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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
番外編
19/42

第0話 出会い(ミーファ編) 【05】

 キルサーペントはミーファを中心に円を描くように移動しながら、牙をむき出し威嚇を繰り返している。ミーファも注意深く相手を見ながら相手の尻尾の間合いに入らないように距離をとっていた。

しばらくそれが続いた後、先にミーファが動く。

「火よ!!」

 先ほどよりも大きな炎がキルサーペントに襲い掛かる。しかし、キルサーペントはそれをかわすことなく

またも頭を反らすと、こちらも先ほどよりも大量に毒霧を吐き出し炎を相殺した。

「にゃ、にゃにおう!!」

「……まあ、毒霧を火で相殺出来るってことは、逆を言えば火は毒霧で相殺できるってことだからな」

「ぬぐぐぐぅ。瘴獣のくせに~!!」

 ジェイルの小ばかにしたような声にミーファは悔しそうだ。

「次の手はあんのか? 無いなら代わろか?」

「まだあるもん!!」

 ミーファは叫ぶと再度杖を構える。

「水よ!!」

 今度はキルサーペントの頭上に大量の水が出現すると、一気にキルサーペントに浴びせかけた。まともにくらったキルサーペントはびしょ濡れになる。

「………………で?」

 ジェイルの冷たい言葉がミーファに刺さる。

「い、いや効くかな~と」

 キルサーペントは突然のことに一瞬怯んだが、犬のように体を震わせ水を払うと再度ミーファを威嚇する。

「アホか。溺れさせるほどの水ならともかく、元の蛇が水に弱くないのにキルサーペントが水に弱いわけないだろ」

「むむむぅ」

「なんかもっとこう、風とかでズバっと切り裂いたりできねぇのか?」

「砂とか何かを巻き込むならともかく、風だけでそんなこと出来る分けないでしょ!! しかもあいつの鱗硬そう出し、砂くらいじゃ切れないよ……」

「じゃあ、選手交代だな」

 ジェイルは立ち上がると、ミーファの隣に立った。

「あっちもそろそろケリが着きそうだ。こっちもいそがねぇとな」

 ジェイルが視線を送った先ではカイトが毒針を持つキルサーペント相手に戦いを繰り広げている。既にカイトによって、毒針は折られ仕上げに掛かっているようだった。

「すごっ。一人で……」

「いや、別にこっちも一人でも構わんのだが……」

「むっ。じゃあ、毒霧どうすんの!!」

「ぐっ。ちっ、しょうがねぇお前にも手伝わせてやる」

 ジェイルは恩着せがましく言ったが、実際キルサーペント自体はともかく毒霧は厄介だった。

「しょうがない、手伝ってやるって、うわぁ!!」

 ミーファも負けじと恩着せがましく返そうとするが、その瞬間にまたも今度はジェイルはミーファの腰紐をつかむと、後ろに飛ぶ。


---ドゴッ!!---


 先程と同じくキルサーペントの尻尾が二人がいた地面を叩く。

「だから油断するなっての!」

「ジェイルが変なこと言うからでしょ!! って下ろして!!」

 ミーファは腰紐を掴まれたため、ジェイルに荷物のように持たれている。ジェイルは手を離すとミーファが地面に落ちた。

「痛っ!! ちょっと、優しさはないの? 絶対モテないでしょ?」

「どあほう! モテモテだ!!」

「うそつくな!!」

 よくわからない二人のやり取りの最中に、逆に場違いと化したキルサーペントの威嚇で二人とも我に返る。

「で、どうするの?」

 ミーファがジェイルに問いかけた。

「そうだな。火でやつを攻撃してろ」

「それだけ? でも、相殺されちゃうよ」

「それでいい。相殺してくるってことは火に弱いことは間違いない。だから無視出来ないだろ? その隙に俺が叩っ切る」

「ええっ!! ジェイルがおいしいとこ取りなの!!」

「……じゃあ、他に案は?」

「ジェイルが毒に犯されるのを覚悟で突っ込んでって、あたしがその隙に燃やす」

「……御免こうむる。行くぞ!! あまり近づき過ぎるなよ!!」

「あ、ずるい!!」

 ミーファの本気か冗談かわからない提案を却下すると、ジェイルはキルサーペントの側面に回りこむ。ミーファはそれを非難しながらも杖を構えると、立て続けに火の魔法をキルサーペントに向けて放った。それに対し、キルサーペントも相殺すべく毒霧を吹きかけている。

 ジェイルは気づかれないように間合いを詰め寄りながら隙を伺う。しばらくその状態が続くいた後、ミーファが大きめの炎を放ち、キルサーペントも負けじと大量の毒霧を吐き出した瞬間、ジェイルは大剣を振り上げると大きく飛び上がった。

「おりゃあっ!!」


--- ズバッ!!---


 ジェイルが大剣を振り下ろすと、一撃でキルサーペントの首を撥ね飛ばす。キルサーペントの持ち上げていた上体は力なく崩れ、その体は撥ねられた首と共に消滅し、その後に輝石を残した。ジェイルはそれを拾い上げるとミーファに見せながら近づいた。

「ちょろいね」

「ハァ、ハァ、だ、誰のおかげかな? ハァ…ハァ…」

 さすがに魔法の連発はきつかったのか肩で息をしながら腕をだらりと下げジェイルを見返す。しかし、ジェイルはそれには答えず、かわりににミーファの頭を軽く二度叩くとミーファの横を通り過ぎた。

「ちょっとぉ!!」

 ミーファは振り向くと、後ろに既に戦いを終えて見物していたカイトがいた。

「そっちは随分てこずったようだな」

 カイトの手にも輝石が握られている。

「ちょっとな。毒霧吐きやがった」

「毒霧!? そいつは厄介だったな。ミーファは大活躍なようだったじゃないか?」

 ジェイルの横で汗だくで未だ呼吸の荒いミーファに微笑む。

「でしょ!! やっぱりカイトはよく見てる!!」

「まぁまぁだな。とっとと帰ろうぜ」

 ジェイルはそう言うと、出口へと向かって行ってしまった。

「まぁまぁ、ね」

 ジェイルが先程までの態度とは違うと思ったのか、カイトが笑みを浮かべながらジェイルの後に続くと、その隣ではミーファが納得していない感じだった。

「ちょっと、どう思う?」

「ん? まぁ、ジェイルだからな。素直にお礼とか感謝が言えるやつじゃない」

「納得いかない!」

 ミーファはジェイルに走りよると、言い合いをしながら出口へと向かっていった。



「ん~!! やっぱ地上はいいねぇ!!」

 洞窟を出ると、日はだいぶ傾いていたがまだ沈むまでには数刻はありそうな時間帯になっていた。ミーファ伸びをすると淀んだ洞窟の空気を肺から追い出すように深呼吸を始めた。

「とっとと街に戻るぞ。日が暮れちまう」

「ちょっと待って!!」

 既に街へと歩き始めていたカイトとジェイルを追いかけると三人は共に歩き始めた。道中ミーファは自らの活躍をカイトに語っていたが、ジェイルは特に否定もせずに尾ひれがついたと思われる部分だけを突っ込んでいた。

 三人は街に戻るとすぐにギルドへと向かい完了報告と証拠の輝石を店主に渡した。

「さすがに早い仕事ですな。確かに確認しました」

 そういうと契約書の確認欄に店主が署名し仕事が完了した。店主が顔を上げるとジェイルの後ろにいたミーファに気づき嫌そうな顔を浮かべる。ミーファはそれを見ると舌を出してやり返した。

「小娘!! またきやがったのか!! お前に出来る瘴獣退治なんかねぇぞ!!」

 ミーファの態度が気に障ったのか店主は声を張り上げる。ミーファはジェイルの前に出ると、カウンターに置かれた輝石を指差しこちらも声を張り上げた。

「あたしも瘴獣退治に参加したの!!」

「………へ?」

 店主は間の抜けた声を出すと、ジェイルを見た。

「……まぁ、成り行きでな。それより報酬は?」

「え、ああ、すいやせん。すぐに」

 店主は訳が分からないといった感じで一度その場を離れると、報酬の入った皮袋を持って再度現れた。ジェイルはそれを受け取り中を確認すると受け取りのサインをして三人はギルドを後にする。

「じゃあ、分けるぞ」

 ジェイルはそう言うとまずカイトに、そしてミーファが遠慮なく突き出した手に報酬を乗せた。

「ちょっと、、、と、と、あれ? いいの?」

 ミーファは多くても二枚しか貰えないと思って、受け取った直後に文句を言おうとしたが手の上に銀貨が三枚乗っているを見て拍子抜けしたようだ。

「まぁな、文句はねぇだろ?」

「え、いや、あ、う、うん」

 ミーファは勢いを削がれ、素直に頷いた。ジェイルの隣ではカイトが笑いを堪えている。

「じゃあな」

 ジェイルはそう言うとカイトと共に、ミーファに背を向け拠点の安宿へと向かって歩き出す。

「え、ちょっと待ってよ。どこ行くの?」

「あん? どこって、宿に戻るんだよ」

 ジェイル達は足を止めると振り向きながら答えた。

「ねぇ、あたしも仲間に入れてよ!」

「はぁ? 何言ってんだ?」

「おいおい」

 ミーファの思わぬ提案にジェイルとカイトは呆気に取られた。。

「だって、正直今回の仕事で一人で瘴獣退治は難しいっていうのはよく分かったし、それに二人とも結構強いみたいだから」

「結構……」

「……強い」

 ジェイルとカイトは呆れた顔でミーファを見る。それでもミーファは話を続ける。

「それに、二人だって魔法士が仲間にいたほうがいいでしょ? 絶対足手まといにはならないよ?」

「……どうするよ?」

 ジェイルは助けを求めるようにカイトを見る。

「まぁ、魔法士としての実力はそこそこあるようだが、しかし…」

「そこそこ……」

 カイトの言葉に今度はミーファが額に青筋を立てるが、状況を考えてさすがに文句は言わない。

「そもそもミーファ。家に帰らなくていいのか?」

「いいの!! 私は独り立ちしたの!! そんなこと言うなら二人だって家に帰らなくていいの?」

 家にことには触れられたくないのか、ミーファはむきになって声を上げる。

「俺はそもそも家なんかねぇよ」

「んぐ…」

 ジェイルの答えにミーファは言葉につまりカイトを見た。カイトは渋い顔をしている。

「……ジェイル、任せるよ」

 カイトとしても触れられたくないことだったのか、ばつの悪い顔をするとジェイルに投げた。

「マジかよ。う~む、確かに魔法士がいると仕事の幅が広がるし、仲間に欲しいところではあるんだが……しかしなぁ」

 ジェイルも本気で困っているようだ。ワンダラーの仕事をする上で魔法士がいるのといないのとでは、引き受けられる仕事にもかなりの違いが出てくる。ジェイルとしても仲間に欲しいところでもあり、またミーファの魔法はジェイルも認めるところではあったが、それでもミーファは若すぎ、経験が不足しているところが気になるようだった。

 ジェイルが迷っているとみたミーファは、ここぞとばかりにさらに押しを強める。

「絶対に足手まといにはならないよ!! 今日だってちゃんと活躍したでしょ!! 他にもいろいろ出来るんだから!!」

 ミーファはジェイルの正面に立ち腰に手を当て背伸びをしてジェイルに迫る。

「……わかった、わかった。そのかわり、仕事の邪魔になると思ったら解消するからな」

 ジェイルはミーファの押しに降参するように両手を挙げると、ミーファの仲間入りを承諾した。

「やったっっ!! 絶対足手まといにならないって。まだまだ、陣魔法とかもいろいろ使えるんだから!!」

 ミーファは飛び跳ねて喜ぶと、片目を瞑った。

「まったく……。ま、これからは仲間だ。よろしくな、ミーファ」

 ジェイルは半ば呆れながらも、自ら手を出し握手を求めた。ミーファも素直にその手を握り返す。

「よろしくね、ジェイル!」

 続いて手を差し出してきたカイトの手もミーファはしっかりと握り返した。

「よろしくな」

「うん。カイトもよろしく!!」

 カイトは心配な面もあるようだったが、ミーファのうれしそうな顔を見ると特に何も言わなかった。

「で、これからどうするの?」

「どうって、別にどうもしねぇよ。余った銀貨でカイトと飲みに行くくらいだ」

「えっ、聞いてないが……まさか、銀貨一枚分飲むつもりじゃないだろうな?」

 昨晩、ジェイルの飲みに付き合わせれたてひどい目にあったカイトは嫌そうだ。

「飲むに決まってるじゃねぇか。余った金は使っちまうに限る」

「マジかよ…」

 カイトは心底嫌そうに肩を落とす。ちなみに一晩で銀貨一枚分飲むのは二人でも相当至難の業である。

「え~、飲み屋~? あたしやだ!! 食事にしようよ!!」

「賛成」

 カイトがすかさず同意する。

「いや、別にお前は来なくても構わないんだが…」

「なんで!! 余った銀貨だって私も使う権利あるでしょ!!」

「ぐぐっ、じゃあ、どこがいいんだよ」

 ミーファの抗議にジェイルは反論出来ずに仕方なく同意する。

「コンフォートの一階にお洒落な食堂があるからそこにしようよ! 銀貨一枚あれば三人でもいいコース料理が食べられるよ!!」

「おお、いいな」

 カイトもジェイルの飲みに付き合うくらいならミーファの案に賛成のようだ。しかし、食べ物よりも酒が飲みたいジェイルは嫌そうだったが、カイトも同意してしまったため渋々了承し、三人はコンフォートへと歩みを進めた。

「そうだ、二人ともお金が入ったんだから、コンフォートに引っ越してきなよ。近くにいたほうがいいでしょ?」

「ふざけんなっ。あんな高いとこ住めるか!! お前がこっちに引っ越して来い!!」

「やだよ、あんな共同浴場しかないとこ!!」

 ミーファの提案をジェイルは拒否し、今度はさすがにカイトもジェイルと同意見のようだ。

「さすがにあそこは無理だよミーファ。どうしてもあそこがいいなら、しばらくは別々の宿に泊まろう」

「え~、そんなの仲間っぽくないじゃん」

 ミーファはワンダラーのパーティを、ひと昔前に多くいた冒険者のパーティと混同しているようだったが、拠点を構えて仕事をするワンダラーにとっては同じ街にいさえすれば、特に同じ場所に住んでいなくても支障は無い。それでも、何か納得がいかないのか、ミーファは地面の石を蹴りながらぶつぶつ言っていると突然顔を上げる。

「そうだ。次の仕事はいつ?」

「あん? まあ、明日もギルドには行ってみるが、とりあえずは懐も暖かいし、適当な仕事が見つかるまでのんびりだな」

「ええっ!! あたし、2,3日しか持たないんだけど……」

「いや、だから引っ越せっての……。だいたい、今回みたいな高給な仕事は月に一回もねぇからな」

 ジェイルは呆れている。カイトもそれに続く。

「ミーファ、断言するがワンダラーの仕事じゃコンフォートに住み続けるのは不可能だぞ」

「え~、ワンダラーって儲かんないんだねぇ…」

「コンフォートに住み続けられる仕事なんてねぇよ……」

 ジェイルはため息をつきながら呟いた。

「むぅ、じゃあせめて部屋にお風呂がついてるところを拠点にしようよ」

「部屋に風呂がある安宿なんてこの街には無いよ」

「う~ん、じゃあある街に引っ越そう!!」

『はぁ?』

 ジェイルとカイトの声が重なる。

「あほか、簡単に言うな。拠点の移動には金も掛かるし、この街の飲み屋のツケも精算しなきゃならなぇし、口説いてる最中の女だって諦めなきゃならぇえんだぞ!!」

 後半は完全にジェイルの都合だったが、拠点の移動には移動中の食費や荷物を運ぶための馬代や馬車代で資金が必要なのは確かである。カイトは同じ理由とは思われたくなかったようだが、とりあえずジェイル側と同意見のようだった。

「だって、せっかくワンダラーやってるんだし、いろいろな街を見て回りたいじゃん。」

 やはり冒険者と勘違いしているミーファはそれでも食い下がる。

「いや、だから、ワンダラーってそういうもんじゃないんだが……」

 カイトが呟いたが、ミーファの耳には入らない。

 三人はそのままコンフォートの食堂で食事の最中も延々とこの会話を繰り広げたが、結局ミーファに押し切られ、数日後にクレスト方面へと移動していったとさ。


~おしまい~

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