第二話 【10】
「あ、いいこと思いついちゃったかも。ねぇ、エマ。三本くらい連続で矢を撃てる?」
「出来ないことは無いが、また風で防がれるのではないか?」
「それでいいの。あいつの集中力を乱してくれれば」
「わかった。やってみよう」
何かを思いついたミーファは二人の前に出る。エマはカイトの影で矢を三本準備するとミーファの合図をまった。
「くっくっく。何をしても無駄じゃよ。嵐よ!!」
その様子にオクラが先手を打ってきた。オクラが杖を掲げると、水を含んだ風がカイト達三人に吹き付ける。
「きゃあ!!」
ミーファは吹き飛ばされそうになるのをカイトが支えるが、風に水分が含まれているため、通常の風よりも重く、カイト自身立っているのがやっとの状態でそれ以上何も出来ない。
「ぐぅ、混成魔法まで使うなんて!! ここまで出来る奴がなんであんな研究を」
混成魔法とは二つの自然魔法を同時に使う技術であり、かなり高度な魔法である。今オクラが使った魔法は水の魔法と風の魔法を同時に使用し風に水分を含ませて威力を増していた。
「くっくっく。お主にはわかるまい。ロマンというものが!!」
「何がロマンよ!! 今よ、エマ!!」
オクラが発生させた嵐が止むのを待ってミーファが叫んだ。エマはその言葉にすぐさま反応し、オクラに向けて矢を連続で三本放つ。
「ばかめ。無駄だと言っておろう。風よ!!」
放たれた矢の方向を変えるためにオクラは風を発生されたが、三本連続で飛来してくるため、先ほどよりも長く魔法を維持させられている。
「バカはあんたでしょ!! 魔方陣は描いた本人じゃなくても使えるのよ!!」
ミーファは魔方陣の端に片膝を付くと、杖を付きたて魔法陣に一気に魔力を込めた。
「な、なんじゃと!! お主、禁呪の言葉を知っておるのかっ!!」
「うるさい!! 余計なことは言わなくてよし!!」
ミーファはオクラに何か口止めをすると、さらに魔方陣に魔力を込め、力ある言葉を発する。
『人の中枢たる魂よ。万物との繋がり今一時忘れ、深遠なる安らぎを求めよ!!』
ミーファの声に反応した魔方陣はさらに輝きを増した。
「しまっ……くかぁー」
魔方陣の中にいたオクラは倒れこむとそのままいびきをかいて寝てしまった。
「……え、終わり?」
その様子を見ていたカイトは拍子抜けしたように声を上げた。
「まぁね」
そう言うミーファは胸を張って得意気だ。
「なんだか、最近出番が無いな……」
ミーファとは対照的にカイトはどことなく寂しげだった。
「さて、ジェイルを起こすとするか」
三人はジェイルに近づくとミーファはジェイルの悪口を言ったり、髪を引っ張ったり、顔を軽く叩いたりするが起きる気配がない。
「やっぱ、簡単には起きないよ」
「まあ、もとより寝起きが悪いしな」
「どうするのだ? 担いで連れて行くのか」
「いや、起こすよ。危ないから少し離れてくれ」
「危ない?」
「どういうことだ?」
エマとミーファはカイトの言っていることがわからなかったが、言われたとおりカイトと共にジェイルから少し離れた。
「まあ、慌てるなって」
カイトはジェイルの方を向き直ると、目を閉じた。そして、次に目を開けた瞬間、部屋の空気が一変する。その空気の変化にジェイルは跳ね起きると背中の大剣の抜いた。エマもその気配に気付き、カイトから離れると腰のレイピアに手を掛ける。
唯一ミーファだけは何事かわからずキョトンとしている。
「……カイト?」
エマはカイトに怪訝な表情を向ける。
「わるいわるい、エマも気付けるとは知らなかった」
「何だ今の殺気は? カイト、おめぇか?」
大剣を構えたジェイルは、周りに注意を払い殺気が消えていることを確認すると剣を背中の鞘に収めた。
「ああ、お前が起きないんでな。ちょっと荒っぽく起こさせてもらったよ」
「……何が、何なの?」
ミーファは未だ何が起こったのかわかっていない。
「なるほど。カイトの言っていた危なくなったら勝手に起きるというのはこういうことか」
「なんだか頭がぼーっとするな。俺、眠らされてたのか?」
ジェイルは三人に寝ぼけた顔で近付いてくる。
「まったく、油断しすぎだ」
「すまねぇ。魔法士は苦手だぜ。オクラの野郎は?」
「そこでミーファが眠らせた」
ジェイルはカイトの差した方を見ると、オクラが眠っているのが見えた。ミーファがやったと聞きまた小言を言われるのかとジェイルがミーファの方を見ると、ミーファはエマと話していた。
「ねぇ、エマ。何が何なの? 何で何もしてないのにジェイルは起きたの?」
一人話しについていけないミーファはエマに助けを求めている。
「気付かなかったのか? カイトがジェイルに対して殺気を放ったのを?」
「殺気?」
「ああ、その殺気に気付いてジェイルが飛び起きたようだ」
「全然……それって気付けるものなの?」
「我々エルフ族はそういったものには敏感だが、私は寝むっていたら気付かない。人族は気付くのが普通なのかどうかはわからない」
「普通じゃないと思うけど……」
ミーファはエマの説明を聞いて何が起こったのかは理解したようだが、驚きと疑惑の表情を浮かべた。
「ミーファ。で、結局オクラは何を研究してたんだ?」
カイトから声を掛けられ、ミーファはそちらを振り向いた。
「え? あ、ああ。それが、かなり恐ろしいというか、おぞましい魔法よ」
「マリオネットとスリープじゃねぇのか?」
ジェイルもカイトに続く。
「違うよ。というか、マリオネットとスリープはある意味完成された魔法だから、それ自体を今さら研究することは無いの。オクラが研究していたのはマリオネットを応用した魔法よ」
「応用?」
「さっきの本があった部屋に行こう。そこで説明するよ。……説明するのもおぞましいけど」
ミーファの表情にはまた恐怖の色が浮かんだ。
四人はさっきのオクラが書いたと思われる本が置かれている部屋へと戻ると、ミーファは先ほど手にした本を開いて三人に見せた。
「いや、だから古代文字だから俺たちは読めないんだが……」
「あ、そっか。ここにこの魔法の名前が書いてあるんだけど……」
ミーファは開いたページの最初の方に書いてある太字を指差した。
「なんて書いてあるんだ?」
ミーファは恐怖の表情を浮かべながら、そこに書かれてある文字を呼び上げた。
「……若い女を惚れさせる秘法」
『……………は?』
三人の間の抜けた声が重なる。
「こんな恐ろしい魔法を研究しているなんて……幸い、まだ完成はしていないみたいだけど」
ミーファは自らの肩を抱き、震えている。
「いや、確かに恐ろしい魔法ではあるが……、秘法って……」
「人族の男の頭の中はそれだけなのか?」
「俺に魔力が無いことが残念だ……」
呆れているカイトとエマ、興味を示しているジェイルをよそに、ミーファは声を張り上げる。
「何をのん気なことを言ってんの!! もしこれが成功したら、この街の若い女の子はみんなオクラの虜になってしまうのよ!!」
「うらやましい限りだ」
「あほぅ!!」
「痛てぇ」
ジェイルの言葉にミーファは思わず足を踏む。
「しかし、ミーファ。お前、魔法士学校でも教わらない禁呪をよく見ただけでわかるな。そういえばさっき禁呪を使わなかったか?」
「えっ……。いや、え~と、魔法士のたしなみってやつ……」
ミーファは人さし呼びを頬の横に立て、にこやかにごまかそうとするが、額にはびっしり汗を書いている。
「お前……依頼内容を聞いた時から態度がおかしかったが、普段ニヤケながら読んでる魔法書って……」
「ニ、ニヤケながらって失礼な!……だって、合法的な魔法は大体勉強しちゃったし、禁呪っておもしろいんだもん。でも、使ったのは初めてだよ! 今回はそれで助かったわけだし~……」
ミーファはわざとらしくいじけて見せる。
「別にお前がそれで何かしでかすとは思わないから構わんが、ほどほどにしとけよ」
「カイト、甘ぇよ。ミーファだって年頃の女だぞ。好きな男を虜にする魔法の研……」
--- ゴィンッ!! ---
「お前、杖で……」
ミーファがジェイルの頭を杖で殴りつけると、悲鳴も上げられないほど痛かったらしく涙目でうずくまった。ちなみにミーファの杖は金属製の高級品である。
「ま、まあ、とりあえずこれで証拠は見つけたわけだし、それを魔法士協会に持っていけば、オクラは憲兵に捕まってもう研究を続けられないだろ。オクラもしばらくは起きないだろうからとっとと魔法士協会に報告しよう」
カイトがジェイルに同情の目を向けながらそう言うと四人は館の外に出た。外は既に夜が明けて明るくなっていたため、その足で魔法士協会へと向かうことにした。




