ちょっといくら明るい健やかなポジティブ美人女子中学生である私も、立ち直れなかったかもしれない。

 その意味では、兄が家で魔法を使ってくれたのは良かったのかもしれない。

 

 こうして、やたらと長い一日は終わり、私達の演劇部は沢山の問題を抱えながらも、と言ってもその問題は殆ど私の個人的問題かもしれないけれど、とにかく、ついに一年に一回の大切な行事へ動き出していく事になった。

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