プロローグ 導入
拙作ですが、読んでいただけたら光栄です
第一章
*
「何だ……これ?」
目覚めは最悪だった。
いつもならとっくに家を出ているはずの朝八時十五分。夜更かしをしたわけでもないのに体はだるく、布団から這い出るまでに相当な時間を使った気がする。
窓から見える空が灰色なのは気にしないとして、さっきからずっと背筋を冷やしてくれてるこの悪寒は何なんだ? 風邪でも引いたのかも知れないが、原因はさっぱりだ。インフルさんの来襲はもう済んだはずだしな。諦めて頭を横に振り、まだおぼつかない手先でケータイを開く。と、
メールが一通、届いていた。
不等号がたくさん並び、右上に表示されている文字数が異常に多い――いわゆる、チェーンメールってヤツが。
思わず溜め息がこぼれる。今日はついてないらしい。
基本的に、俺はチェーンメールが嫌いだ。
怪談が苦手というわけではない。本当に不幸になったり、ましてや亡霊に殺されたりするなんて誰も思ってないだろ? 作成者のあまりの暇さ加減にビックリはしても、そのオドロキをみんなと共有する義務はきっとない。
ただ、こういう類の文章には、大抵最後の方に〝五人以上に必ず回してください〟的な言葉が引っ付いてやがる。そしてタイトル欄には、〝絶対回して! お願い!〟とか何とか。涙目の絵文字なんかと一緒にな。
そりゃ〝お願い〟されたらもちろんやってやりたい。誰かに頼られてるってのは嬉しいし、落胆させたくないし。でもこの場合はどうなんだ? 分からないから混乱する。広めるのも止めるのも悪いことのような気がしてくる。
だから、嫌い。
……まあ、そうは思っても結局回しちゃうんだけどな。やっぱり他人の頼みは断れない。
電話帳から適当に何人か選び、本文にチェーンメールを貼り付ける。送信。ただメールを送るだけだ、何も難しいことはない。
このとき迷っていたことは、あとで思えば本当に些細な問題だった。
回ってきた鎖を切ろうが繋げようが、そんなことは関係ない。どっちを選んだところで事態は俺を侵食していた。
つまり、
俺はそのメールを受け取った時点ですでに、くるぶしの辺りまで足を突っ込んでいたんだ。
この――非日常的な、日常の世界に。
ありがとうございました