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 警察の宮さんという方がわざわざ部室まで訪れ、右野琢美に事情聴取をしたいと申し出た。右野琢美はこれを了承し、無関係の私はその間、宮さんを連れてきた副部長の御中佳奈実(みなか かなみ)先輩と倉庫の掃除を行っている。


「宮さんと相談部ってどんな関係なんですか?」

「ん? ああ、調ちゃんは初めてか」

「はい」


 無造作に積み上げられたノートを年代順に並べなおしながら頷いた。


「んー、一昨年の事件って知ってる?」

「まあ、噂程度には」


 一昨年の一学期、ある生徒が何十人もの生徒や教諭を殺した事件はあまりにも有名だ。当時中学生だった私はそれを聞いて数日は寝込んでしまった。どこを受験するか考えている時期で、第一志望にしようかと考えていたのだ。さすがに別の高校にしようかとも思ったが、現状はこうである。


「私達相談部員って一応カウンセリングとか臨床心理師みたいなことしてるわけだから、それ関連の本とか一杯持ってるわけ。ほら、これ」


 そういって渡された本は、医学部の大学生が読むのではないかというくらいに難しそうな本だった。


「あの時は本当に大変でね。カウンセリング専門の先生にも来てもらってはいたんだけど、さすがに大きな傷を負った生徒につきっきりになっちゃって。そこで、多少カウンセリングの知識のある相談部員がかりだされた、んっていうか自分達から申し出たわけ」

「はぁ」

「そこで宮さんに会ったのさ」


 なるほど、と私は分厚い本を御中先輩に返す。

 この倉庫にはさっきのようなカウンセリング関係の本や色々な専門書、創部以来の相談をまとめたノートや紙束、卒業生のプロフィールをまとめた書類の山などがある。なぜここまで細かい個人情報までもがここに保管されているかは謎だ。

 年代順に並べ直したノートを棚にしまう。


「よし、それじゃあ部室に戻るか。そろそろ終わってるでしょ」

「はい」


 そう言って最後の一冊をしまうと、御中先輩の後に続いて倉庫をあとにした。


――――――――――――――――――――


「そうでしたか。お疲れ様です、美濃岸調さん」


 とは、事情を説明した井藤雅子(いとう まさこ)部長の言葉である。

 宮さんの事情聴取が終わった後、右野琢美と宮さんは部室を出ていった。その後に部長がやってきて、彼女に説明をして今に至る。

 私達三人はパイプ椅子に座り、テーブルを囲んで紅茶を飲んでいる。


「まあ、私達のできることはここまでですね。今日はしばらくゆっくりしましょう」

「そうだね~」

「はい」


 御中先輩の淹れた紅茶は結構美味しい。私が淹れるよりは美味しいだろうと思う。紅茶は茶葉によって最適な淹れ方があるらしいが、それを熟知しているのだろうか。

 夕方だが、まだ吹奏楽の音が鳴っている。練習は大変そうだ。

 あ。


「部長、まだ相談記録を書いていないのですが」

「ああ、それじゃあ忘れないうちに書いちゃいましょうか。はい、ノート」


 部長からノートを受け取り、棚からシャーペンを取って書く。


 日時 8月22日(月)10:20

 場所 相談部室

 相談者 1年1組右野琢美

 応答者 1年4組美濃岸調

 区分 要望

 内容 人が突然消失したことの原因究明と捜索

 期間 即時

 解決方法 警察の事情聴取

 完了済

 備考 /


 シャーペンを戻し、ノートを閉じる。なんか、こう。釈然としない感じがする。


「ふぅ」

「おつかれさま。まあ、大体こんなものよ、相談部の活動って。話を聞いたらそれで解決できることがほとんどだし、こんな風に誰かに話を回せば大抵のことは解決するのよね」

「まあ、いわゆる検索サイトみたいなものだね」


 井藤部長と御中副部長を見ると、こっちを見ていた。


「えっと、なんでしょう?」

「ううん、何でもないわ」

「そう、何でもないよ」

「はぁ」


 部長と副部長はよく分からない話をすることがよくある。特に御中副部長が。

 お茶を一口飲む。

 相談部は検索サイトみたいなもの、ってどういう意味だろうか。まあ、大抵のことは流した方がいいと思っている。


「ところで、人って突然消えるものなのかな?」


 部長が呟く。


「まあ、色んな方法で消えることができるけど、この場合は、多分錯覚だろうね」

「錯覚?」

「そう。見えなくなったように見えた、だけ。夜に花火やっていて、離れたところにいた人が見えていた、っていうことはその人は明るい服を着ていたんだろう。それで、瞬きした瞬間に暗い服を着れば、瞬間的には消えたように感じるわけよ」

「なるほど」


 確かにそう考えると消えた理由にはなっていると思う。

 だけど。


「なんでその消えた人はわざわざそんなことをしたのでしょう?」


 私の質問に対して、副部長はちょっと笑った。


「それは分からないよ。偶然だったのかもしれないし、わざとやったのかもしれない。まあ、偶然だろうけど。わざとやることは出来なくはないけど、それに意味があるとは思えないしね」


 それじゃあ、右野琢美の聞いた話は何だったのだろう?

 何かのサスペンスドラマの一節だったりするのだろうか。


「それと、右野琢美の聞いた話っていうのは、多分本当のことだったとは思うけど。死体が出たっていう話はないし、警察もしばらくは動かないだろうね」

「はぁ」


 部長の紅茶は既に無くなっていた。

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