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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第一話 あぁ、遥かなる輝石。。。
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第一話 【2】

 翌朝、街に活気が出始めた頃、カイトとジェイルは二人でギルドへと続く大通りを歩いていた。

 エマはエルフ故かあまり人が多いところには近づきたがらず、ミーファは雰囲気が嫌いとギルドには付いてこない。

 二人はギルドへと向かう道すがら、その背に奇妙な哀愁を漂わせながら、空腹のせいかほぼ無言で歩いていた。

「もう、腹の虫が限界だ……。こんな仕事をしているからいつ死んでもおかしくないが、餓死はやだな。なんとか先払いの仕事を探そうぜ…」

 ジェイルが擦れた声で呟く。

「同感だな。しかし、前払いの仕事なんてあるかな?」

「あきらめるな。前向きに考えるんだ!!」

 昨日ミーファに言われたことを気にしていたのか、ジェイルはさっきまでの口調と違い力強く言い放った。

「ま、まあ、なんとか探してみよう」

 それから二人はまたギルドまで無言で進んでいった。

 クレストの街にあるギルドは割と大きく、儲かっているのか建物も石造りの二階建てである。ギルドは依頼者とワンダラーの仲介料で成り立っていた。

 中に入ると手前には小さな円卓が数個あり、既に他のワンダラー達が仕事の資料を読んだり、何かの相談をしている。二人は奥にあるカウンターに向かうとギルドの店主がきつい眼つきで睨んできた。店主もワンダラー上がりなのか、かなり体つきが良く髪の毛を剃りあげている。

「何度来ても、駄目なものは駄目だ。規則は守ってもらう」

 昨日輝石が無いのに報酬をくれるようしつこく頼み込んだせいか、すっかり嫌われてしまっているようだ。

「いや、違うんだ。昨日はすまない。今日は新しい仕事を紹介してもらおうと思って」

「すぐに仕事に入れて、報酬が高めで、前払いで、依頼人が女の仕事はねぇか?」

「ねぇよ。冷やかしならとっとと帰れ!!」

「チッ」

 ジェイルは本気だったのかもしれないが、店主には冷やかしと受け取られさらに機嫌を損ねてしまう。既に磨かれたような頭には血管が浮き出ていた。

「ジェイル、余計な条件を追加するな…」

 カイトはジェイルを後ろに下げると、自分が交渉に乗り出す。

「待ってくれ、そんな好条件じゃなくていいんだ。とにかくすぐに仕事に取りかかれて、出来れば前払いがいいんだが、少なくとも元手の必要ない仕事はないか? 先立つものが無いんだ……」

 カイトの切ない訴えに、店主は同情したのかカウンターの下から仕事内容が書かれた紙を取り出した。

「……急ぎの瘴獣退治の仕事なら一つある。装備が揃ってるなら元手はいらんだろう。報酬は…まあ、ちょっと特殊な契約だがうまくいけば高額だ」

 カイトは出された紙にざっと目を通し、不明点を質問する。

「瘴獣の種類と数は?」

「不明」

 通常、瘴獣退治は瘴獣が確認されてから依頼されるため、種類と大体の数は判明している。

「……他は無いのか?」

「数日後でいいなら隣町までの護衛と、……他には遺跡調査があるが、これは場所が遠いから元手が必要だ」

「数日も待てないし、元手も無いんだ……」

 既に二日近く何も食べていない。これ以上日にちがたてばもう仕事をすること自体が困難になるだろう。

「仕方ないな。特殊な契約というのは?」

「瘴獣退治なんだが、公的機関からの依頼じゃなくてな。個人契約だ」

「個人契約? 奇特な野郎がいるもんだな」

 ジェイルの感想も無理はない。通常、瘴獣が発生したら近くの街や村の代表者が税金で依頼するものだ。税金で依頼できるのに個人の金でワンダラーを雇って退治しようという者はそうはいない。

「場所が街から少し離れている上にあまり人が行かない場所らしい。それで断られたって話だ。くわしいことは依頼人に直接聞いてくれ」

 二人は依頼人の居場所が書かれた紙をもらうとギルドを後にした。

「街から離れてるって言ってたな…。そこまで辿り着けんのか?」

「それでも数日待つよりは、体力がまだ多少ある今仕事したほうがいいだろ」

 ジェイルの切ない質問にカイトは哀しい答えを返した。

「一度あいつらの所にもどるか?」

「いや、直接依頼人のところに行こう。どのみちエマは来ないだろうし、ミーファが来るとややこしくなる…」

「…だな」

 会うことになっている場所は依頼人の家だったが、ギルドから割と近く大通り沿いにあった。


「でけぇ屋敷だな」

「ああ、貴族か豪商のようだな。貴族だといいんだが」

 店主に教えてもらった場所に着き、目の前の門から中を覗くと豪華な屋敷が見える。

 カイトが貴族がいいと言ったのは、貴族は見栄をはって無駄に報酬が高いことがあるが、商人の場合はかなりケチなことが多いからだ。カイトは門の近くにいた使用人と思しき者にギルドから来たことを伝えると、中の広間に招かれた。

 中は白く磨かれた壁と床に赤いじゅうたん敷かれ、その上にある立派な長いすに二人は座り依頼人を待った。しばらく待っていると、奥の扉から目が痛くなるような濃い赤と青の民族衣装を纏い、首からいくつもの首飾りを下げ、何故か頭には緑のターバンを巻いた五十歳くらいの男がわざとらしい笑みを浮かべながら近寄ってきた。

「なんつー格好だ。悪趣味な…」

「おいおい。聞こえるぞ」

 カイトはジェイルを止めると、立ち上がりあいさつと自分の名前を伝え、立ち上がらないジェイルを紹介した

「お主達か? 儂はコイル・ナルド。この街で交易商を営んでおる」

 その瞬間、カイトとジェイルの願いは脆くも崩れ去りジェイルは天を仰いだ。コイルは握手を求めて来たので、カイトはなるべく表情に出さないように手を握り、互いに椅子に座った。コイルは椅子に深く座ると大げさな身振りでテーブルの上にあった葉巻を吸い始めたが、二人には勧めてこない。その態度からこの男がケチであることにカイトは確信を持ったようだ。

「ギルドから依頼を受けてきたと思ってよいのか? おぬし達だけか?」

 ジェイルの態度が気に入らないのか、コイルは視線をカイトにしか合わせて来ない。

「いえ、仲間はあと二人いますが、とりあえず依頼内容を聞くのは俺達だけで」

「そうか。では時間もあまりないので、早速本題に入ろう」

 コイルは二人の前にこの街周辺の地図を広げ、湖らしき場所を軽く指で叩いた。

「この街から徒歩で半日程のところにリリ湖という小さいが美しい湖がある。その畔に儂の古い別荘があるのだが、もう何年も使ってない上に木造で見栄えがしないから立て直そうと思っておるのじゃ」

 葉巻の煙をジェイルに吹きかけながら自慢げに別荘の話をしはじめる。ジェイルはその煙に切れかけているように見えたが、一応は依頼人ということと、空腹でなるべく動きたくないのとで何とか耐えているようだ。

「それで?」

 カイトはジェイルが暴れ出さないことを祈りつつ話を先に進める。

「ふむ。数日前に解体業者に別荘の解体を依頼したんじゃが、中から物音がすると逃げ帰って来ての。中の安全が確認できるまでは引き受けないと言ってきおった」

 コイルは不機嫌そうに葉巻の煙を吹いた。

「では、俺達に別荘内部の調査と瘴獣がいた場合はその退治が依頼ということですね」

「いや、瘴獣退治だけが依頼じゃ」

 カイトは依頼内容の確認をしたが、コイルは一部訂正する。

「? いや、今の話では何かの音を聞いただけで瘴獣の姿は誰も見ていないのでしょう? ということは中に動物が入り込んだだけの可能性もあるのでは? であればまず内部の調査が必要かと」

「そうじゃの。じゃが、依頼は瘴獣退治じゃ」

 カイトは嫌な予感を感じたのか眉間に皺を寄せている。ジェイルもコイルに疑惑の目を向けた。

「ちなみに報酬はどのように?」

「瘴獣一匹につき、銀貨五枚。他には、まあ、馬車の往復運賃くらい前金で出してやる」

「いなかった場合は?」

「無しじゃ」

 カイトは途中で予想していたようだが、改めて聞いて大きく肩を落とす。

「普通、こういう場合は調査料というものが報酬に入るのでは? そうしないと瘴獣がいなかった場合俺達はただ働きに」

「いやなら他を探す」

 カイト達には他を探す余裕も体力も無い。ジェイルを見ると既に諦め顔で頷いた。

「……わかりました。それで契約しましょう」

 カイトはまったく気のりがしていないようだったが、背に腹は変えられず仕方なく契約書にサインをし、馬車代を手にすると、エマとミーファが待つ公園に戻った。


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