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未定  作者: 久追遥希
4/6

第三話 遭遇

やっとファンタジーっぽくなってきます

 

 人が誰かに頼み事をするとき、そこにはほとんどの場合において相手への信頼が含まれている。

 〝お願い〟ってのはSOSなんだ。どんなに小さいものであれ、根幹にあるのは「困ってるから助けて」――そんな、純粋な叫びなんだと思う。


 例えば消しゴムを借りるだけ。例えば仕事を手伝ってもらうだけ。例えば硬派で有名な学年主任に、文化祭で野球拳に参加してもらうだけ。最後のはただの悪ノリかもだけど、他二つには当てはまるだろう。自分じゃどうにもできないから他人に頼む。自分じゃどうにもできないから、断られたくない。


 それは、すごく良く分かる。だから〝お願い〟ってのを断れないわけだし、放課後の貴重な時間を意味もなくこの発展途上市の散策に費やしていたわけだし。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ!」


 ……で。そこでだ。


 急な話で悪いが、俺は今かなり焦っている。いや、訂正だ、悪いなんてこれっぽっちも思っちゃいない。なぜなら、


「っ止まれぇええええ!」


 下校途中にいきなり追いかけられるなんてレアな体験をして困惑しない方がどうかしてるだろうからな。


 くそ、どうすりゃ撒けるんだ。足がもつれて息が上がってetc。右に曲がるか、それとも左? 右って箸を持つ方で合ってるよな? ……誰か俺の利き手を教えてくれ。流れてく景色が走馬灯になったらどうしてくれる。


「おいおいおいおい!」


 今頃になって叫んでみる。


 何がヤバいって、俺がこの状況を全く理解できていないことが一番まずい。何、コレ? どうなってんの? 撮影? TVショーすか? どっきりカメラだったら許すから看板持って早く出てきてくれ。風を切る音が異常に大きく、鋭く聞こえる。誰かサライを流してくれ! 終止符を!


 テンパって乱れまくった思考で、それでも考える。もしかしたらコレの原因は、今朝の電波な少年の頼みを引き受けたことにあるんじゃなかろうか、と。お願いを断れない自分の性格をこんなに悔やんだことはない。


「な、何が、どうなってんだ……!」


 自暴自棄っぽく吐いた悪態も、呼吸をさらに苦しくするだけで。


 〝何か〟は怒声を上げながらどんどん近付いてくる。それにしたってとんでもない早さだ。最初いきなり転んでたから撒けるかとも思ったが、もうかなり近くまで迫ってきている。人語は解しても人間じゃないのかも知れない。だってそうだろ?


 普通の人間は、時速七十キロ(推定)じゃあ走れない。


「待ち、なさい!」


 少なくとも俺、十七年しかこの世界を生きていない柴田浩明の常識では、人間ってやつは地面を蹴って木よりも高く跳躍なんてできないし、アスファルトを素手で抉り取って投げ飛ばしたりもできない。


 ギリギリ当たらなかったから良かったが、殺す気かこいつ。止まれ、ってのは生命活動の停止を要求してるのか? ふざけんな、来世への招待状なんて封を切るよりも先に返却してやる。


 というか、俺には誰かから追われる理由なんかない。あれが過激なストーカーだって言うなら少しは安心できる(?)けど、残念ながら(……?)それもないだろう。いつまでも彼女いない歴=年齢で、モテ期到来の予感すらないし。人生に三回くらいは訪れるから安心して待ってろよ、とか言ってくる奴は大抵モテた経験があるんだよ結局。


 住宅地の割合が他より少し高い通りに入り、曲がり角の数は急激に増えた。……まあ、だからと言って後ろの奴が諦めてくれる道理はないようで。朝もそうだったが、二年前まで陸上部に在籍していたプライドはズタズタだ。補欠、いやそれ以下の階級である〝下級生の世話係〟という役割を一所懸命こなしてきたというのに。


 逃げ切れる……気がしない。〝何か〟は片手のケータイに向かって色々と喋りながら走っているのだ。意識は半分以上そっちに向けられてるんだろう。つまりは超余裕。どういう神経と体力と身体構造してやがる。ちなみに俺のケータイもさっきから振動しているが、当然確認する暇はない。着信音が聞こえないのは耳鳴りのせいだろう。


 自然、息遣いが荒くなる。瞬間、


「うわっ!」


 足下に亀裂が走り、そして抜けた。束の間の浮遊感のあと、少し下にあった地面に勢い良く腰を打ち付ける。もう何がなんだか全然分からない。つか、痛ぇ。足音が聞こえて頭上に目をやると、今まで俺を追い回してたんであろう誰かが軽く汗を拭ってるっぽかった。逆光で顔はちゃんと見えないが、どうやら女子らしい。憂鬱や溜め息や動揺すらも通り越してもはや驚愕の域である。


 五月も半ばだってのに分厚いコートを羽織っている季節感皆無な彼女は、呼吸と体裁を整えてから、悪魔みたいな(と本人は意識してるんだろうなあって感じの)笑みを浮かべて、言った。


「〝会社〟です。――勝負を終わらせに参りました」


 詰まるところ、俺は。


 超古典的だけど日常生活でお目にかかる機会なんか一生無いと思っていたトラップ、落とし穴ってやつに引っかかってしまったようだった。


ありがとうございました

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