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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第三話 トレジャー・ハンティング……!?(前編)
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第三話 【4】

 クレストの街を出て、昼を回り太陽が傾き始めてから少しした頃、馬車は森の間を通る道を走っていた。街を出た頃は遠くに見えた山が今は間近に見える。

「そろそろ道を逸れるぞ」

 ガリエルはそう言うとジェイルに方向を指差し、ジェイルもそれに従い馬車の向きを変えると道を外れ森の中を進み始めた。

「ここからどれくらい掛かるのですか?」

「そうじゃの、二刻程だったと思うが」

「結構遠いね~」

 ミーファ座ったままの体勢で腕を伸ばして伸びをする。

「そうじゃの。これでも遺跡から一番近いのがクレストの街じゃからのぉ。人通りもほとんど無い上にこれだけ人里から離れておるとこの辺りで発生した瘴獣は退治されることもなく野放しなんじゃよ」

「確かにこれだけ人気が無いと依頼する人もいないでしょうしね」

 カイトは周りを見回した。

「さっきの道ってあのまま進むとどこに通じてるの?」

「あの道はロビエス共和国まで通じ取るよ。わしが子供の頃はロビエス共和国の商隊がそこそこ往来しておったんじゃが、山越えの上途中に街も無く厳しい道のりじゃからの、都市同盟が成立してからは皆コーファンの街に迂回するようになってな、とんと使われなくなってしまったわい」

「へ~」

 ミーファは通ってきた道に視線を向けたが、既に木々の陰に隠れ見えなくなっていた。


 しばらくすると、馬車の前方に切り立った崖が見えてきたところでジェイルが馬車を止めた。

「おい、じいさん。行き止まりだぞ!」

「あ、よいのです。崖まで進んでください」

 ガリエルのかわりに隣にいたファスティーナが答えると、ジェイルは言われたとおりに崖まで再度馬車を進めた。

「ここでいいのか?」

「はい。みなさん到着しました」

 ファスティーナは後ろを振り返りながらそう言うと、ガリエルは全員を馬車から降ろした。

「ここ?」

「遺跡なんてどこにあんだ?」

 ミーファとジェイルは周りを見回したが崖の他には森しかなかった。

「こっちじゃよ」

 ガリエルが移動したため全員がその後を付いていくと、崖に開いた洞窟の所で足を止める。その洞窟の入り口には鉄格子の扉が取り付けられており、頑丈そうな施錠までしてあった。

「洞窟の中なの?」

「いや、中といえば中じゃが、どちらかというと外かの」

「??」

「まあ、中に入ってみればわかる。すぐそこだ」

 ガリエルは施錠を外すと洞窟に入る。それにカイト達が続くと、十数歩程度先には出口が開いており薄明かりが見えた。中を進み洞窟を出ると周囲を崖に囲まれたかなり広い空間になっていた。

「すご~い!!」

 ミーファが感嘆の声を上げる。崖に囲われたその空間の中央には、最奥の崖から直接突き出たように神殿が建っていた。上空を見上げると空まで吹きぬけており、崖の上の木々の枝がかなりせり出している。神殿自体は一階建ての石造りで、周りを巨大は柱が囲みその少し内側に入ったところが壁となっている。柱と壁には細かな彫刻が施され、所々欠けているもののそれがより一層歴史的な重みを感じさせた。

「すごいな」

 カイトもその壮麗さに見入っていた。

「なかなかのもんじゃろ」

 ガリエルも二人の反応に満足そうに頷いた。

「よくこんなもん見つけたな」

 ジェイルの言うとおり遺跡こそ巨大だが、この場所は外からはまったく見えず崖の高さも相当あり、木がせり出しているため、周りの山に登ったとしても神殿どころかこの穴自体も見えそうになかった。

「本当に偶然でした。この近くにも遺跡があるのですが、三年ほど前にその遺跡を父と私で調査していました。その時に雨が降ってきて、父と二人で雨宿り出来る場所を探していると先程の洞窟を見つけたのです。今でこそ広く開いていますが、当時は崖が崩れたらしく本当に小さな隙間でした。そこで雨宿りをした際に発見しました」

「まさに幸運じゃったの」

 ファスティーナが答えると、ガリエルが笑った。

「すぐに調査すんのか?」

 ジェイルは空を仰ぐと既に日が傾いている上に四方を崖に囲まれていることもあり、かなり暗くなっていた。

「ふむ。ここは暗くなるのが早いからの。調査は明日からにしよう」

「ええっ!? 入んないの?」

 ミーファは中を見たくて仕方が無いらしく、心底心外そうだ。

「今入ってもどのみち大して見れないさ。今日はこのまま野宿して、明日朝からにしよう」

「ちぇ~……」

 ミーファはかなり残念そうだったが、六人は先ほどの入り口となっている洞窟を再度くぐると馬車へと戻り、そのまま野宿の準備に取りかかった。


「敷物と毛布は人数分持ってきとるから使っとくれ。食事はパンと干し肉と乾燥野菜がある。適当なスープでもつくろうかの。誰か近くに川があるから水を汲んで来てくれんかの」

「私が行って来ましょう」

 カイトが馬車からバケツを取るとガリエルから聞いた川へと向かった。ファスティーナとエマはパンを切ったり乾燥野菜をほぐしたりしている。ジェイルも慣れた手つきで大きめの石を使って簡単な釜戸を作っていた。

 ミーファはしばらく周りを見ながらうろうろしていたが、座って石組みをしていたジェイルの元に来て小声で耳打ちする。

「ねねっ、ジェイル。あたし、何すればいいの?」

「はぁ? 必要なことをしろよ」

「必要なことって……、わかんないよ。外で野宿なんてしたことないもん。前に公園で野宿した時はご飯無かったし……」

「嫌なこと思い出さすな……。 しょうがねーな、じゃあ薪でも拾ってこい」

「薪ね。わかった!!」

 ミーファはやることを教えてもらうと、森へと入って行った。


「水汲んで来たぞ」

 ジェイルの石組みがちょうど終わった頃にカイトがバケツに水を汲んで帰って来た。その水を鍋に移すとジェイルの作った釜戸に乗せる。

「ぴったりだ。見かけに寄らず器用なんだな」

「ったりめぇだ。今までの生活の四分の一は野宿だからな」

 ジェイルが誇らしげに胸を張ると、ちょうどミーファも薪を抱えて戻って来る。

「ジェイル~。これでいい?」

「ん? おお、随分取って来たな。十分じゃねぇか」

 ミーファは両手いっぱいに抱えた薪を釜戸の近くに落とすとそのまま座り込んだ。

「ふぅ。疲れたし、お腹減った~」

「休んでねぇで火を付けろ」

 ジェイルはミーファが持ってきた薪を釜戸に入れながらミーファを呼ぶ。

「もう、人使いが荒いな!」

 ミーファは立ち上がると、釜戸の前に行き人差し指を釜戸に向けた。

「火よ」

 ミーファの指先から小さな火球が発生すると、釜戸に落ちそのまま薪に火が着き徐々に炎となった。それと同時に食材の準備をしていたファスティーナとエマがそれぞれパンと干し肉、ほぐした乾燥野菜をもって来ると、干し肉と乾燥野菜を鍋に入れエマが適度に塩で味付けをする。

「新鮮なものではないが量は持ってきた。腹の足しにはなるじゃろ」

「十分だ」

 馬車に荷台で明日の準備をしていたガリエルが鍋を覗きながら頷くと釜戸の近くに座り、ジェイルも続くと他の全員も釜戸を囲むように座った。空は既に日が沈み星が瞬き始め、夕食には良い時間となっていた。


「人もこういう料理をするのだな。味の濃いものばかりだと思っていたが。これは我らの冬の料理に似ている」

「ん? そうか? 確かに飯屋でこういうのが出てくることはねぇからな。野宿じゃわりと定番な料理だぞ。まぁ、俺たちはほとんど飯屋だから知らねぇかもしれねぇが」

「そうなのか。人の里に着てからは変に加工されたものばかりだったからあまり口に馴染まなかったが、これは懐かしい匂いだ」

「……ジェイル、エマ」

 その会話をカイトが制止する。周りを見るとガリエルとファスティーナがエマを見ており、その状況に気づいたジェイルは頭を掻いた。確かに今の会話は事情を知らない者が聞くと何かおかしい。

「……わりぃ」

「私は別に構わないが。人が騒ぐだけで私は別に隠すことでは無いと思っているのだがな」

「まあそうだな。お二人とも悪い人では無いし、いいか。どの道エマもそのままじゃ寝にくいしな」

「?」

「?」

 ガリエルとファスティーナは会話の内容がまったく理解出来ていない。

「バンダナ取っちゃえば」

「ふむ」

 ミーファが軽く言うとエマも特に躊躇することもなく、頭に巻かれた緑のバンダナを外した。エマは軽く頭を振ると、美しい金髪の合間からエルフ特有の長い耳が露出する。

「まぁ!?」

「なんと!! お主、エルフ族じゃったのか!」

 ガリエルとファスティーナからは釜戸を挟んで反対側にいたため、湯気と熱で揺らめく大気によりエマの姿はより幻想的に見えただろう。二人はその姿に驚愕し、ガリエルは腰を抜かしたように両手を突いて後ろに倒れ、ファスティーナもくべていた薪を落としてしまった。

 二人の反応は無理も無い。エルフ族は人里離れた深い森の中に隠れ住んでおり、その場所を知る者はいない。その上人族との交流は無いに等しく、さらに都市同盟の領内にはエルフの隠れ里すら無いと言われている。

「三十年程前に一度だけ見かけた事があったが、まさかエルフ族に護衛してもらうことになろうとは……」

「私はお会いするのも始めてです」

 ガリエルとファスティーナは驚きを隠せず凝視していると、エマは不快に思ったのか顔をしかめた。

「あまり気にしないでもらえますか。我々の仲間が一人エルフなだけです」

 カイトの言葉にジェイルとミーファも頷く。

「あ、ごめんさい」

 ファスティーナは申し訳ないと思ったのか視線を釜戸の火に戻したが、ガリエルはその後もしばらく見ていたが得に悪気があるわけでは無かった。

「しかし、何故ワンダラーなどしておるのじゃ?」

 ガリエルはまだ見ていたがエマは質問には答えず、鍋から少量のスープを器に移すと味見をし、塩と水で調整を始めた。そのため、代わってカイトが答える。

「まあ、成り行きで。それよりも明日の調査方法をお伺いしたいのですが」

 カイトは曖昧に答えると話題を変えた。そもそもカイト達もエマが人族の里にいる理由はよく知らず、エマも特に語ったことはなかった。また、エマも特にワンダラーの仕事をしているという意識はなく、行動を共にするカイト達がワンダラーだっただけであり、カイトの言った『成り行き』もそう的外れは回答ではない。

「ん、そうじゃの。明日は早朝から調査を開始したい。あの場所は昼前であればわりと日が当たるのでな」

「中はどんな感じなの?」

 ミーファも加わってくる。ジェイルはエマからスープをもらうと「味が薄過ぎる」と注文を付けていたが、塩の追加はエマに拒否された。

「う~む。申し訳ないんじゃが、昨日も言った通り何もないんじゃ。据え付けだったものはそのままじゃが、持ち出せるものは持ち出してしまったからの。明日、奥を調べてみて何も無かったら、それで終わりじゃ」

「ええ! それじゃつまんない」

「絶対にその先がありますよ」

 ミーファが肩を落としていると、ジェイルとエマのやり取りを小さく微笑みながら見ていたファスティーナがミーファを元気付けるように言った。

「うむ、わしもそう思っておるがの」

 ガリエルも笑いながら同意すると、ミーファはほっとしたようだ。



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