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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第四話 呪われた剣
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第四話 【05】

「ぬぐぐぐぐ……。カイトにまで……」

 ジェイルがギルドでレイオンという男と会っている頃、カイト達はエマとミーファの部屋でチャリオッツをやっていた。

 最初はエマとミーファが対戦していたが、結局またもミーファが三連敗を喫し、対戦相手をカイトに変えたが、たった今カイトにも負けたところだった。

「ま、まぁ、俺もこれは昔結構やったし、割りと自信があるからな。あまり気落ちするなよ。そんなに弱くなかったぞ」

 しかし、その言葉がミーファをさらに気落ちさせる。ミーファもチャリオッツにはかなりの自信を持っている。

「もぉ、チャリオッツやんない~……」

「そんなに落ち込むなって。卓上の遊びじゃないか……」

 いじけた声を上げたミーファにカイトは慰めるようにミーファの肩に手を置いたが、エマが留めの一撃をくらわせる。

「このチャリオッツとやらは、人族が考えたものにしてはよく出来ている。ただ駒を動かすだけでは勝つことは難しい。ミーファはもう少し頭を使って戦略を考えた方がいい」

「……エマ」

 エマは特に悪気は無かったが、カイトは顔を引きつらせながらミーファを見ると、ミーファは震えながら顔を卓に埋めていた。

「はは……。と、ところで、エマはどうやってチャリオッツを覚えたんだ? エルフ族の間でも流行っているのか?」

「ん? いや。エルフはこういうことはしない。遊びといえども争い事は嫌う者が多いからな。私も里ではやったことが無い」

「そうなのか? じゃあ、何で?」

「私は子供の頃にも里を出たことがあってな。その時に知り合った人が教えてくれたのだ。その頃は私もまだ、感情の起伏も大きく負けず嫌いだったのでな。その男に勝とうといろいろ学んだ。その男もチャリオッツが強かったからな。必然的に私もいろいろ覚えた」

 エマはそう言うと、珍しく懐かしそうな表情を浮かべ、窓の外を見た。

「なるほどな」

 カイトはエマの子供の頃というのが、いったいいつなのか興味が湧いたが、その疑問を口にする寸前に、ミーファが突然復活し、立ち上がると窓の外を見て声を上げる。

「気分転換したい!! 外に行こうよ!!」

「唐突だな。別に構わないが。エマはどうする?」

「エマも行こうよ。窓の外から見るだけじゃ飽きるでしょ?」

「遠慮しておく。あまり騒がれるのも好きではない」

 エルフ族はほとんど人前には姿を現さないため、エマがエルフ族であることがわかると、街中ではかなりの騒ぎになることがあった。

「え~っ!! 大丈夫だよ。ねぇ、カイト?」

「そうだな。騒ぎになったらなんとかするさ。仕事以外では部屋に篭りっきりでは息が詰まるだろ? たまには息抜きでもしよう」

「……そうか。そう、だな。せっかく里を出てきたのに、里と似たような暮らしをしていても仕方がないか……。わかった。行こう」

「やった」

 エマは立ち上がると、いつも通り長い耳を隠すために緑のバンダナを頭に巻くと、三人で宿を出た。

 

 三人はクレストの街の中心へと通りを進む。

「ミーファ、どっか行きたいところでもあるのか?」

「うん。ちょっと魔石屋に行きたい。最近、杖の魔石が寿命みたいで魔力を込めてもあまり持たないみたいでさ」

 ミーファは腰に指したお気に入りの杖の先端に付けられた魔石をカイトに見せた。

「最近結構使ってたからな。じゃあ、魔石屋に行こう。といっても、俺は場所を知らないが」

「大丈夫。あたしが知ってるよ。結構近いよ」

 そう言うとミーファは三人の先頭を歩きカイトとエマを魔石屋へと案内する。ミーファの言うとおりそれ程の距離は無く、程なくいびつな形の魔石が描かれた、魔石屋特有の看板が見えてくると、三人は中へと入った。

「いらっしゃい」

 中に入ると、カウンターの奥から魔石屋には似つかわしくない四十過ぎの威勢のいい男が三人を迎える。魔石屋は輝石に魔法を込めることも生業の一つのため、この男も魔法士の可能性が高いが、一見するとそうは見えない。

「おお、いつもの嬢ちゃんか。今日はどうした? また輝石が必要なのか?」

 店主はミーファを見ると、気軽に声を掛けた。ミーファはこの街ではいつものこの魔石屋を利用しているらしく、店主とも顔なじみのようだった。

「『嬢ちゃん』じゃない! 大魔法士っ!!」

「わっはっは。背伸びしたがる年頃だな。で、どうした?」

「もうっ! 今日は輝石じゃないよ。杖の魔石を交換したいんだけど、出来る?」

 ミーファは腰に刺していた金属製の短い杖を店主に見せた。カイトとエマは普段あまりこないためか、めずらしそうに周りの品々を見ている。

「魔石屋なんだから当然出来るが、どれ貸してみろ」

 ミーファは杖を店主に渡す。

「いい杖だ。これはドワーフ作だな? 結構高いんじゃないか?」

「まぁね。あたしくらいになると、これくらいじゃないと釣り合わないでしょ?」

「そ、そうか……。まあ、これ以上は触れないでおくが。ふむ。このサイズの魔石は今在庫が無いから、一回り大きいのを削る必要がある。少し時間をもらうぞ」

「どれくらい?」

「二刻程だ」

「ああ、それくらいなら全然いいよ。あたしの可愛さに免じて安くしてよね」

「常連に免じて少しだけな」

 ミーファの言葉を笑いながら即座に返した店主にミーファは舌を出すと、カイトとエマを探す。カイトは杖が並べられた棚をめずらしそうに手に取りながら見ており、エマはガラスケースに入った一つの輝石を無表情に見ていた。ミーファはエマに近づくと同じものを見る。

「わっ! 何これ? 大きい! これで一個の輝石なの?」

 輝石は大抵の場合、人の拳以下の大きさがほとんどであり、大きくても拳二つ分程である。しかし、エマの見ていた輝石は人の頭程もある大きさだった。

 ミーファの声に店主はカウンターから身を乗り出してミーファ達の方を見る。

「おお、それか。すげぇだろ。そいつは飛竜ワイバーンの輝石だ」

「竜だと? そんな、ばかな……」

 エマは顔を歪めると、睨むように店主を見た。

「竜ってこんなに大きい輝石を残すの?」

「へっ? わっはっは。何だ、大魔法士様はワンダラーやってるのに何にも知らねぇんだな」

 ミーファの言葉に店主は大笑いすると、ミーファは頬を膨らませた。そして、いつの間にか近づいていたカイトがミーファの頭に軽く手を置く。

「飛竜は竜の名を持つが、竜じゃない。トカゲの瘴獣で、どちらかというとバジリスクとかの仲間だ」

「バジリスク? って、あのバジリスク? バジリスクの仲間がこんな輝石残すなんて、あんまり想像出来ないけど」

「まあ、似ている部分は元がトカゲってことだけだが。トカゲの瘴獣が強い瘴気に長い歳月晒され続けると、巨大化し、翼が生え、竜に似た姿となる。だから飛竜ワイバーンって呼ばれてるんだ。その巨大さはこの輝石を見ればわかるだろ?」

 カイトは輝石を指さす。

「そういうことか?」

 エマは一瞬安堵したような表情を浮かべると、また無表情になり視線を輝石に戻した。

「な、なんか……。すごい、強そうだね」

「強いなんてものじゃない。飛竜はウィザーゴーストなどと並んで、瘴獣最強種の一つだよ。もっとも、めったに発生しないがな。数年に一度現れるかどうかで、確認されたら通常は軍や討伐隊が編成され、大規模な掃討が行われる」

「へ~。カイトは戦ったことあるの?」

「いや、ない。そういう役回りでは無かったからな」

「?」

「そういうことだ。大魔法士様、わかったかい?」

 カウンターからカイトとミーファの話を聞いていた店主がからかうように言うと、ミーファは店主の方を軽く睨みながら見ると口を開く。

「でも、そんな貴重そうなものが、何でこんな店にあるの?」

「こんな店って……。魔石屋なんだからあっても不思議じゃないだろ。まあ、それは店の看板商品にでもなればと思って、大枚叩いて手に入れたんだよ。そのサイズじゃ使い道が無いから、普通は砕いて使いやすいサイズにしてから売るんだが、看板としてそのまま飾ってるのさ」

「見栄っぱり~」

「うるせぇよ」

 ミーファと店主の言い合いを笑いながら見ていたカイトは、少ししてミーファの肩を叩く。

「さて、ここはもういいのか?」

「あ、うん。そだね。じゃあ、杖よろしくね」

「あいよ」

 ミーファは店主に舌を出しつつも軽く手を振り、カイト、エマと共に店を出た。

 

「中央の広場の方に行ってみるか。何かやってるかもしれない」

「ああ、いいかも」

 カイトの提案にミーファは頷き、エマは今歩いている通りでも十分に興味を引いているのか、周りを珍しそうに眺めていたが、ミーファに続いて無言で頷いた。

 三人は通りをクレストの街の中心にある広場を目指す。途中、エマが興味を引いたものをカイトが説明しながら歩いていると、それ程掛からずに広場へと出た。

 広場では特に大きな催し物などは開かれていなかったが、広場の端で人だかりが出来ているのが見えた。

「あれは何をしているのだ?」

 エマはその人だかりを指差すと、カイトに聞く。

「ん? 何だろうな? ……ああ、どうやら大道芸人が何か披露しているようだな」

「?」

 エマには大道芸人というものがわからなかったのか、カイトの説明にも首を傾げた。

「そうだな。実際に見たほうが早いだろう」

 カイトはエマとミーファを連れて人だかりに中へと入った。人だかりの中央では、大道芸人が三つの玉を順番に空中に放り投げながら器用に操り、時折冗談を交えながら観客を楽しませていた。

「……で、何をしているのだ?」

 しかし、エマは実際に見ても特に意味のあるものに見えず、やはり首を傾げた。

「いや……、見た通りなんだが。ああやって、見ている者を楽しませているのさ。何といえばいいのか。娯楽というか、改まって聞かれるとちょっと説明し難いな」

「娯楽?」

 カイトが説明に困ると、その隣ではミーファも手を叩いて笑いながら大道芸人を見ており、それを見たエマはさらに周りにいる人達にも視線を移した。移した先の人々も一様に笑顔を浮かべているのを見ると、エマは再度大道芸人に視線を移した。

「……なるほど」

「?」

 今度はカイトが首を傾げる。エルフ族であるエマはこういったものに否定的な意見を述べると思っていたが、エマはむしろ関心したような表情を浮かべたことが意外だった。

「エルフ族ではこういったことはしないのか?」

「しないな。娯楽と呼べるものはあるが、大分違う」

「そうか。ドワーフがやってるのも見たことが無いし、確かにこういったことは人族特有かもな」

 エマはしばらく大道芸人と周りの人々を眺めており、ミーファも大道芸を楽しんでいたため、カイト自身はそれ程興味は無かったが二人に付き合った。そして、大道芸人が次の芸に切り替えるところで、ミーファがカイトの腕を引く。

「ねぇ、お腹空かない?」

「ん? そうだな。そういえばそろそろ昼時か。その辺の屋台で何か買うか」

 広場には常時いくつかの屋台が店を構えている。

「あ、いいね。屋台の料理って結構好き」

「エマもいいか?」

 エマはまだ見ていたが、カイトの方に視線を移すと頷いた。

「うむ。何を食べるのだ?」

「そうだな。ミーファ、何がいいんだ?」

「クレープにしよ」

「クレープか。じゃあ、俺は飲み物を買ってくるから、俺の分も買っておいてくれ」

「カイトは何がいいの?」

「そうだな。肉系がいいな。無ければ、甘くなければなんでもいい」

「りょうかーい。エマ、行こ」

「うむ」

 ミーファとエマは一度カイトと別れ、近くのクレープを売っている屋台へと向かった。

「クレープとは何だ?」

「クレープ知らないの? 水で溶いた麦の粉を鉄板の上で薄く伸ばすの。で、それに肉とか野菜とか果物とかを巻いて食べるの。おいしいよ」

「薄く伸ばす?」

「まあ、見ればわかるって」

「うむ」

 ミーファとエマは屋台の前まで来ると、屋台では茶色い髪をした若い女性が店番をしていた。

「いらっしゃいませ」

 女性は明るく二人に挨拶しながらも、正面にある熱せられた鉄板の上で器用に棒を使って水で溶いた麦の粉を薄く伸ばしていた。エマは不思議そうにそれを眺めている。

「何にしますか?」

 女性はメニューが書かれた紙に視線を送ると、ミーファもそれを見ながら考え込んだ。

「う~ん。どれがいいかな。じゃあ、果物三品巻きを蜂蜜入りで。エマはどうする?」

 女性の手元を見ていたエマはミーファに声を掛けられるとメニューを見たが、よくわからず首を傾げる。

「よくわからない。ミーファと同じものでいい」

「いいの? じゃあ、それを二つと。カイトの分はと、肉巻きでいっか」

「肉巻きの味は?」

「味? 聞いてなかった。う~ん、じゃあ、胡椒で」

「どれくらい?」

「え? じゃあ、がっつりで」

「はーい」

 注文内容を聞いた女性は、手際良くクレープを作っていく。その間にミーファは座れる場所を探し、エマは女性の手元をめずらしそうに見ていた。

 少ししてクレープが出来上がると、ミーファは自分の分とカイトの分を受け取り、エマも自分の分を受け取った。

「……変わった食べ物だな。おいしそうではあるが」

 エマは両手で持ったクレープをじっと見つめた。エマとミーファのクレープは中に、三種類の果物が巻かれており、その上から蜂蜜が掛けられている。

「おいしいよ。お手軽だしね。魔法学校に通ってた頃に、学校の帰りに友達と良く食べたんだ」

 ミーファは先に見つけておいた公園のベンチに腰掛けると、カイトの戻りを待った。

「あ、きた。おーい。こっち、こっち」

 飲み物を持ってミーファとエマを探していたカイトを見つけるとミーファは手を振り、それに気付いたカイトが二人の元にやってきた。

「ほら。炭酸入りの果物ジュースだ。エマのは炭酸無しにしておいたぞ」

 カイトは買ってきた飲み物を二人に渡した。

「お、いいね。じゃあ、これカイトの」

 ミーファもカイトに買ったクレープを渡すと、カイトは受け取り同じベンチに腰掛け、三人で食べ始めた。

「どう、エマ。おいしい?」

「うむ。小麦や果物は我々も食べるが、こうして同時に食べたのは初めてだ。合うものだな。蜂蜜もよく合っている」

「でしょ」

 エマは特に表情を変えることは無かったが、満足そうに頷く。果物のクレープはエマの口にも合うようだった。

「ぶふぉっ!!」

 その隣で、クレープを頬張ったカイトが突然咳き込む。ミーファとエマは驚いてカイトの方を向いた。

「どったの、カイト?」

「ミーファ。これ、味付け何だ?」

「え、胡椒だけど。男の人は濃い方がいいのかと思って、とりあえずがっつり掛けてもらったんだけど」

「掛け過ぎだ……。ジェイルじゃないんだから。俺はどちらかと言うと、薄味好みだ」

「えっ? そうなの? まあ、気にしない、気にしない」

 ミーファはカイトの肩を軽く叩く。カイトは胡椒のきつさに顔を歪めながらも、食べ物を残すのが嫌いなのか、クレープを口に含んでは自分用に買った飲み物で流し込みながらなんとか食べきった。

 ミーファはエマに何かと説明しながら食べていたため、カイトが食べ終わっても二人で話しながら食事を続けていたが、それもしばらくして終わり、三人共が食べ終わった。

「さて、そろそろ戻るか。ジェイルも戻ってくる頃だろ」

「そうだね~。気分転換にもなったし、そろそろ杖も出来上がってる頃だから帰りに魔石屋さんに寄ってこ」

「ああ」

 三人は立ち上がると、安宿へと向かった。広場では、まだ大道芸人が芸を披露しており、人だかりは先程よりも多くなっているようだった。

 帰路の途中に魔石屋で杖を受け取り店を出ると、ちょうど通りを歩いていたジェイルの後ろ姿が見えた。

「ジェイルッ!」

 カイトが呼び止めると、ジェイルは振り向いてそのまま三人の方にきた。

「何だ、外にいたのか。ちょうど良かった。これからレジェ・ミノルの野郎の所に行ってみようぜ」

「唐突だな。場所がわかったのか?」

「ああ。ここから一刻も掛からねぇ。うまくすれば、今日でこの仕事も終わりだ。それとも、何か都合が悪いのか?」

「いや、そんなことをは無いが――」

「あたしも別にいいよ。気分転換に外に出ただけだし」

 エマも特に問題無さそうにカイトを見た。

「じゃあ、行ってみよう」

「よし、決まりだ」

 四人は一度宿に戻り、装備を整えると一路レジェ・ミノルの元へと向かった。

 


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