第二話 【5】
「といった感じね」
「やっぱり簡単には見つからないか」
「うん。とりあえず、すぐに入れるような部屋にはそういうものは何も無かった」
次の日の昼、カイト達三人は館を抜け出して来たミーファと宿で合流し中の状況を確認していた。カイトとミーファのやり取りをベッドに腰かけて聞いていたジェイルがミーファをジッと見ながら突然口を開く。
「ミーファ、お前服の好みを変えたのか?」
その表情はあきらかに笑いを堪えている。
「違う!! オクラの趣味!! これがメイドの制服なの!! あいつ超エロオヤジで、いやらしい目で人のことを舐めまわすように見るし、やたらと触るし、そのくせに名前は覚えないし!! この恰好でここまで来るの超恥ずかしかったんだから!!」
ジェイルが気になるのも無理はない。ミーファの恰好は淡い赤の魔法士用とも思えるローブを来ているが、その丈は以上に短くふとももまでしかないため、足はほぼ全部出ている。靴下は履いてはいけないらしく、素足にふさふさの毛の付いた淡い赤色の靴を履き、頭にはフリルの付いた髪飾りをしている。
「笑うな~!!」
「いってぇ!!」
ついに我慢できなくなって、吹き出したジェイルの顔面にミーファの蹴りが飛んだ。
「まったく……」
「? 私はミーファの恰好は悪くないと思うが」
エマがジェイルが何がおかしいのかわからないという感じだ。
「え? そ、そう?」
予想外なことをエマにいわれ、ミーファは思わずエマの前で一回転してポーズをとる。
「可愛らしいではないか。エルフ族の衣装でこういうものは無いから私も着てみたい。それは丈が合わないだろうが」
エマとミーファでは身長がかなり違う。
「エマがこの衣装を……」
ジェイルは頭の中で想像しているのか、顔が徐々に怪しい方向にほころぶ。
「ジェイル……だらしない顔にさらにエロさが増してるよ……」
ミーファはほとんど軽蔑するような目でジェイルを見ている。
「って、カイト!! いつもならこういう会話を途中で止めてくれるのに、なんで何も言わないの?」
「え? あ、ああ、そうそう。そろそろ本題に」
カイトは言われて慌てて会話の軌道修正を行おうとするが、そんなカイトにミーファが疑惑の視線を向ける。
「カイト……まさか、あんたまで」
「いや、違う! え~…ちょっと頭の中で作戦をだ…そう」
そう言ったカイトの肩をジェイルが強く叩いた。
「いてーな」
「カイト!! わかるぞ、お前の気持ち!! 乳臭い小娘が着てもおもしろいだけだが、エマが着たら結構萌えるんじゃないかと思うその心!! それこそが、男のロマンだ!!」
ジェイルが窓の外の何かを指差し声高らかに男のロマンをうたい上げるが、その後ろでミーファが眉間に皺をよせながら怒りに震えつつ、魔力を集中している。
「風よ!!!!」
「ぎゃーー……」
-----ドガッ-----
ミーファの怒りの風の魔法でジェイルが二階の窓から外に吹き飛ばされた。
「ジェイル、大丈夫なのか」
窓際にいたエマが下でピクピクしているジェイルを見下ろしながら、心配そうに呟く。
「ま、まぁ、これくらいでくたばるような奴じゃない」
カイトも下を覗き込んだ。
「カイト、あんたも飛ぶ?」
ミーファは額に青筋を立てながら、にこやかにカイトに問いかける。その手には既に魔力が集中されていた。
「いえ、結構です……」
「ミーファ、怖いぞ」
さすがのエマも、顔が引きつっている。
「ほ、本題に入ろう」
「どうぞ」
ミーファは魔力の集中を解くと、エマの隣りに座った。
「オホン。で、えーと、なんだったか。あ、そうそう、すぐ見つかる所には何もないんだよな」
「そう、でも怪しい所はあったよ」
「怪しい所?」
「うん。あの館、地下があるの。で、オクラの奴は夕方くらいから夜遅くまでその地下に籠ってた。見に行きたかったんだけど、地下に降りる階段に二人見張りがいて行けなかったの。怪しいでしょ?」
「怪しすぎだな。見張りってのは?」
「傭兵か何かだと思う。武器は持ってなさそうだったけど、腕っ節は結構強そうだったよ」
「やはり、俺達も中に入る必要がありそうだな。ミーファ、今夜とか俺達を手引きできるか?」
「うん。夜遅い時間なら大丈夫。中はオクラとメイドはあたしを含めて五人、見張りの男は二人だけだと思うから。地下はわからないけど、とりあえず出入りは無かった。メイド達は夜寝ちゃうし」
「よし。じゃあ今夜侵入しよう。あまり長くやってても怪しまれるだけだ」
「りょーかい。じゃあ、今夜ね。あたしはそろそろ戻らないと。あまり抜けてると怪しまれるから。あ、見張りはもう大丈夫だよ。とりあえず危険は無さそうだから」
「ああ、わかった。気を付けてな」
「あいよ」
そう言うとミーファは連絡方法を二、三決めて宿屋を出るとオクラの屋敷へと戻って行った。
「……ジェイル、戻って来ないな」
「まだ、下でピクピクしているぞ」
エマが指差した方には、うつ伏せで足と手がピクピクと動いているジェイルの姿があった。
「……結構、効いたようだな」