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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第四話 呪われた剣
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第四話 【03】

 食堂を出たカイトは日が暮れるまで街中で適当に時間を潰すと、再度ドイズ・ゲルマンの邸宅の近くに来ていた。

 カイトは通りを挟んだ先にある邸宅の入り口を探り、邸宅に灯りが灯っていることと、入り口周辺には誰もいないことを確認すると通りを渡り、周辺にいる人からはドイズ・ゲルマンを訪ねて来た客人に見えるように、自然と入り口から敷地内へと入る。そして、すぐに庭の植え込み隠れると、邸宅の人間に気づかれていないことを確認するように周りを探った。

「ふう。大丈夫なようだな。議員の家に潜り込むなんて、ばれたらひどいことになる……。まぁ、俺がやると言った以上は仕方ない」

 カイトは一人呟くと、未だ僅かに残る日の光が完全に消えるまでその場で待った。

 そして光が完全に消え、周りに見える灯りは、入り口に灯された魔石の灯りと家の中から零れる灯りだけになると動き出した。

「さて、どうやって探るか。さすがに家の中に直接入るわけには行かないしな。出来れば床下か天井裏に潜り込みたいところだが……」

 カイトは植え込み伝いに進み、家の周りを回って忍び込めそうな場所を探す。すると、床下の石組みで作られた基礎の部分に、通風用の這って通ればなんとか通れそうな四角い穴が空いているのを見つけた。

 鉄の格子が付けられてはいたが、強く引くと簡単に外れたため、カイトは這って床下へと潜り込んだ。

 床下は床板のわずかな隙間から漏れる家の魔石の灯りで、なんとか周りを見渡すことが出来る。

「さて、ここまでうまくいったが、後はどうやって探るか。まずはドイズ・ゲルマンを探したいところだな。そもそも家の中にいるんだろうな……」

 カイトは小声で呟くと、そのまま床下を這いながら邸宅内の気配を探っていく。

「何人かいるな。権力のある人間の部屋は、大抵奥だと思うが……」

 家の奥の方へと進んでいくと、話し声のする場所で止まる。床下を通る柱の関係から、かなり広めの部屋の下のように思えた。

「……二人で話ているようだな」

 カイトは話し声に耳を傾ける。

 『まだ奴は見つからんのかっ!』

 『申し訳ありません。全力で探してはいるのですが、未だ足取りがつかめず……』

「……話しぶりからすると、言葉遣いからすると一人がドイズ・ゲルマンのようだな。もう一人は秘書か何かか? 確かに機嫌が悪そうだ」

 カイトはさらに聞き耳を立てる。

 『瘴創剣を持ち逃げするとは何て奴だ。これだからワンダラーなど信用できんのだっ!! あんな奴に頼んだ貴様の失態だっ!』

 『し、しかし、我々と関係がある者に頼めば我々の関与が疑われます。流浪のワンダラーに頼むのが万が一の際に我々が疑われないためには最善かと……』

 『言い訳などよい!! なんとしてでも奴を探しだせ!! 見つからなければ貴様はクビだ!!』

 『は、はい。直ちに……』

 秘書と思われる男が部屋を出る音が聞こえる。

「なるほどね……」

 カイトが頷くと、ドイズ・ゲルマンの独り言が微かに聞こえて来たため、カイトは再度聞き耳を立てた。

 『議会、そしてここの住人どもに軍の必要性を見せつけねばならんというのに……。クレストが国家として独立するためには軍が必須なのだ。軍事力こそが国の要。軍事力を手に入れ国家として独立すれば軍を持たない周辺の街を取り込むことなど容易い。そうなればこの街、いや国はさらに大きくなり、その最大の功労者はこの私となる。そして、その暁にはこの国の王に……、ふはははは!! ――くそっ!! そのためにも何として瘴創剣を手に入れねば!!』

 ドイズ・ゲルマンは机と思われる物を強く叩くと部屋を出てどこかへ行ってしまった。

「おいおい……。ひどく危険な思想というか、幼稚な思想というか……。だが、潜り込んだ甲斐があったな。大分話が繋がった。しかし、奴というのはいったい……」

 カイトはしばらく思考に耽っていたが、床下だということを思い出し、急いで同じ場所から這い出ると、同じくすぐに植えこみへと身を隠した。そして、入り口側へと慎重に回りこむと入ってきた時と同じようにすばやく、そして外からは客人に見えるように通りへと出てその場を離れた。

 既にカイトの頭上では多くの星が瞬き、通りは点在する魔石の街灯により明るく照らされており、仕事帰りと思われる多くの人が歩いていた。カイトは床下に潜り込んだせいでかなり汚れが目立つ状態だったが、夜であることが幸いし気に留める者は誰もいなかった。

「大分遅い時間になったな。宿に戻るか」

 カイトは念のため裏通りを通りながら、拠点としている安宿へと向かう。

 

 宿へと着いたカイトは自分の部屋で汚れた服を着替え、軽く顔を拭くとミーファとエマが借りている部屋へと入った。

「ただいま」

 カイトは部屋の扉を開け中を覗きこむと、ミーファとエマは窓際のテーブルで向かい合い何かしていた。

「遅かったな」

 エマはカイトの方を向いたが、ミーファはカイトの声に気づいていないのか、テーブルに置かれたものを見つめたまま唸っていた。

「ああ、いろいろと調べたいことがあったんでね。それなりに収穫もあったよ。話したいことがあるんだが、ジェイルは?」

「少し前に戻ってきたぞ。カイトと似たようなことを言っていたな。全員揃ったら話すそうだ。先に下で飲んでるから来いとのことだ。私達もこれが終わったら行こうとしていたところだ」

「そうか、ちょうどいいな。……ところで、何してるんだ?」

 カイトは部屋の中へ入りミーファ達に近づくと、テーブルの上に格子の線が引かれた盤の上に駒が置かれていた。

「何だ、チャリオッツか。エマ、出来るのか?」

 チャリオッツとは盤上で行う遊びであり、白と黒に別れ兵や騎士、そして王に模した複数の駒を互いに持ち、互いの駒を一定の規則に沿って動かしながら相手の王を詰む遊びである。

「うむ。子供の頃に知り合った人族から学んだ。かなり久々だったが覚えていたようだ。ミーファが暇だからやろうと言うのでな」

「ん? あ、カイト! 戻ってたの!!」

 ミーファは顔を上げると、始めてカイトに気付いたようだ。

「気付いて無かったのか? ずっとエマと話していたんだが……。それより、下に行かないか? 話があるんだが」

「ちょっと待って! 今大事なとこなの!!」

 ミーファはカイトとの話を早々に切り上げ、再度盤上を凝視する。

「……ミーファ。さっきも言ったがもう詰んでいるのだが。そろそろ諦めてもらえないか?」

「そんなことない!! ……はず」

 エマの願いにもミーファは諦めきれない。カイトも盤を覗きこむ。

「……完全に詰んでいるな。もう、無理だと思うぞ」

「ぬぐぐぅ……」

「エマ、チャリオッツ強いのか?」

「いや、そんなことはないと思うのだが。里に戻った後はずっとやっていなかったからな。ミーファが弱いのではないか?」

 

 ―― パタッ ――

 

 エマの容赦の無い言葉にミーファはテーブルに突っ伏した。

「兄妹の中じゃ負けたこと無いのに……。五連敗なんて……」

「五連敗もしてたのか……。ほら、もう諦めろって。下行くぞ」

「う~……。わかったよ」

 ミーファは渋々立ち上がると、カイトとエマと共に宿の一階へと向かった。この宿の一階は食堂になっており、軽めの食事を取ることが出来るようになっている。

 カイト達は一階の食堂に着くと中を見渡す。食堂といっても宿泊客専用であり、料理を作るカウンターとテーブルが三つほどあるだけである。その中の一つのテーブルにジェイルが座っており、他には店員以外は誰もいない。

 カイト達はジェイルのいるテーブルの席に付く。テーブルの上には肉の腸詰めの盛り合わせだけがあり、ジェイルはそれをつまみにブロウディという酒をのまま飲んでいた。

「待たせたな」

「遅かったじゃねぇか。待ちくたびれちまったぜ。ミーファとエマはやっと決着がついたのか?」

「うるさーい!!」

「なんだ。また負けたのかよ」

 ミーファは頬を膨らませるとそっぽを向く。

「さてと、話の前に注文するか。エマはいつものでいいのか?」

「ん? ああ、構わない」

 カイトは軽く手を上げて店員を呼ぶ。店員と言っても店主の娘のようで、まだ十代の髪の長い少女がテーブルの側に来る。

「ご注文ですか?」

「ああ。まずは、俺は鶏肉のソテーと、パンを二つ。あとエマの塩パスタとサラダを。あ、塩パスタは味薄めで。それと、ミーファはどうする?」

 メニューを見ていたミーファに注文を促す。

「う~んと。ミートソースのパスタとサラダでいいや。あと何か飲み物が欲しい」

「じゃあ、それも。ああ、それとプロウディの水割りを一つと、果実ジュースを二つくれるか」

「かしこまりました」

 カイトはジェイル以外の注文をひと通り頼むと、店員はメモし店の奥へと下がっていった。ちなみに塩パスタとはその名の通り、塩だけで味付けされたパスタであり、全てが安いこの店の中でも最安値の料理だが、あまり濃い味の付いた料理が好きではないエマは好んでいた。

 そして、雑談していると店員が料理を運んで再度現れ、テーブルに注文した料理を並べる。

「さてと。料理もきたし、本題に入るか。ジェイルの方も何か情報を仕入れたらしいじゃないか?」

 カイトはブロウディの水割りを一口飲むと話始める。ミーファとエマは聞き耳を立てながらも食事を始めた。

「まぁな。関係あるかどうかは微妙なんだが、怪しそうな情報だ。お前の方は?」

 ジェイルは肉の腸詰めを頬張りながら答える。

「こっちは結構な収穫だ。じゃあ、俺の方から話そう」

「はにかほかったほ?」

 ミーファは口にパスタを詰めたまま口をもごもごさせる。

「先に飲み込めって。いくつかわかったことがある。まず、瘴創剣を盗むことを計画したのはドイズ・ゲルマンで間違いない。話していたのを直接聞いた。ついでに目的もわかった」

「なになに?」

 ミーファは興味津々といった雰囲気で、エマも塩パスタを少量ずつ黙々と食べているが、意識が話に向いているのがわかる。ジェイルはグラスを振ってブロウディの追加を注文した。

「ドイズ・ゲルマンは、このクレストの街を国家にすると掲げて政治家になったんだそうだ」

「クレストを国にする!?」

「おいおい。本気かよ。都市同盟のど真ん中に国家を作る?」

 ミーファ、そしてさすがにジェイルも驚く。

「ああ。本気度はかなりのものなようだ」

 そこで、エマは初めて手を止めた。

「人族というのは昔からそうだが、国というものが好きだな。昔から人族の争いごとは国と呼ばれるもの同士の争いに見えるが、何故人族は争いの種となるものを自ら作るのだ?」

 エマは不思議そうにカイトに視線を向ける。エルフ族は大陸にあるいくつかの大きな森に里が複数存在するが、国という考え方があるわけではない。そのため、同族にも関わらず国境という見えない線を引き、小さな違いで住む場所を分け、それを境に争いを繰り返す人族の考えが理解出来なかった。

「きつい質問だな。その答えは難しい。人は一人では生きていいけないからなのか、違いを受け入れる寛容さが無いからなのか。権力を欲する者が自らの権力範囲を広げた結果ともいえるが、一言で説明するのは難しいな」

 カイトは困ったような答えたが、エマは納得しなかったのか首を傾げると食事に戻った。

「まあ、放浪の身の俺らには関係のねぇもんさ。それより、国を作るって話と瘴創剣はどう関わってくるんだ?」

「そうそう」

 ジェイルは話の先を促すと、ミーファは乗っかる。

「ああ、まあいろいろ経緯があるようだが。前回の選挙の際にこの街を国家すると言って当選した後に、まず街を国家にすためには金が掛かると、いろいろと税金を上げたそうだ。増税自体は他の議員と思惑が一致し、それ程揉めることもなくすんなり成功したらしい。そして、次にドイズ・ゲルマンは集めた金で軍の設立を主張したらしい」

「軍を作るだぁ。そんなことをされちゃ、俺たちの商売上がったりだぜ」

 ジェイルは心底おもしろくなさそうに腸詰めを素手で掴んでかじる。都市同盟には軍が無いため瘴獣が野放しにされており、その退治が割りと高報酬のワンダラーの仕事となっている。

「まあ、それもあるが。ドイズ・ゲルマンはその軍を使って周辺の街も取り込んで、この街というか成功してれば国だが、それを大きくするつもりらしい」

「くだらねぇな。そんなにうまくいくもんか?」

 ジェイルはまだ面白くなさそうだ。ミーファは隣でサラダを口に運びながら首をひねっている。

「う~ん。まだわかんない。で、瘴創剣はどう関係するの?」

「ジェイルの疑問のとおり、その主張は他の議員達の反対にあってうまくいかなかったらしい。まあ、軍の創設となればそれだけで多額の金が掛かるし、それを維持していくとなるとさらに金が必要だ。せっかく増税した金をそんなことには使いたくなかったんだろうな。他の議員達から必要性が無いと反対され、ドイズ・ゲルマンに同調する議員はほとんどいなかったらしい。で、ここで瘴創剣が絡んでくる」

「あああっ!!! わかった。瘴獣の軍を創るつもりなんだ!!」

「……アホか。瘴獣が言うことなんて聞くか」

 ジェイルは小馬鹿にしたように言うとブロウディを一口飲む。

「むぐっ」

「ふふ。まあ、ジェイルの言うとおり瘴獣が人の言うことを聞くことは無いだろうな。そういう魔法があるかもしれないが、どの道あっても陣魔法だろうから範囲が限られる」

 陣魔法は魔法陣の範囲内しか効果が無い。

「むぅ。じゃあ、何で瘴創剣が必要なの」

「瘴創剣が必要というか、この街の他の議員や住人達に、軍が必要だと思わせる理由が必要だったのさ」

「どういうこと?」

 ミーファはまだよくわからない。ジェイルは肉に飽きたのか、どさくさに紛れてエマのサラダに手を伸ばしたが、エマに手を払われ渋々手を引っ込めた。

「ここからは俺の推測になるが、おそらくこの街の周辺に多くの瘴獣を発生されるつもりなんだろう」

「……なるほどなぁ。アホの考えそうなこった」

 ジェイルは理解したのか、呆れている。

「んんん? それでどうすんの?」

 ミーファは大きく首を傾げる。

「ふふ。ミーファ、軍の役割ってわかるか?」

「軍の役割? う~ん。戦うこと?」

「まあ、そうだが。国によって役割はいろいろあるが、基本的には対外的な抑止力も含めた治安維持ってところかな」

「対外的?」

「ああ。国内や街内の治安維持には基本的には憲兵隊があたっているだろ? その場合の軍の役割は対外的な脅威からの防衛になる。対外的な脅威というのは他国からの侵略や瘴獣あたりだな。で、ここで瘴創剣が登場となる」

「どういうこと?」

 いつの間にかパスタとサラダを食べ終わっていたミーファが、果実ジュースを飲みながら聞く。エマも食べ終わっており、同じく果実ジュースを飲みながらカイトの話に耳を傾けていた。

「瘴創剣の話が本当であれば、それで街の周辺に瘴獣を発生させてこの街を襲わせるつもりなんだろう」

「ええっ!! 何でそんなことすんの?」

 ミーファは思わず果実ジュースを落としそうになる。

「ドイズ・ゲルマンは軍の創設を提案した時に必要性が理由で一度断念した。だから、軍の必要性を作り出そうとしているのだろう。街が瘴獣に襲われるようなことになれば、最初は俺たちみたいなワンダラーに退治が依頼されるだろうが、それでも数が多いと手に負えなくなってくる。そうなれば、住人達は何とかしろ議員達に迫り、いずれは軍が必要だと住人の方から主張し始めると考えているのだろう」

「でも、そんなことすれば街の人たちも危ないんじゃないの? 執政者が街の人を危険に晒すなんてありえない!!」

「まあな。だが、それよりも自分の野心の方が勝ってしまったんだろう」

「権力に魅入られた奴の考えそうなこった」

 ジェイルはまたもブロウディの追加を頼む。

「ドイズ・ゲルマンは王様になりたいらしいからな。建国王でも目指しているんだろう」

「でも、軍を創れたとしても、それで国にって、そんなに簡単に出来るものなの?」

「軍を創ってそれを自分の手中に収めることが出来れば、可能性は無くもないかもしれない。瘴創剣を使ったことがばれなければ、軍の創設に尽力した立役者としてもてはやされるだろうしな。だがそこまで持っていけるかはかなり微妙だな」

「何で?」

「さっきも言ったが瘴獣は人の言うことなんて聞かない。そんなに都合よく街を襲うかどうかも微妙だ。街中で瘴獣を発生させれば街を襲うだろうが、そもそも街というのは瘴気が漂わない場所に作られているからな。街中で瘴獣が発生することなんてまず無い。それが、突然頻繁に瘴獣が発生するようになったらさすがに原因を調べられるだろうからそれは難しいだろう」

「なるほど」

 ミーファは果実ジュースを一口飲んだ。エマは話に嫌悪感を覚えたらしく、顔をしかめている。

「くっだらねぇ。で、瘴創剣を手に入れようとした理由ってのは大体わかったが、瘴創剣自体のありかはわかったのか?」

「それなんだが、ここからがちょっと話が複雑になってるんだ」

 カイトはそこまで言うと、ずっと話していて手を付けていなかった鶏肉のソテーを大きめに切って口に入れ、ついでにパンを一口かじるとブロウティの水割りで流し込んだ。

「複雑? ドイズ・ゲルマンの野郎が持ってるんじゃないのか?」

「いや、ドイズ・ゲルマンはまだ瘴創剣を入手していない」

 ミーファは果実ジュースを飲みながら首を傾げる。

「どういうこと。盗まれてないの? でも、実際聖堂には無かったじゃん」

「ああ。瘴創剣が盗まれたのは事実だし、それを計画したのはドイズ・ゲルマンだ。だが、ドイズ・ゲルマン自体は瘴創剣をまだ入手出来ていない。ドイズ・ゲルマン、というかその秘書だが、瘴創剣を盗み出すのをワンダラーに頼んだらしい。しかし、どうやらそのワンダラーは瘴創剣を盗むのに成功したが、それをドイズ・ゲルマンには渡さずに姿を消したらしいんだ」

「えっ!? 持ち逃げしたってこと」

「おそらくな。ドイズ・ゲルマンの方でも相当探しまわってるらしい」

「誰なの? そのワンダラーって?」

「わからない。ドイズ・ゲルマンは『奴』としか言ってなかった。名前までは掴めていない」

 カイトはブロウディの水割りを飲むとパンをかじる。

「なるほどな~。そういうことか」

 ジェイルは納得したように言うと、残っていたブロウディを飲み干しグラスを振ると追加を頼む。

「? 何か知ってるのか?」

「ちょっとした情報だ。俺の方はちょっと関係するか微妙だったんだが、カイトの話と繋がったぜ。よし、今度は俺が話す番だな」

「何かわかったのか?」

 ジェイルは頷きながら、店員が持ってきたブロウディを一口飲むと話はじめる。

「ギルドに行って顔見知りのワンダラー達に聞いたんだが、先月あたりに大言を吹いてまわってる若造がいたらしい」

「大言?」

 カイトは相槌を打ちながらも、出遅れていた食事を終わらすべくパンを口に運ぶ。

「ああ。でかい仕事が入ったと言いまわっていたらしい。そんなことをを口にしてまわる時点で、なかなかの小物だがな。名前はレジェ・ミノル」

「レジェ・ミノル? 知っているのか?」

「いや、知らねぇ。まあ、最近になってギルドに現れたって話だ。どうやらシーフを自称してるらしいが、実態はこそ泥同然だって話だ。そもそもシーフってのは自称するもんじゃねぇしな」

「シーフ? シーフって何?」

 ミーファは果実ジュースを飲み干すとおかわりをエマの分と二つ店員に頼んだ。

「あん、知らねぇのか? 盗掘屋だよ。ギルドを通さずに遺跡を回っては見つけたものを売り払ったり、遺跡調査を請け負っては何も見つかってないことにして、見つけたものを売っちまうのさ」

「何それ。泥棒じゃん」

「ああ、そうだ。だからシーフ(盗賊)って呼ばれるのさ。だが、腕がいい奴は下手な歴史の研究家よりもはるかに優秀らしいがな。しかしレジェ・ミノルってのは遺跡には行かず、個人宅で盗みを働いてるって噂だ」

「なるほど。それで白羽の矢が立ったってことか。で、そいつが関わってるのか?」

「確証は無ぇ。だが、そいつの話を聞いた奴の話だと、でかい仕事が入って、それをうまいことやれば莫大な金が手に入ると言っていたらしい。仕事の内容までは話さなかったらしいが、『うまいことやれば』ってのが気になってよ。報酬の交渉ってのは当然出来るが、それでもそれ程大きくは変わるもんじゃねぇ。何かするつもりだったんだろう。で、そいつの居場所を聞いたら、どうやら先週あたりから姿を見せなくなっているらしい。カイトの話とも、タイミング的に合うだろ?」

 ジェイルは腸詰めをかじるとブロウディの飲んだ。エマは話を聞いているのかわからないが、店員の動きを目で追っている。

「確かにな。しかし、『うまいこと』というのは検討がつくか?」

「まぁな。若造は後先考えずにくだらねぇことをするからな。どうせ、売り払って直接金にでもするつもりなんだろうよ」

「売り払う? それならそのうち武具屋に並ぶんじゃない?」

 ミーファは人差し指を立てながら言う。

「アホか。んなわけあるか。売るっていっても、その辺の武具屋で売るわけじゃねぇ。そんなことしたらあっさり捕まっちまうじゃねぇか。裏取引だよ。裏市場に流れたら見つけ出すのは至難の業だ。金額も法外だしな」

「それは、まずいな……」

「心配すんな。まだ流れちゃいねぇはずだ」

「何でわかるんだ?」

「盗難品ってのは、手に入れた場所で売り捌かねぇのが常識だ。いくら裏市場といえでも、同じ場所で同じ時期に流せば足がつく。ほとぼりが冷めるまでどこかで身を隠し、どこか他の街で売るはずだ」

「じゃあ、今はどこかで身を隠してると?」

 カイトは最後のパンの欠片を口に放り込んだ。

「余程の馬鹿じゃなけりゃな。まあ、もともとこそ泥らしいから、さすがにその辺は常識に沿って動いてんだろうよ」

「どこにいるか、わかってるのか?」

「知らねぇ」

「え~! 結局肝心なところがわかんないじゃん!」

 ミーファは不満そうに言う。

「こそ泥がどこを隠れ家にしてるかなんて知るかよ。聞いた時はそれ程関係あるとは思わなかったからな。明日、またギルドに行ってみるさ。あまり人目にはつきたがらん奴だから、いるかはわからんが」

 ジェイルは腸詰めを一口頬張ると、カイトも腸詰めを一本取ってかじった。

「じゃあ、それはジェイルに任せよう。明日は俺もここに残るよ。ミーファはどうする?」

「あたしも残る」

「そうか。エマは?」

「だめっ!! エマもここであたしと一緒にチャリオッツ!!」

 エマが答えようとしたのを、ミーファが遮る。

「また、やるのか? 構わないが、多分私が勝つぞ」

 エマが無表情のまま答えると、ミーファは若干引きつった。

 その後は、ミーファとエマのチャリオッツの話や、談笑をしばらくした後に各々自分の部屋へと戻り、翌日に備えた。

 

 


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