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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第四話 呪われた剣
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第四話 【04】

 翌朝、ジェイルはカイト達を宿に残し、ギルドへと向かって通りを歩いていた。

 まだ、朝早いこともあり、通りにはまばらにしか人通りは無い。

 ギルドに到着すると、入り口近くで中を見渡した。

「さて、レイオンの野郎は?」

 中ではギルド自体がまだ店を開けたばかりらしく、店主もギルドに頼まれた仕事内容が書かれた『飯の種』に新しい仕事を追加している途中であり、仕事を受けに来た者達も二人程しかいなかった。

「――いやがった」

 店内をひと通り見回したジェイルは、店の隅のテーブルで入り口に背を向けて座り『飯の種』をめくっている男に近づく。

 四十歳を超えているとおもわれるその男は、短く黒い髪で身長はそれ程高く無いががっしりとした体格をしている。

「おい、レイオン。相変わらず寂しい野郎だな。人目を避けて一人で仕事探しか?」

「……ジェイルか。また、何かようか?」

 レイオンと呼ばれたその男は顔を上げると、めんどうそうにジェイルを見る。

「相変わらず無愛想な野郎だ。何かいい仕事でもあったか?」

「お前にタリアマル公国の仕事を取られたからな。めぼしいのは無くなった」

 ジェイルはレイオンの正面に座る

「何だ。お前、あれを狙ってたのか?」

「調査が終わっているはずのタリアマル公国の再調査だったからな。気になって下調べしているうちにお前に取られた。まさかお前がああいう仕事に手を出すとは思わなかったよ」

 レイオンは肩をすくめた。

「ま、いろいろと訳ありでよ。だが、なかなかおもしろい仕事だったぜ」

「大量の古文書が発見されたそうだな」

「ああ。訳わからん書物が結構あったな」

「惜しいことを……。それがあれば未だ未発見の遺跡を探す手掛かりになったかもしれん」

「あるなら依頼主が探すだろうさ。お前と違うんでな。俺はこれ以上は興味ねぇ。まあ、報酬は安かったが、わけのわからん戦利品ももらった」

「戦利品?」

「こいつだよ。何だかわかるか?」

 ジェイルは首から下げていた拳大の赤い輝石のようなものを外すと、淡い期待を込めてレイオンに手渡した。レイオンはそれを真剣に眺めている。

「……中で何か揺らいでるな。輝石によく似ているが、しかしこの色は……。わからん。初めて見る」

 レイオンはジェイルに赤い輝石を返した。

「ちっ。お前でもわかんねぇのか。宝石商も魔石屋も何だかわからんと買い取ってくれやしねぇ。どっかで高値で売れることを期待してるんだがな。……お前、買わねぇか?」

「いらん。売れんと聞いて買うばかはいない。収集癖は無いんでな。それより、要件は何だ? 世間話をしに来たわけでもあるまい?」

 ジェイルはレイオンから赤い輝石を受け取ると、首に下げる。

「つまんねぇ野郎だな。まぁいい。昨日話していたレジェ・ミノルって奴の話をもう少し詳しく聞きてぇんだ」

「あんな小僧の話を? お前が相手をするような奴では無いと思うが?」

「別にそいつ個人に興味はねぇよ。そいつよりもそいつが盗った物に用がある」

「よくわからんが、どうやら奴の言っていた『でかい仕事』というのに絡んだのか?」

「さぁな。でかい仕事なのかどうかは知らんが、少なくとも俺たちが欲しいものを持っている可能性が高い」

「物は何だ?」

「あほか。盗賊を生業としている奴に教えるかよ。それに、お前が興味を持つようなもんじゃねぇよ」

「用心深くなったもんだ。まぁいい。で、何を聞きたいんだ?」

「どこにいるんだ? 隠れ家でもあるんなら、そこにいるんじゃねぇかと踏んでるんだが」

「……おいおい。本気で聞いているのか? 同業を売れというのか?」

「こそ泥と盗賊は同業なのか? それに、誤解すんなよ。さっきも言ったが、そいつには興味ねぇよ。そいつが盗ったもんを返してもらうだけだ」

「憲兵には渡さないと?」

「あほか。当然だ。そもそも、そいつを捕まえることなんか請け負っちゃいない。報酬以上の働きはしない主義だ。それに、憲兵と絡むなんざこっちから願い下げだ」

「あいつを憲兵に突き出されると、情報源としてこっちの身も危ないんだが?」

「信じろっての」

「――いいだろう。お前とも長い付き合いだ。だが、奴を憲兵に突き出さないことが条件だ。それを破れば……」

 レイオンの眼が鋭くなりジェイルを見るが、ジェイルはそれを受け流す。

「おっかねぇ顔だな。心配すんなって」

「ふっ。わかった。で、居場所だったか?」

「ああ」

「現在の居場所は知らんが、奴が隠れ家として使っている小屋なら知っている」

 レイオンはそう言うと立ち上がり、ギルドの店主に周辺の地図を借りると卓の上に広げた。

「この街の北東にある森の中に山小屋がある。昔は木こり達の小屋だったものだが、使われなくなったものを勝手に拝借し、自らの隠れ家というか、家としているようだ。確かのこのあたりだったはずだ」

 レイオンはそう言うと、地図に描かれているクレストの街の北東にある森の一箇所を指した。

「……街から、近くねぇか?」

 ジェイルが言うように、その場所は街を出て一刻も掛からない程の距離だった。隠れ家とするにはあまりに街から近い。

「ああ。普通は敢えて街の中に隠れ家を造るか、街を出るならある程度離れるものだがな。そうでなければ街を出た意味がない。まあ、こういった場所に隠れ家を造るのも、盲点として憲兵の裏をかいているといえばそうかもしれんが。そこまで考えているかは微妙だな。それに、さっきも言ったがやってることはこそ泥だからな。あまり街から離れると仕事し難いんだろうよ。ここも隠れ家としてだけでなく、常時住んでいるらしいしな。ここなら買い出しもしやすい」

「……合理的というか、アホというか」

「多分、後者だ」

「よくもまぁ、盗賊シーフなんて名乗ってるもんだ」

「自称するのは自由だからな。ただ、俺達と同一視されるのは勘弁願いたいが」

 レイオンは肩をすくめる。

「しかし、お前に狙われるとはこいつも、随分と分不相応なことをやったもんだ」

「だから、こいつに興味はねぇっての。しかし、少々厄介な仕事だと思っていたが、案外そうでもないかもな。……嫌な予感がしやがる」

「何だそれは?」

「こういう時は大概変なオチがつくもんだ」

「確かにな」

 レイオンは軽く笑いながら言うと、地図を畳み店主に返した。

 そして、ジェイルは卓の上に情報料として銀貨一枚を置くと、立ち上がる。

「ありがとよ。いい情報だったぜ。今度は酒でも飲もうや」

 ジェイルはレイオンの返事は待たずにギルドの出口へと向かって歩き出した。レイオンは銀貨を懐にいれると、自分の横を通り過ぎようとするジェイルに向けて声を掛ける。

「マキアによろしくな」

「――けっ。嫌な野郎だ」

「はっはっはっ」

 ジェイルはレイオンに背中を向けたまま、軽く手を上げるとそのままギルドを出て行った。

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