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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第二話 男のロマンは永遠に。。。(前編)
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第二話 【3】

「禁呪って何だ?」

 宿に戻り寝ていたジェイルを起こすとさっきと同じ位置にカイト以外が座り、カイトはジェイルに魔法士協会で説明を受けたことを一通り説明した。それを聞いたジェイルは予想通りの質問を返してくる。

「だそうだ。エマも知りたがってるし、ミーファ、説明してやってくれ」

 カイトは説明をミーファに任せると、自分は先ほどと同じくベッドに腰掛けた。

「カイトは知ってるの?」

「まあ、詳しいわけじゃないが知識としては持ってるよ」

「へ~、そうなんだ」

 魔法が使えない剣士のカイトが魔法の知識、しかも魔法士でも知らない者がいる禁呪を知っていることにミーファは意外だったようだが、お互いあまりその辺には触れない方がいいと思ったのか、それ以上は聞かなかった。

「コホン。では、ちょっとだけ禁呪講義を」

 ミーファは立ち上がり、得意気な顔で禁呪の説明を始める。

「禁呪っていうのは、まあ単純に言えば禁止されている魔法のことなの」

「禁止されてるの魔法? そんなんあんのか?」

「うん。いくつかあるけど、有名なのは五つ。まず一つは自然魔法の一つで闇の魔法。これは公的機関以外では研究することも禁止されてるわ」

「なんで? てか、闇の魔法って出来無いんじゃなかったか?」

 ジェイルは魔法にはあまり詳しくは無いが、闇の魔法が実現出来ないくらいのことは有名な話であり知っている。

「理論的には世界の構成要素の一つである限りは出来るはず。でも、出来た人間はいないと言われてるね」

「出来ねぇのになんで禁止されてるんだ?」

「光や火なんかとは違って闇って実体がわからないの。だから、使えないんだけど仮に使えてしまった場合、どうなるかわからない。ひょっとしたら世界が闇に飲まれてしまうかもしれない危険性を秘めてるの。だから研究そのものが禁止されてるわ。私はそういうのは良くないと思うんだけど、ばれるとかなりの罪になる」

「実体がわからない?」

 魔法が使えないジェイルには、ミーファの言っていることがいまいち理解出来ないようだ。

「そう。闇と聞いて思い浮かべるのはどうしても、黒だったり夜でしょ。でも黒は色であり、夜は時間。闇ではないわ」

「さっぱりわからん」

「ま、まあ。ジェイルに理解出来るとは思って無いけど、、、で、今回のオクラとかいう研究者だけど、多分研究しているは闇の魔法ではないと思う」

「なんでわかる?」

「闇の研究は世界の構成要素を解明する研究の一環として、公的機関では行われている。魔法士協会もその一つだから、研究したいのなら魔法士協会でやればいいと思うし。破門された事で続けられなくなったなら、研究内容をあのリガルって人が知っているはずだもん」

 リガルはオクラの研究内容は禁呪ということ以外は知らなかった。

「ってことは他の四つってことか?」

「多分ね。他の四つは全部陣魔法で、通称マリオネットと言われる操りの魔法、スリープと言われる眠りの魔法、瘴気の召喚魔法であるサモン、そしてリカバリと言われる復活の魔法よ。そして、おそらく研究してるのは前の三つのどれか。もしくは全部」

「どんな魔法なんだ?」

 ジェイルは禁呪に興味が出て来たのか、身を前に乗り出して聞いている。エマも長い耳を傾けていた。

「全部名前のままだけど、マリオネットは人の精神に干渉して、まあ要は術者の意のまま操る魔法。スリープは相手を眠らせてしまう魔法。この二つは自由に使われてしまうと犯罪が横行してしまうでしょ。だから禁止されてるの。そして瘴気の召喚は何故禁止かは見当が付くでしょ」

「瘴獣を自由に作れるってことか」

「おお、ジェイル。本当に見当が付いたんだね。ちょっと関心」

 ミーファは拍手をして、ジェイルを称えた。

「お前は、俺をなんだと…。だが、召喚の魔法はおもしろいな。使えれば仕事に困らねぇ」

「自分で召喚して、自分で仕事に登録して、自分で退治すんの?」

「ああ、そうだ。便利だろ」

「…ま、まぁ、割と平和的な使い道だね。でも、そういう使い道をするやつばかりじゃないだろうしね。瘴獣を召喚して戦争に使用したり、それを理由に街全体を脅迫したりなんてこともできるだろうし」

「なるほど、そんな使い方もあるか。気付かなかった」

 ミーファの言葉にジェイルは素直に感心している。

「ジェイルってワンダラーの仕事以外には興味無いよね」

「ワンダラーの鑑だろ」

 ジェイルは誇らしげに言った。

「まあ、いいけど」

「一つ良いか。研究していないと言っていた復活の魔法とは?」

 ずっと黙って聞いていたエマが口を開いた。人族の魔法はエルフ族は使わないため興味が沸くようだ。エルフ族もエルフ族特有の魔法があると言われるが、何故かエマは使わない。

「復活の魔法が禁止されている理由はちょっと特殊で、危険というわけではなくて倫理上の問題なの」

「倫理上の問題?」

 今度はエマの質問が始まった。

「そう。復活の魔法というのは、死者を生き返らせる陣魔法。神を冒涜する魔法ということで、禁止されているの。ただ、禁止されなくても成功率はほとんど無いに等しいけどね」

「なるほど。神はともかくとして、自然の摂理に反する。確かに許される魔法では無さそうだな。しかし、成功率がほとんど無いというのは?」

 エルフ族は人族が信仰する大地母神マテルを信仰しているわけでは無いため、理由は違ったがやはり死者の復活には反対のようだ。

「生き物が死ぬのはそれなりに理由がある。重い病気だったり、怪我だったり、寿命だったりね。肉体が生命活動を維持できない状態になってるから死んでるのに、精神や魂だけを魔法で呼び戻しても生き返ったりはしないわ。可能性があるのは、ショック死とかの突然死ね。それでも魔法自体が非常に難しい上に準備に時間が掛かる。死んだ直後でもない限りはやっぱり肉体が受け皿になれない状態になってしまうし、都合良く準備万端な状況でショック死なんて無いでしょ。だからほぼ無理」

「そういうことか。……しかし、人を復活する魔法があるのなら、……殺す魔法もあるのか?」

 エマの表情が厳しい。ジェイルもミーファに視線を注いでいる。確かに存在するば恐ろしい魔法だ。

「……あるわ」

 その二人にミーファは得意気な、しかも何故か笑みを浮かべながら答える。カイトも後ろで笑っている。

「ん? でもさっき言ってた五つの禁呪の中にあったっけか?」

 ジェイルはそんな二人の態度に怪訝な顔をしつつも、さっきミーファの言った代表的な五つの禁呪の中に入っていないことが疑問なようだ。

「さっき言ったのは代表的なものだけだからね。他にこまごまとあるよ。その一つが死の魔法」

「死の魔法がこまごまとした部類なのか?」

 エマは眉間に皺を寄せ、信じられないという表情をしている。

「うん。その他大勢の一つって感じ。何故なら成功しないから」

「そんなに難しい魔法なのか?」

「ううん。それほどでも。簡単では無いけど、マリオネットとかリカバリとかに比べたら全然楽よ」

「言ってる意味がさっぱりわからん」

「何故成功しないかというと、諸説あるけど最近の研究で一番有力なのは生き物の死にたくないという精神の防衛本能が非常に強力だからと言われてるわ。それはすべての生き物対して言えることで、死の魔法を完璧に使っても虫を殺せた実績すら無いそうよ」

「効かない魔法だからその他大勢の部類なのか。だが、自殺志願者とかだったら効くんじゃねえのか」

「自殺志願者だって、頭で死にたいと思っているだけで、生物としての本能が死にたいと思う分けじゃないから無理ね」

 ミーファは人差し指を立てながら得意げに説明する。

「なるほど。ジェイルが男としての本能でタオル姿のミーファから目を離さないことと同じということか」

『それは違う』

 エマが真顔で見当違いなことを言ったので、ミーファとカイトが真顔でツッコむ。

「ジェイルのは変態なだけ。まあ、そんな訳で、オクラってのが研究してるのは多分マリオネット、スリープ、サモンのどれかよ。もし、マリオネットとスリープを研究してるとしたら、私たちも掛けられないように気をつけないと」

「防げないのか?」

 今までずっと話を聞いているだけだったカイトが口を開く。その声にミーファはカイトの方を振り向いた。

「まあ、陣魔法だから魔方陣の中に入りさえしなければ、とりあえずは大丈夫よ」

「なぁに、死の魔法が精神力で弾けるなら他も同じだろ? だったら俺様は掛からねぇよ」

 ジェイルは根拠の無い自信を見せる。

「まあ、そうだけど。無理だと思うよ。マリオネットはちょっと特殊な精神干渉だし、スリープは多分防げない。人は心の底では眠りを求めるからね」

「心配ねぇよ。 自分の心配でもしとけ」

 ミーファはものすごい疑惑の目を向けている。

「おもしろそうだから俺も行こう。どうするんだ?」

 ジェイルは立ち上がるとカイトに目を向ける。

「そうだな。正面から行っても答えてくれる訳も無いし、何か策を練らないとな。潜入するにしてもとりあえずは下見だな。これは俺とジェイルで行ってこよう。あまり多いと怪しまれるし、エマとミーファは建物の構造を見てもわからないだろ」

「む、失礼な」

「わかるのか」

「……何階建てかくらいは」

「私もそれくらいならわかるぞ」

「……ジェイルと二人で行ってくる」

 カイトは疲れた声でそう言うと、ジェイルと共に宿を出た。

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