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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第三話 トレジャー・ハンティング……!?(後編)
34/42

第三話 【15】

「ちょ、ちょっとまって……。この階段、どこまで続くの? 何か目が回ってきたし……」

 ミーファは額から汗を吹き出しながら、足を止めた。それにつられて全員も止まったが、一人だけ先頭で涼しい顔をしているジェイルを除けばエマもガリエルもかなり辛そうな表情だった。

「あん? 情けねぇな。大して登ってねぇじゃねぇか」

「ジェイルと一緒にしないで……。もう百階分くらいの高さ登ってるよ……」

「……登ってねぇよ。大袈裟過ぎだ。せいぜい二十階程度登ったかどうかだろ」

「むぐっ」

「しかし、目が回ったのは確かだな。こんな長い螺旋階段よく作ったもんだ。少し、休むか?」

「そうしよ~」

 ミーファは階段に座ると、ジェイル以外の二人も座る。ジェイルは座らずに腕を組んで壁に背を預けた。

「しかし、人族というのはまめだな。壁の彫り物が途切れることなくずっと続いている」

 エマは壁の彫刻を手で撫でた。

「そうじゃのぉ。竜信仰の物語を綴っておるようじゃの。竜を崇める姿が多いわい」

「竜信仰ってなんで廃れちゃったの?」

「廃れたのとは少し違うかの。これも価値観の変化じゃろう。戦乱の世では侵略のため、防衛のため、理由はさまざまじゃが誰しもが力を求めた。そして、その力の象徴である竜を崇めたのじゃ。しかし、大陸内の国境がある程度定まり、戦乱の世が終わると、人々は力ではなく平和な世の持続と豊かな生活を求めるようになった。その為、慈愛と豊穣の女神である大地母神マテルへの信仰へと移っていったのじゃろう」

「へ~。信仰も時代と共に変わるんだね~」

 興味津々に耳を傾けるミーファとは裏腹にジェイルはあくびしながら頭を掻いており、エマも話には興味が無いのか彫刻をずっと見ている。

「ねぇ、エマ。エルフ族も何か信仰しているの?」

「ん? 信仰? 信仰という概念がよくわからないな。何かを敬うという意味で捉えれば、森と先人達だが」

「へ~、宗教とか無いんだ」

「信仰とはどういう意味があるのだ?」

「い、意味?」

 エマの質問にミーファは言葉に詰まると、助けを求めるようにガリエルを見る。

「ふむ。難しい質問じゃの。信仰に一義的な意味があるかというと無いと言わざる得ないしの。信仰する者個人の捉え方によるものじゃ。大地母神マテルに何を求めるか、もしくは求めないか。実在を信じるか、もしくは自らの心と共にあると信じるか。信仰を同じくする者でも捉え方は人それぞれじゃ。マテルの神官ですらそれらは統一的な見解が無い。それ故に信仰方法も人それぞれじゃしの。その教義を生活規範とし、厳格に守り生活する者もいれば、困った時だけ神頼みする者もいる。それに、エルフ族に信仰が無いのも特段不思議な事ではない。人族も無神論者はたくさんいるしの。現にジェイル殿もそのようじゃ」

「あん? 何だ?」

 ふいに名前を呼ばれ、ジェイルはガリエル達の方に視線を落とした。

「ねぇ、ジェイルって何か信仰してるの?」

「信仰? ――当然だ」

「えっ? うそ? 何を?」

「俺様だ!」

 ジェイルは自信満々に親指で自分を指した。

「……そろそろ出発しようか」

「そうじゃの」

「うむ」

 三人は何事も無かったかのように立ち上がると、パタパタと埃を払いはじめた。

「つっこめよ……」

「ほら、行くよ」

 ミーファに流され、ジェイルはさびしそうな表情を浮かべながらも再度上へと登り始めた。

 

 

「そろそろ出口のようだぞ。光が差し込んできてやがる」

「え? あ、ホントだ」

 ミーファは周りを見ると、微かではあるが魔石の光の他に上から僅かな光が届いているのがわかった。

「やっとだ~!」

 四人はそのまま少し登ると上部が丸く開け、そこから空が覗いているのが見えた。そのまま階段を上りきると、そこは広い台地の端のほうに出た。

「眩しい~!」

 ミーファは外に出ると大きく伸びをする。

「何だか久々に日の光を見た気がするな」

「ふう。やはり外の空気は気持ちいいな。中は埃っぽくて息苦しかった」

 エマは深呼吸をしながら日の光を気持ちよさそうに浴びている。

「だよね~。カビ臭かったし。でも、ここどこ?」

「う~む。神殿の周りを囲んでいた崖の上のようじゃの。草原のようになっておったのか。神殿の上は木が見えたから森かと思っておったのじゃがな」

 四人が出た場所は所々に木々が密集した場所があるもののほとんどは草原が広がっており、その草原もかなり広さがあったが途中で途切れており、その先は崖になっているようだった。

「あれ、ここに何かあるよ」

「ん、何じゃ?」

 ミーファは出てきた穴から数歩程離れた所でしゃがみこみ地面を見ていと、それをガリエルとエマが覗きこんだ。ジェイルは反対側に歩くジェイルもしゃがみこみ何かを始める。

「これは円柱の跡のようじゃの」

「円柱? 柱ってこと?」

「うむ」

「あっちにもありそうだぞ」

 エマが右側指さすと、そこにも崩れた柱のようなものがある。よく見ると穴は柱のようなもので囲まれており、その内側にはかなりの量の石が散乱していた。

「おそらくその穴は屋根がついていたのじゃろう。もう少しりっぱな出口だったんじゃろうの。ここは先程の神殿とは違って風雨に晒されておるから崩れてしまったのじゃろう」

「へ~。確かに螺旋階段が結構飾りがあったのに出口は何も無いと変だよね。――って、ジェイル何してるの?」

 三人がジェイルの周りに集まると、ジェイルは柱の跡の一つにしゃがみこんで、落ちていた石で穴を掘っていた。

「ん? 埋葬するにはいい場所だと思ってな。この柱が墓標の代わりだ」

 ジェイルは懐から輝石を二つ取り出すと掘った穴に入れる。その輝石はアンデットが残したものだった。

「あ、そうだね。いいかも」

「うむ。神殿の関係者のようだったしの。ここは眺めもよい。いい場所じゃの」

 ジェイルは輝石を入れた穴を埋め戻すと、エマを除く三人は手を合わせたが、エマは手を合わせることなく埋められた穴を見ていた。エルフ族に手を合わせる習慣が無いのか、別な理由なのかはわからない。

 しばらく三人はそうしていたが、エマが数歩程歩き出すと草原を指さした。

「あれは、カイト達ではないか?」

 エマが指差す先には広がる草原の中央付近に立つ男女、カイトとファスティーナがいた。ファスティーナは草原をいろいろ指差ししながら何かをカイトに説明している。

「え? ホントだ!」

「おお、ファスティーナ!」

 ガリエルは娘の姿を確認すると、先程までの疲れを忘れ駆け足にファスティーナへの元へと向かうと、他の三人も続いた。

「お~い! カイ……、ええっ!! カイトはそんなことしないって信じてたのに……」

「おお、ミーファ。お前達も来たのか。……ん? どうした?」

 後ろから掛けられた声にカイトは振り返ると、ミーファはファスティーナを見て呆然としていた。

「カイト、心の闇に打ち勝つことが出来なかったのか……無念だ……」

「何を言ってるんだ?」

 エマは哀れむような目でカイトを見ている。

「ファス、ファス、ファスティー……」

 ガリエルは言葉を失い、ほとんど呼吸困難になっていた。

「?」

 カイトとファスティーナは事情がわからずに顔を見合わせていると、ジェイルはカイトの首に腕をかけ少し離れたところに引きずっていく。

「お、おい。何をする!」

「カイト……。いくら相手がのってこないとはいえ無理やりはだめだろ、無理やりは……」

「さっきからいったい何の話だ?」

 ジェイルは後ろを振り返ると、ファスティーナのローブを指差した。他の三人もファスティーナのローブの破れた裾を凝視している。

「ち、違う!! 誤解だ! あれはそういうことじゃない! ローブの先はここだ!」

 カイトは自分の上着をめくると腹部に巻かれたファスティーナのローブの裾をジェイルに見せた。

「……カイト、お前そんな趣味が。自分が破った女のローブを大事に体に巻くとは。ちょっと引くぞ」

 ジェイルは一歩後ずさる。

「そうじゃない!!」

 カイトは巻かれているローブを外すと、腹部の傷口をジェイルに見せた。

「何だ? そんな傷を負う程抵抗されたのか。お前はいったいどれ程無理やり……」

「違う! 瘴獣だ! 瘴獣に傷を負わされて、その手当てにファスティーナ殿が自分のローブを破いて巻いてくれたのだ!」

 カイトは誤解を解こうと必死に説明していく。

「……何だ、そういうことか」

「まったく……」

「まあ、無理やりじゃなかってことはことはうまくいったんだろ? で、どうだった?」

「少し苦戦したが瘴獣は倒したよ」

 カイトは傷口がまだ血が滲んでいたため、ローブを再度腹部に巻きなおした。

「そんなことじゃねぇよ。ファスティーナとうまくいったんだろ? ちっ、俺が狙っていたのにうまいことやりやがって。まさか、一緒に穴に落ちたのもわざとじゃねぇだろうな?」

「違う! 別に何も無い!」

「へっ? お前、あんな長時間二人だけでいたのに何もしなかったのか?」

「当たり前だ! 依頼主だぞ!」

「あ、ありえねぇ。暗闇に長時間二人っきりでいて何もせずに帰ってきただと? おまえ……まさか!?」

「違う!!」

 ジェイルが言いかけたことをカイトは全力で否定すると、カイトはファスティーナ達の元へと戻った。ミーファ達もファスティーナから事情を聞いたらしく、先程までとは違い今は笑顔で話していた。

 

「おお、カイト殿。疑ってすまなかったの。娘が世話になったようで」

「いえ、仕事ですからお気になさらず」

 ガリエルの呼吸も戻り、ファスティーナがいろいろな意味で無事だったことに喜んでいるようだった。

「カイトはそんなことしないって信じてたよ」

「そりゃどうも……」

 ミーファも最初に疑ったことを忘れたかのように言うと、隣ではエマが恐らく他の者達とは意味が違ったのであろう安堵の表情を浮かべていた。

 そして、カイトの後ろからはジェイルがぶつぶつ言いながらやってきてカイトの肩に手を乗せると、呆れたようにカイトの視線を送った。

「まったく、カイトは女には興味が無いらしい。どうやらおと……、ぐぎゃあああ!!」

 カイトは生まれて初めて全力で人の足を踏んだ。

「ジェイル、どうしたの?」

「気にするな。釘でも踏んだんだろう。それよりファスティーナ殿、ここの話はガリエル殿に?」

 片足を押さえながら飛び跳ねているジェイルを無視し、ファスティーナに視線を移した。

「あっ、そうです。お父様、ここをどう思われますか?」

「うむ。階段下には『謁見の地』とあったが……。何も無いように見えるの」

 ガリエルは周りを見渡したが、五人と飛び跳ねているジェイル以外は何も無く。平らな台地の上の草原が広がっていた。一部に林のように木が密集している箇所があるが、位置的に神殿の上部にあたり神殿へと続く広大な穴を隠しているように見える。

「そうなのです。長い年月で崩れたのかもと思いカイトさんと周辺を調べてみたのですが、遺跡の跡のようなものもまったく見つかりませんでした。唯一あったのが階段周辺の崩れた柱くらいのものです」

「ふむ。それはわしも見かけたが……。何も無いとは少々拍子抜けじゃの。かなりの遺跡を期待しておったのじゃが……」

「私もです。あの神殿以上の発見になるかと思ったのですが……」

 ガリエルは娘と再会出来たことの喜びの方が大きかったのかそれ程でもなかったが、ファスティーナはかなりがっかりしていた。

「どうしますか?」

「そうじゃのぉ。ここだけじゃなく隠し部屋の方ももっとくわしく調べてみたいところではあるが本格的に調べるとなると、数ヶ月は掛かる。見つけた文献の調査も考えると博物館の研究仲間にも声を掛けた方がいいかもしれんの。資料の運び出しも考えると、そろそろ切り上げねばならんの」

 ガリエルは上空を見上げながら残念そうに言った。日まだかなり高い位置にあったが、それでも文献の運び出しと帰り道の距離を考えると日が落ちる前に街に戻るには今からその準備をする必要がありそうだった。

「えっ!? もう帰るの? まだ何も謎が解けてないよ。公国の謎が解けることを期待してたのに~」

「ほっほっほ。何年も研究して来たがわからぬことが多い公国じゃ。そう簡単に全ての謎が解けてはそれこそ拍子抜けじゃわい。まあ、わしも期待していなかったわけでは無いがの。しかし、それでも今回の発見で研究は相当前進するじゃろう」

「そうですね。文献を調べればこの『謁見の地』が何であるのかもわかるかもしれません。慌てて結論を急げは大事なことを見逃して、誤った結論を導いてしまうかもしれませんね」

 ファスティーナは今も残念そうに台地を見つめているが、父親の案に賛成した。

「では、戻りますか?」

「うむ」

「ちぇ~……」

 ミーファは納得していなのか、頬を膨らませた。

「ミーファ殿は大分考古学に興味が出たようじゃの」

「うん!」

「もう帰るのか?」

 エマもあまり表情には出していなかったが、人族の遺跡がめずらしかったのか少し残念そうに見える。

「ああ、そのようだ。すぐではないけどな。文献の運び出しがある。ジェイル!! 何やってるんだ! そろそろ行くぞ!」

 未だ片足を抑えながら飛び跳ねてるジェイルを呼ぶ。

「何やってるって、お前な……。って、おい待てって」

 不満そうにジェイルは振り向いたが、既に五人は階段に向けて歩き出しており、足を抑えながら慌てて追いかけていった。


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