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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第三話 トレジャー・ハンティング……!?(前編)
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第三話 【3】

 ガリエルの家に行った翌日の朝、カイトは待ち合わせ場所に出向くためにいつもよりかなり早めに起きた。ベッドから起き上がり軽く伸びをし隣りのベッドに目をやると、いつもは今頃はいびきをかいて寝ているジェイルの姿が無い。カイトは不思議に思ったが、とりあえず着替えると剣を腰に差した。すると、浴室からかすかにジェイルのものと思われる鼻歌らしきものが聞こえて来る。

「風呂か? 朝風呂なんてめずらしいな。ジェイル!! 先に外で待ってるぞ」

 カイトは浴室にいると思われるジェイルに声を掛けると、中から「ああ」という返事が返って来たため部屋を出ると、そのまま拠点の安宿の外に出た。入り口のそばでは既にいつもの緑のバンダナを頭に巻いたエマが待っていた。

「おはよう。あれ、エマだけか? ミーファは?」

「うむ。魔法陣用の魔石と輝石が無いとかで、魔石屋に行ってしまった。すぐ戻るそうだ」

「そっか」

 魔石屋とは瘴獣を倒した際に残される輝石を専門に扱う店で、輝石をギルドやワンダラーから買い取りそれをそのまま販売したり、火や光の魔法を込めた魔石として販売している店である。

「ジェイルは?」

「めずらしく風呂に入ってるみたいだったから先にきた。すぐ来るだろ」

 カイトの答えにエマは無表情に首を傾げた。エマは昨日とは違い腰にはレイピアを差し、背中には組み立て式の弓の入った革袋と矢を背負っている。

 二人はしばらく話をしていると宿からジェイルが姿を現し、カイトと同じ質問をしてきた。

「待たせたな。あれ、ミーファは?」

「魔石屋だそうだ。魔法陣用の魔石と輝石を仕入れてるんだとよ」

「へ~。あいつ、今回は随分とやる気だな」

「…………お前もな。いつから仕事前に髭を剃るようになった?」

 ジェイルを見ると顔の髭を剃り眉毛も整えられ、髪型も基本的に後ろに流している形は変わらないが整えられている。普段のジェイルは仕事があろうと無かろうと、無精髭を生やし、髪は適当に後ろに流しているため、別人のように爽やかに見えた。

 エマも小声で「やれやれ」と呆れている。

「ふ、イケてるだろ。カイト、お前には譲らねぇ」

 ジェイルは人差し指と親指を伸ばした状態で顎に充ててポーズを決めた。

「……何をだ。まったく」

 カイトは呆れて頭を垂れると、今度はエマが何かを脇に抱えている事に気づく。

「エマ、それは?」

 カイトはエマの抱えてる物を指差した。

「ん? これか? これはスケッチブックだが。珍しいものが見れそうなのでな」

「……エマ。もう一度言うが仕事は護衛だからな」

「?」

 カイトはもう一度うなだれた。エマはそれを不思議そうに眺めたが、エマとしてはふざけているわけではなく、そもそも『護衛』の意味がわかっているかが微妙だった。

「まあ、いいじゃねぇか。護衛ったって別に狙われているわけじゃねぇ。瘴獣がいたらって話だろ? 気楽に行こうぜ!!」

 ジェイルはカイトの背中を叩くと大声で笑った。そうこうしていると、ミーファが魔石屋からかけ足に戻って来るのが見えた。

「ジェイル、うるさいよ!! 遠くまで笑い声が響いてる」

「ミーファ、おかえり。こんな朝早くに店開いてたのか?」

「開いて無かったから、裏の家の方に回って何とかお願いして買って来たよ」

 ミーファは腰の革袋を外しカイトに渡すと、カイトは中を革ひもをほどいて中を見た。

「結構買ったな」

「うん。瘴獣退治じゃないし、何があるかわかんないからね。でも、結構かかっちゃった。仕事で使うんだから割り勘にしてね! はい、これ」

 ミーファはカイトの鼻先に領収書を突きだした。

「ぐっ。ま、まあ仕方ないか……後でな」

「よし、そろそろ行こうぜ!!」

 昨日とはうってかわってやる気満々のジェイルが他の三人を急かす。いつもなら割り勘にツッコミそうだが、今日はそんなことは気にならないようだ。

「そうだな。そろそろ待ち合わせ場所に行こう」

 四人はジェイルを戦闘に待ち合わせ場所である、街の北出口へと向かった。


 北出口に到着すると、ガリエルとファスティーナはまだ来ていなかったため、四人はしばらく待つことになった。北出口は文字通りクレストの街の北側にあり、出口といっても特に何かがあるわけではなく、クレストの街を東西南北に走る大通りの南北の北端というだけである。ここより先には建物等は無く丘陵地帯に街道が続き、その先には山が見えた。

 しばらくすると、街側の通りから二頭立ての大き目馬車がカイト達に向かって来るのが見えて来た。御者台には昨日と同じような服装をしたガリエルとファスティーナが乗っている。その馬車が四人の目の前まで来ると停止した。

「みなさん、おはようございます」

 ファスティーナは馬車から下りると、四人に軽く頭を下げてあいさつをしてきたため、四人はそれに応えた。ジェイルはさらに握手している。

「おお、すまんの。待たせてしもうたか」

 ガリエルは馬車に乗ったまま軽く手を上げた。

「大きい馬車ですね」

 カイトは馬車を見ると、ガリエルは軽く笑う。馬車の荷台は遠出用の荷物と思われる大き目の革袋と空の木箱以外は無い。

「うむ。何が見つかるかわからんからの。貴重な物だけでもそのまま持って帰れるように借りて来たんじゃ。これなら全員乗って行けるしの」

 ガリエルはそう言うと全員に乗るように促した。ファスティーナはガリエルの隣りに乗ると、カイトはガリエルの代わり手綱を操ろうと申し出ようとしたが、ジェイルに後ろから首を掴まれると無理やり後ろに引っ張られ、転びそうになる。

「ぐぉ!! 何をする……」

 ジェイルは何事も無かったかの如く、ガリエルと代わるととファスティーナの横で手綱を取っていた。

「カイト、大丈夫?」

「いや、なんかもう、いいや。後ろに乗ろう。ガリエル殿も後ろへ」

 カイトは、半ば強制的に代わられて娘が心配なのか、おろおろしているガリエルを共に乗るように促した。

「いや、しかし……」

 ガリエルは娘が心配そうだ。

「大丈夫です。駄目だと思ったら私が責任を持って引きずり降ろしますので」

「う、うむ」

 ガリエルは尚も心配そうだったが、とりあえずカイト達と共に後ろに乗った。

 全員が馬車に乗ると六人は一路タリアマル遺跡へと出発した。タリアマル遺跡までは馬車でも半日程掛かるため、到着するのは夕方近くになると思われた。

「タリアマル遺跡って結構有名なの?」

 しばらく世間話で談笑していたが、ミーファはかなり遺跡に興味を持ち始めているらしく唐突に遺跡の話に切り替えたが、ガリエルもむしろその話がしたかったらしく笑顔で快く応えてくれた。

「有名じゃよ。この辺りでは一番大きな遺跡じゃからの。といっても観光地となっておるわけではないから研究者の間ではじゃが」

 発見者が自分であることも手伝ってか、ガリエルは誇らしそうだ。

「どういった遺跡なのですか?」

 カイトも会話に加わる。

「昨日も説明したが、三百年程前までこの辺りを支配していたタリアマル公国時代のものでな、遺跡は公国を納めていた大公家専用の神殿のようで、竜が祭られておった」

「竜!? マテルではないの?」

 マテルとは大地母神マテルのことでこの大陸で一般的に信仰されている大地の神であり、女神と言われている。

「いや、竜信仰だったようじゃ。じゃが、それ自体は驚く程のことじゃない。今でこそ下火じゃがこの時代は竜を信仰している者は割とおったからの。今でもかなり少なくなってはいるが、おらんことも無いしの」

「しかし、現物信仰とは今の時代ではかなりめずらしいですね」

「当時は戦乱の世で、竜は戦いの神とされておったからの」

 カイトの言う現物信仰とは、実際に存在するもに対する信仰である。大地母神マテルも存在すると信じられているが、目撃した者はいない。

「しかし、信仰についてはわかりましたが、公国というのがよくわかりません。王国ではなく公国ということは……」

「そこじゃ!!」

 カイトの言葉を遮るようにガリエルは突然声を張り上げる。

「そこがタリアマル公国最大の謎なのじゃ。タリアマル王国であれば、何のことはない昔この辺りを治めていた王国というだけなのじゃが、今まで見つかった文献によるとこの辺りを治めていたのは、カトレイティアといわれる大公家とある。その当主の一人が書き残した文献も残っておるのじゃが、自らも王ではなく大公を名乗っておるのじゃ」

「ということは王は他にいたってこと」

 ミーファも身を乗り出して聞いている。エマも人族の国家の仕組みについてはわかっていないようだったが、それ故か表情に変化は無いが真剣に聞いているようだ。

「普通に考えればそうじゃの。王とは自ら名乗るものだが、大公とは自ら名乗るものではなく王からたまわるものだ。ということはカトレイティア家に大公位を授けた王が別にいたと考えられる。だが問題はここからじゃ」

 ガリエルの言葉にも熱が篭る。

「カトレイティア家やタリアマル公国に関する文献はそれなり残っておってな、その研究も進んでおるのじゃが、王に関する記載は未だ見つかっておらんのじゃ」

「見つかっていない?」

 ミーファはガリエルの勢いの乗せられてか、興奮してきているようだ。

「そうなのじゃ。何故に歴史から消されておるのか? これがわしの主な研究テーマであり、死ぬまでには解き明かしてみせるつもりじゃ!」

 ガリエルは拳を握りしめると空を仰いだ。

「タリアマル公国……」

「どうした、エマ?」

 不意に呟いたエマにカイトが振り向くと、エマはめずらしく眉間に皺を寄せ何かを考えている。

「ああ、いや、何か聞いたことがあるような気がするのだが。なんだったか……」

「聞いたことがある? エマが?」

 カイトは驚いた。エルフ族が人族と交流を持つことは少なく、この大陸ではダルリア王国くらいである。それでもそれほど強いつながりではない。エマ自身も人族の場に出てきてから日も浅く、それ程人族に精通しているようには見えないが、タリアマル公国に聞き覚えがあることが不思議だったようだ。

「いや、気にしないでくれ。気のせいかもしれない」

 エマはいつもの表情に戻ると、回りの景色に視線を移した。カイトは首を傾げたが、特に気にするといったこともなくミーファに視線を移すと、ミーファはガリエルの手を握り何故かタリアマル公国の謎を共に解き明かすことを誓っている。

 ジェイルはというと、業者台でファスティーナから同じような話に耳を傾け、真剣な表情で聞いていたが、大半は聞き流していると思われた。

 その後もガリエルのこれまでの研究成果などを聞きながら、六人はタリアマル遺跡へと馬車を走らせて行った。


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