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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第三話 トレジャー・ハンティング……!?(中編)
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第三話 【7】

「……かっこ悪~」

 ミーファがぽつりと呟く。

「ぐっぐぐ……痛ってぇ」

 ジェイルは手がしびれたのか呻き声を上げる。ジェイルの一撃で剣は壁に深く食い込んだが、砕けることはなかった。

「大丈夫か? やはり相当分厚いようだな。専門の道具が無いと難しいか」

「う~む。穴掘りが必要とは思わんかったから持ってきておらんの」

「出直しますか?」

「そうじゃのぉ……」

 ガリエルは残念そうに言う横で、ミーファが人差し指を頬の横で振りながら得意顔で「チッチッチ」と言っている。

「まあ、まあ、慌てないで。ここはあたしにまかせてもらいましょうか!」

「出来るのか?」

「この大魔法士ミーファ様にお任せ!! ちょっと、ジェイル。いつまでも痺れてないでそこどいて!」

 未だ壁の前で痺れているジェイルを強引にどかすと、ミーファは腰の革袋から石灰石を取り出し壁に魔法陣を描き始めた。裏に空間があると思われる場所を中心に円を描くと、その中に複雑な模様と古代文字を書いていく。

「大気を操るようですね」

 それを見ていたファスティーナが呟く。魔法陣を書き終わると、今度は小さな魔石を何かで魔法陣の要所に貼りつけていき、最後に正面から見るとミーファは大きく頷いた。

「完成!!」

「何をするんだ?」

 ガリエルとファスティーナは古代文字からなんとなくわかったようだが、他の三人は何をしようとしているのかわからない。

「ふっふっふ。あたしにも打撃技があるということを見せてあげよう!! じゃあ、ちょっと離れて。魔法陣の正面には入らないようにね」

 全員が魔法陣の正面から離れると、ミーファもなるべく魔法陣に近づかないように壁際に寄り、杖を持つと腕を伸ばして魔法陣の端に突き立てた。そして、自らの魔力をゆっくりと魔法陣へと送り込むと、要所にある魔石が青白い輝きを放ちはじめる。


『世界に広がりし限り無き大気よ。互いの関係を深め、その力を陣へと解き放て!!』


 ミーファが不思議な響きのある「力ある言葉」を唱えると、周りの空気が流れ始め魔法陣の正面へと凝縮していく。その流れはかなり強く、ローブを纏っているガリエルとファスティーナは巻き込まれそうになり、慌ててジェイルとカイトが助けた。

 その流れがしばらく続くと一瞬止み、カイトが魔法陣を見るとその正面の空間が揺らいでいるのが見えた。


--- ドグゥオ!! ---


 次の瞬間、凄まじい衝撃音が壁から発せられると、今度はさっきとは逆の空気の流れが全員を襲う。その流れは先ほどよりも強かったが、ほとんど一瞬だった。

「凄まじいな。 ……結果は、残念だが」

「むぐぐぅ……」

「ふむ。ジェイルと同じ結果か」

「はぅ……」

 エマが何気なく言った言葉にミーファの胸に刺ささり肩を落とした。

 ミーファは空気を圧縮させると、その力を魔法陣に向けて放出した。その力はかなりのものがあったが、それでも崖の一部と思える壁は崩れない。

「……かっこ悪」

 ジェイルのとどめの一言にミーファは片膝をついたが、すぐに立ち上がると振り向きざまにジェイルを睨んだ。

「まだあるもん!!」

 ミーファは根拠があるのかわからない力強さでそう言うと、再度壁の正面に立つ。

「んっんっん……でも、その前に。……水よ!」

 ミーファは杖を壁に向けると水の魔法を放ち、壁を濡らした。そして、杖を腰に差すと、今度は小さな布切れを数枚取り出しカイト達にもとに戻って来る。

「?」

 ミーファは無言でそれを、カイト、ジェイル、エマに渡した。

「さあ、みんな!! 消すよ!!」

 ミーファは力強く魔法陣を指差した。

『はぁ?』

 カイト、ジェイル、そしてエマまでもが何のことかわからず間の抜けた声出した。

「何を?」

「ひょっとして、魔法陣?」

「うん!! だって、次も陣魔法なんだもん。あれじゃ、書けないでしょ」

 ミーファはさも当然のように言うと、ジェイルが反論する。

「そんなもん、上から書けばいいじゃねぇか!!」

「魔法陣の重ね書きなんかしたら、何が起こるかわかんないでしょ!!」

「俺達までやんのかよ!」

「じゃあ、ジェイルはあの壁を破る手立てを他に持ってるの? あたしはまだあるよ!! 手伝ってくれたっていいじゃん!!」

「んぐぐ。……わぁったよ」

 ミーファの言葉に反論出来ず、ジェイルは渋々壁に向かうとカイトも続き、エマも「やれやれ」と言いながらも壁に手をつくと、ミーファも含め壁の魔法陣をふき取り始めた。

「まったく、なんでこんな地味な作業を……さっきの派手さは何だったんだ」

 ジェイルは愚痴りながら上の方の魔法陣を消している。

「しょうーがないでしょ! あれで破れると思ったんだから!! あれ結構強力なんだからね! ジェイルだったらペシャンコだよ!!」

 ミーファはしゃがみこむと下の方の壁をこすっていた。

「なるか!! 俺の筋肉の鎧はこの壁よりも強ぇ!!」

「だったら壁破れるだろ。しっかし、これなかなか落ちないな。ん? ミーファ、石灰石で書いたなら水で濡らしたらダメじゃないのか?」

 かなり強く壁をこすりながら落としていたカイトが気付いた。

「え? ……あっ! 凝固しちゃうね。やる前に言ってよ!!」

「ええっ! まさか、この作業になるとは思わなかったからな」

「やれやれ」

 四人が文句を言いあいながらも魔法陣を消して行くと、見ているのが忍びなくなったのかガリエルとファスティーナも加わった。

「あ、すいません」

「構わんよ。魔法も万能では無いのぉ」

 ガリエルは笑いながら言うと、ファスティーナも優しく笑いながらミーファから布をもらい消し始めた。



--- しばらくお待ち下さい。 ---



「はぁ、はぁ、もうやらねぇからな」

「はぁ、はぁ、わかってるよ!!」

 魔法陣を消し終わると、六人は全員が肩で息をしていた。

「はぁ、はぁ。で、ミーファ。先に聞いておきたいんだが今度は何をするんだ?」

「うん。壁をこまかく振動させる」

「あん? そんなことしてどうすんだ?」

 ジェイルは首を傾げた。

「なるほど。壁の厚みの差を利用するわけか」

「振幅の差ということか」

「……へ?」

 しかし、カイトとエマは何をしようしているのかわかったようだ。さらにガリエルとファスティーナも続く。

「ふむ。振動の幅による自己崩壊を起こさせようというのじゃな」

「確かに外からの打撃よりも可能性が高そうですね」

「……なるほどな。よし、ミーファ、やれ!!」

「ジェイル……絶対わかってないでしょ?」

 適当に話しを合わせたジェイルにミーファが容赦なくつっこんだ。

「ぐっ……」

 ジェイルは悔しそうにミーファを睨む。

「ふぅ、仕方が無い。説明してあげよう。この壁は建物側と違って石のブロックを積み上げているわけじゃなくて堅く大きな岩石で出来た崖の側面で繋ぎ目が無いでしょ? その上崖の中には空洞らしき場所がある」

 ジェイルは自分から聞いたわけではなかったが、ミーファが勝手に説明を始めるとジェイルも自分だけわからないのが悔しかったのかおとなしく聞いている。

「それで?」

「同じ厚み固定された壁であれば等しい振幅で震える。けど、この壁は一部空洞になっている場所があるってことはその場所だけ厚みが違う。ということはその部分は他よりも振幅が大きくなるでしょ。振動している物が堅ければ堅い程この振幅の違いが軋みとなって、耐えられなくなると亀裂が入って崩れるってわけ」

「……なるほどな」

 ジェイルは顎に手を当てながら壁を見ると、とりあえず頷いた。

「……本当にわかったかどうかは聞かないでおくよ」


 ミーファは壁に近づくと再度魔法陣を描き始めた。先ほどよりも幾分複雑な魔法陣に見える。ミーファはそのまま書き続けると、しばらくして書き上げた。

「よし!」

「離れた方がいいのか?」

「ううん? 今度は大丈夫」

 カイトにミーファが答えると、魔法陣の中心に杖を着いて呼吸を整えた。そして、魔法陣に対して魔力を込めると、先程と同じく魔法陣の要所にある魔石が青白く輝き始める。


『万物を構成したる大地の眷族よ。力強く堅きその身を震わせよ』


--- ゴ、ゴゴゴッ ---


 ミーファが「力ある言葉」を発すると、魔法陣が書かれている壁から低く響くような音が聞こえてきた。目に見える程ではないが、壁に触れると振動しているのがわかる。

「すごいな。これほどの崖を震わせるとは」

「これ、神殿側は大丈夫なのか?」

 カイトが関心していると、ジェイルは天井や足元を見ていた。確かに振動を与えている壁と接している部分も振動していた。

「神殿側は繋ぎ目があるからそこで振動が吸収される。この程度の揺れであれば崩れることは無いさ」

「ならいいが」

 魔法陣に杖を着いたまま魔法陣に対して魔力を送り続けているミーファの額には玉のような汗が噴き出していた。

 そのまましばらく振動を続けると、低く響くような音から少し軽い音に変わった瞬間亀裂が入った。


--- ビシィ!! ---


 魔法陣の端、空洞がある場所と空洞になっていない場所との境目と思われる場所に、魔法陣を囲むように亀裂が入ると、その内側にも無数の亀裂が入った。

「ミーファ!! もういいぞ。これ以上は振動が伝わらない!」

 カイトが声を掛けると、ミーファは魔法陣に魔力を送り込むことを止めた。ミーファが杖を魔法陣から離すとそのまま倒れそうになったのをジェイルが支える。

「おいおい、大丈夫か?」

「あ、ありがと。大丈夫、ちょっと魔力を使い過ぎて立ちくらみがしただけ。ふぅ、壁いけそう?」

 ミーファはジェイルに捕まりながら壁を見ると、壁にはかなりの亀裂が入っていた。カイトは腰の剣を抜くと亀裂の一つに剣を突き入れた。すると、剣はすんなりと根元まで入る。

「十分だ。亀裂が裏まで貫通してる。崩せるぞ」

 カイトが答えるとミーファは汗だくの顔で笑った。

「よかった」

「少し休んでろ。後はこっちでやる」

「ちょっと、そうさせてもらうね。少し休めば復活するから」

 ジェイルはミーファを反対側の壁の所に座らせると、亀裂の入った壁の正面に立つカイトの横に並んだ。

「ジェイル、これならやれるか?」

「まかせろ」

 ジェイルは背中の大剣を抜き、上段に構えるとカイトはジェイルから遠ざかった。ジェイルは先ほどと同じく一歩踏み込むと壁に向かって一気に振り下ろした。


--- ズガアァァァン! ---


 今度は先ほどとは違い、無数の深い亀裂が入っていた壁は奥の空洞側に大きく崩れさった。

「あああ!! また、ジェイルにおいしいところを!!」

 それを見たミーファが何か悔しそうだ。

「ふっ、英雄とは得てしてこうい役回りがまわってくるものさ」

「誰が英雄だ……」

 神殿の中にもかかわらず遠くを見つめながら呟いたジェイルにミーファが冷たい視線を向けたが、ジェイルは気付かないふりをしている。

 カイトとジェイルは崩れた壁の岩を横に退かしながら、なんとか一人通れるくらいまで広げた。

「ビンゴだな」

 カイトが壁に開いた穴に入ると、内側の壁を指差す。その壁は平らに磨きあげられており、人の手で作られたことを示していた。

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