第二話 【2】
「ここか?」
「そうっぽいね。魔法士協会の旗が立ってるし」
カイトとミーファ、そしてエマの三人は街の西南にある魔法士協会の建物に来ていた。建物は三階建てで割と広く、屋根の中央には魔方陣と二本の杖が描かれた魔法士協会の旗がなびいている。ジェイルは話を聞くのは面倒だからと魔法士協会には来なかった。
三人は入り口の扉までくると、カイトが扉を叩く。
「すいませーん。ギルドで仕事を受けたワンダラーの者です」
少し待つと扉が開き、中から中肉中背でローブを纏った初老の男が顔を出した。
「おお、依頼していた仕事の件ですな。店主より連絡を受けています。よく来てくださった」
男は全員を握手をすると愛想良く三人を中へと招き入れ、一階の客間と思われる部屋へと案内された。部屋内部は中央にテーブルがあり、その両側に丈夫そうなソファが並べてある。案内した男はその片側に座って待つように言うと一度部屋を出た。しばらくして白髪の髪を肩まで伸ばし、顎にも白い髭を生やした、いかにも偉そうな老人と部屋に戻り、カイト達三人を紹介した。エマはいつも通りバンダナを巻いているため、エルフ族だということには気づいていないようだ。
「儂はこの協会の理事を努めているリガル・バウエンである」
リガルと名乗った男は三人の正面に座る。
「さっそくですが、ギルドの方では人物調査ということまでは聞いていますが、具体的な内容までは聞いていません。誰を調査するのですか?」
カイトはさっそく本題に入る。エマもこういうことに興味があるのか耳を傾けているが、ミーファは出された紅茶を真剣に吟味している。
「うむ。調査して欲しいのは、この街の外れに住むオクラ・トマエルという男だ。魔法の研究者なんだが、そこで何を研究をしているかを調査して欲しいのじゃ」
「何の研究をしているの」
紅茶を吟味していたミーファが魔法の研究という言葉に反応する。
「いや、じゃからそれを調査して欲しいのじゃが……。ま、まあ実を言うと何を研究しているのかはわかっている。禁呪じゃ」
「禁呪……」
それを聞いたミーファは複雑な表情をしている。
「何故魔法士協会で調査しないのですか?」
カイトが質問する。この質問は重要である。こういうことを自分達で行わずワンダラーに頼む時は何か裏があることが多い。
「う~む。まぁ、ちょっと訳ありなのだが仕事を頼む以上仕方あるまい。実はこの男、今は別件で破門となっているが、元々は儂と同じこの協会の理事でな。この協会のやり方にも人物にも詳しいのじゃ。協会の方でも調査はしたのじゃが、正攻法では尻尾を出さん。証拠が無ければ憲兵に引き渡すことも出来んで。それで、ギルドに調査を依頼したのじゃ。研究で済んでおればいいのじゃが、少々危ない男での。協会出身者の者が禁呪を使ったとなればこの協会の権威が失墜する。その前に何としても捕まえたいのじゃ」
「なるほど。つまり、正攻法じゃない手を使ってでも調べてこいということですね」
「……それは任せる。報酬は成功したら金貨六枚でどうじゃ」
金貨六枚は、人物調査としては破格の報酬である。だからこそ暗に手段は問うなというリガルの真意がカイトには伺えた。非合法なことをしてでも、というところがカイトには引っかかったが、金貨六枚という報酬に負けた。
「……わかりました。引き受けましょう。エマ、ミーファいいな」
「私は構わない」
「え?…あ、うん」
禁呪という言葉を聞いてから無口になっていたミーファが微妙な表情をしている。カイトはなんとなく気になったが、とりあえずは無視した。
その後カイト達はオクラ・トマエルという男の館の詳しい位置を聞くと、魔法士協会を後にした。
「とりあえず、ジェイルのところに戻るか」
門を出た後に宿に戻ろうとしたカイトをエマが引きとめる。
「禁呪とは何なのだ?」
エマには先程の話がよく分かっていなかったらしい。
「いろいろあるが、ミーファに聞いた方早いだろ。なっ」
カイトは一番後ろを歩いていたミーファに話しを振る。
「え? あ、うん。どうせ、ジェイルも聞いてくるだろうから、戻ったら教えるよ」
「どうしたんだ、ミーファ?さっきから元気が無いな?」
「そ、そう? そんなこと無いよ。あは、あははははは」
ミーファはあきらかにわざとらしい笑みを浮かべると視線を逸らした。
「……なんか、後ろめいたことがあるな」
「な、無いよ!!」
ミーファは否定したが、額から汗が吹き出していた。
「まあ、いいや。とっとと戻ろう」