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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
番外編
15/42

第0話 出会い(ミーファ編) 【01】

 ここは都市同盟内の最北にある街コーファン。都市同盟でも数少ない南の海に面していない街である。海に面していないため物流が陸路のみとなり、大量の物資輸送が出来ないためそれ程発展しているわけでは無いが、北のロビエス共和国と都市同盟を繋ぐ街道沿いにあるため人の往来は多く、宿泊拠点にもなっているため貧困の街というわけでもない程の街である。

 その街のはずれにあるギルド内で、二人の男女が言い争いをしていた。男はギルドの奥にあるカウンター内にいる体つきの大きな初老の男でこのギルドの店主、女はカウンターを挟んで店主に詰め寄っている十台半ば程の少女である。

「なんで!! ギルドの仕事は誰でも請け負えるんでしょ!!」

「そりゃそうだが、だからといって失敗することがわかってる奴になんて紹介できるか! ギルドの仕事は遊びじゃねぇんだ。依頼人に対してうちが紹介することになる。失敗することがわかってる者なんて紹介したらうちの信用に関わるだろうが! だから、こっちの仕事なら紹介するって言ってるじゃねぇか」

 店主はそう言うと、カウンターの上に置かれたついさっきその少女に見せたばかりの仕事内容が書かれた紙を指差した。

「だーかーら!! 迷子の子猫探しなんて嫌よ!! そもそも報酬が銅貨一枚って!! 子供のお小遣いじゃないんだから!!」

「子供じゃねぇか……」

 店主が据わった目で女を見ると、女は額に青筋を立てた。

「子供じゃない!! これでもれっきとした大魔法士よ!!」

「自分で『大』をつけるな……だいたい魔法で攻撃出来るほどの魔力はあるのか?」

「当たり前でしょ!! これでも魔法学校ではトップクラスの成績だったんだから!!」

「魔法学校ねぇ……で、その大魔法士様は実戦の経験はあるのか?」

 店主はあからさま馬鹿にした視線を女に送る。

「……」

 店主は先ほどから女が請け負わせてくれと言っている仕事内容が書かれた紙を指差した。

「ねぇえんだな。あのなぁ、嬢ちゃん。こういう瘴獣退治ってのは命の危険が伴うんだ。ワンダラー経験も実戦経験も無い奴が請け負うような仕事じゃない。まして嬢ちゃんみないな毛も生えてねぇようなガキに任せられるわけ……」

「生えてるもん!!」

 女はそう言うと顔を真っ赤にして、下を向いた。かっとなり思わず反論してしまったが、言った瞬間に我に返り恥ずかしくなったようだ。

「……そ、そうか。そりゃあ悪かった」

 店主も思わぬ反論に後ろにたじろいだ。周りで聞いていたワンダラーと思われる者たちは大笑いしている。

「ま、まぁ、どっちにしろこの仕事の仲介はできねぇよ。他の仕事にしな。こういう仕事は実戦経験を積んでからにするんだな」

 店主はそう言うと、女の後ろからカウンターに近づいて来た男の二人組に目を移した。

「こりゃあ、ジェイルさん。仕事をお探しですかい?」

 店主は二人組みの一人、赤い髪を後ろに流し、右の頬に十字の傷があり、背も高く大柄で背には大剣を背負い、いかにも傭兵風の男に声を掛けた。

「ああ、昨日飲み過ぎて懐が寂しくなっちまった。なんか儲かる仕事はねぇか?」

 ジェイルと呼ばれた男は女の横に立ち、カウンターに片肘を付いた。ジェイルの横には薄茶色の髪をした男が立っている。背はジェイルより少し低く、ジェイル程では無いが体つきは良く腰にはバスタードソードを差しており、ジェイルとは違ったタイプの剣士に見える。その男はジェイルの横にいた女に視線を送ると軽く微笑んだが、女はそれに応えることなく頬を膨らませている。

「ちょうどいいのがありますぜ。ちょっと前にこの街の役人から瘴獣退治の仕事が来たんで」

 店主は女の前に置かれてあった紙を取るとジェイルに渡した。

「ちょ、ちょっと! それは私が!!」

 女は非難の声を上げたが、店主に睨まれるとさらに頬を膨らましたが、そのままギルドを出て行ってしまった。

「あの娘は?」

 ジェイルの隣にいた男が店主に聞いた。ジェイルは特に興味が無かったのか店主から渡された仕事内容が書かれた紙を見ている。

「あれですか。それが、よくわからんのですが、突然ここにやってきてこの瘴獣退治の仕事をやらせろと。うちも別に請け負える仕事に規則を設けてるわけじゃねぇが成功する見込みの無い奴には紹介できませんからね。だめだって言ってるのずっとここで粘ってやがって。ほとほと参ってたんでさ」

「あの娘、ワンダラーなのか? そうは見えないが」

「いや~、違いますよ。実戦経験は無いらしいですし。魔法が使えるようでしたから、まあ魔法学校でちやほやされて、腕試しでもしたかったんじゃないんですかね。どっちにしろ実戦の厳しさを知らないガキですよ。まあ、毛は生えているようですが」

 店主はそう言うといやらしい笑みを浮かべたが、聞いた男は特に表情を変えることなく女が出て行ったギルドの扉に目を向けた。

「銀貨十枚か……結構いい額だな」

 店主と隣の男との会話を聞いていたのかいないのかわからないが、ジェイルが突然口を開く。

「何の瘴獣なんだ?」

 隣にいた男もジェイルの持っていた紙を覗き込むと、その問いにジェイルではなく店主が答える。

「近くの洞窟で発生した蛇の瘴獣退治でさ。種類はキルサーペントのようですが、毒持ちの亜種なんでこの報酬金額のようでさ。既にこの街の者にも被害にあっている奴がいて急ぎでお願いしたいと」

 キルサーペントとは蛇の瘴獣で、大半は毒を持っていないが、ごくたまに毒を持ったものが発生する。

「毒持ちか……やっかいだな」

「だが、この報酬金はおいしいぜ。二人で分けても一人銀貨五枚だ。当分飲み代には困らねぇ。カイト、やるだろ?」

 ジェイルは報酬の金額に満面の笑みを浮かべながら、隣にいるカイトと呼ばれた男に向き直った。

「まあ、俺は別に構わないが」

「じゃあ、決まりだな。こいつ受けるぜ」

 ジェイルはそう言うと、持っていた紙を店主に手渡した。

「さすが、ジェイルさん。了解しやした。依頼主からは報酬は預かっていますんで、こいつは直接行って頂いてかまいません。よろしくお願いします」

 店主はそう言うと、契約書を差し出しジェイルがサインをした。その後、店主に瘴獣のいる洞窟の詳しい場所を聞くと、二人はギルドを後にした。ギルドを出ると、既に日は大分傾いており二人の影も身長の倍ほどに伸びている。

「退治は明日だろ?」

 カイトは隣にいるジェイルに尋ねる。

「ああ、今からいったんじゃ夜中になっちまう。明日の朝一で行こうぜ」

 二人はギルドのある通りを、拠点にしている安宿に向かって歩き始めた。


「そこのおじさん達!!」

 ふいに後ろから先ほどギルドで言い争いをしていた女と思われる声が掛けられた。が、カイトとジェイルはそれに気付かなかったのか、何も反応せずにそのまま歩いている。

「ちょ、ちょっとおじさん!!」

 女はあわてて二人を追うが、二人とも反応を示さない。

「ちょっと!! 聞こえてるんでしょ!!」

 かなり接近して声を掛けてもやはり反応しない。歩幅が違うせいか、女は早足で追いかけている。

「なんで、ん~~~、お兄さん達待って!!」

「なんだい、お嬢ちゃん」

 ジェイルはいきなり振り向くと、女に声を掛けた。隣のカイトも立ち止まり、女を見ている。その光景に女は若干引いている。

「……なんて、単純なの」

 女は呆れ気味にそう言うと、突然胸を張った。

「さっきの瘴獣退治、受けたんでしょ? 私、手伝ってあげてもいいよ! 報酬は銀貨五枚!!」

「いらん」

 ジェイルは即答すると、二人はまた歩き始めた。

「ちょ、ちょっと、話くらい聞いてよ。見たところ二人とも剣士でしょ? 私、魔法士だよ。しかも超優秀な」

 カイトは必死で付いてくる女にさすがにかわいそうと思ったのか足を止めた。ジェイルもそれを見ると面倒くさそうな顔をしたが、同じく足を止める。

「手伝いはいらねぇと言ったろ。しかも、銀貨五枚って……あほか」

 ジェイルは睨むことはなかったが、面倒くさそうな表情のまま再度拒否した。

「まあ、聞いてよ。私、これでも大魔法士よ! 自然魔法、陣魔法、回復魔法なんでも使えるんだから!」

「で?」

 ジェイルは冷たく言い放つ。

「え、でっ……て。す、すごくない?」

 ジェイルの思わぬ反応に、女に先ほどまでの勢いが無くなった。

「魔法は全て同じ魔力が元になってんだから、魔力を持ってさえいれば知ってるかどうかはともかく三つとも使えるのは普通だろ? だいたい、ワンダラーをやってる魔法士は大抵使える」

 ジェイルはさらに冷たく言い放つ。隣のカイトはジェイルのあまりの冷たい態度に苦笑いをしていたが特に口は挟まなかった。

「む~。でも、魔力の量は結構あるよ! 学校じゃ陣魔法の成績だってトップだったんだから!」

「学校ってお前な……瘴獣退治は遊びじゃねぇんだ。一度も実戦したことの無いやつなんか役に立つか!」

「それはギルドでも言われた!! だ~か~ら、経験するために私も連れてって! 絶対足なんか引っ張んないって。むしろ、あなた達が私の足を引っ張らないか心配なくらいよ!」

「あほか! 他をあたれ!」

 その後もジェイルと言い合いを続けていると、さすがに見かねたのかカイトが横から二人を手で制した。

「なあ、お穣さん」

「ミーファ!!」

 女は掛けられた声に、ジェイルとの言い争いで熱くなっていたせいもあるだろうが、怒鳴るように名乗ると、カイトは一瞬驚いたが言葉を続けた。

「じゃ、じゃあ、ミーファ。申し訳ないがジェイルの言う通り連れては行けない。確かに君は優秀な魔法士かもしれないが、今回の瘴獣は危険な相手だからやはり経験が無いと厳しい。もしどうしても瘴獣退治がやりたいなら、他のバジリスクとか弱い瘴獣が発生した時にでもした方がいい」

 カイトは優しい声で言ったが、ミーファは引き下がる様子が無い。

「そんなのいつ発生するかわからないのに待ってられないよ。大丈夫だから連れてって!」

「そう言われても、命の保証は出来ない」

「命の保証をして欲しいなんて言ってないでしょ!! 私があなた達の命を保証してあげるわ!!」

 ミーファは得意気な顔をして大きく胸を張った。しかし、その態度がジェイルをさらに苛立たせる。

「お前よ、何度も言うが瘴獣退治は遊びじゃねぇんだよ。命のやり取りもしたことねぇような毛が生えたばかりの小娘が首を突っ込むようなことじゃない!!」

 先ほどギルドで聞いたことだが、ジェイルはこういう事はよく覚えている。ミーファはその言葉に顔を真っ赤に染めて言葉を失っている。年頃の女の子にそれはつらいと思ったのかカイトが割って入った。

「言葉は悪かったが、君のためだ。腕試しがしたいならそのうち機会があるさ」

「腕試しじゃない!!」

 ミーファは大声でそう言うと、来た道を帰っていった。

「なんか怒らせてしまったな」

 カイトは去っていくミーファの後ろ姿を見ながら呟いた。

「気にすんな。ガキにいちいち気を使ってられるか。それより、めでたく仕事も決まったし今日は有り金全部飲んじまおうぜ!」

「……お前の飲みに付き合うとろくなことがないんだが」

「いいじゃねぇか、付き合え!!」

 ジェイルは嫌がるカイトの首を抱えると、宿の近くにある酒場へと連行して行った。

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