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ワンダラー放浪記  作者: 島隼
第二話 男のロマンは永遠に。。。(後編)
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第二話 【8】

「ミーファ!! この部屋空いているぞ!!」

 エマの声にミーファがその部屋に掛け込む。

「あ、いい感じ」

「出来そうか?」

「ちょっと待って、え~と……どうしよう。とりあえずわかるとこまで……」

 ミーファはそう言うと、腰に付けている革の入れ物の中から、魔法陣を描くために持ち歩いている石灰岩を取りだし床に魔法陣を書き始めた。しかし、途中で手が止まる。

「う~ん……あってるのかな?」

 ミーファは立ち上がり、部屋の端から端を行ったり来たりしながら何かを考えている。部屋の外では剣の打ち合う音が響いていた。

「ミーファ、急がないとあの二人が」

 エマが心配そうな声を上げる。

「待って。間違うとジェイルを精神崩壊させかねないの」

「そ、そんなに危険なのか」

「精神干渉系の魔法はかなり危険よ。と、とりあえずエマ! あの二人をここまで誘導して!」

「わかった」

 エマはミーファをその部屋に残し、カイト達の元に戻った。


「カイト! 向こうの部屋でミーファがジェイルを元に戻す準備をしている。なんとかジェイルを誘導出来るか?」

 カイト達の元に戻ったエマが叫ぶ。

「わかった! なんとかやってみる。危ないから先に行っててくれ」

 ジェイルの剣を受けながらエマに応えると、カイトは徐々にミーファのいる部屋へと近づいた。ジェイルもカイトを狙っているためその後に続く。カイトが打ち合いながらもミーファの部屋に入ると、ミーファはまだ部屋を歩き回っていた。

「ミーファ!! いいのか?」

「あ、あはは。早かったね……まだです」

 ミーファはかなり引きつった顔で笑っている。

「おい! そんに待てないぞ!!」

「わ、わかってる!! もう少し待って!!」

「カイト! 私も加勢するか?」

 エマが自分の腰のレイピアを抜いた。

「いや、やめとけ。今のジェイルには躊躇が無い。半端な技量では殺られるぞ」

「くっ」

 エマは弓の腕は一流だが、レイピアは護身術程度にしか使えない。とても、ジェイルの大剣を受けることはできない。

「ミーファ!!」

 カイトが急かす。

「わかってるよ!! ちょっと静かにしてて!! え~と、操られているということは、恐らく自分の思考を制限されているんだと思うから、えーと、自我を失ってるのかな……」

 ミーファはブツブツいいながら部屋を行ったり来たりしている。

「う~ん、まさか自我が崩壊しているの? いや、だったらただの獣だし、剣技なんて使える訳無いから……でもそれは、制限されてても同じかな? それに、制限されてるだけなら私達のことを覚えていないのも変だし……う~、そうか、別な擬似的な自我を埋め込まれて、元々の自我を押し込められているのかも。だとしたら、元の自我を呼び戻すためには……」

 ミーファは必至でマリオネットの解呪を考えているが、その間もカイトとジェイルは激しい戦いを繰り広げている。

 ジェイルが大剣でカイトの腹部目掛けて横に薙ぎ払うのをカイトが後ろに下がってかわす。かわされた剣が壁にぶつかると、ジェイルはさらに踏み込み跳ね返った反動を利用し今度はそのままカイトのふともも目掛けて打ち下ろした。

「おわっ!!」


--- ガッ--キィン---


 カイトはあわてて、自分の剣を床に突き立てそれを防いだ。

「まったく、自称百戦錬磨は伊達じゃないな」

 カイトの言うとおりジェイルの実戦だけで鍛え上げられてた剣技は、一見荒削りで大雑把にも見えるが隙がなく狙いも正確だった。何よりも両手持ち専用の大剣を片手でも軽々と振るうその力は驚異的とも思えた。

 ジェイルはその後も無言のまま剣を振り上げると一気にカイトの頭部目掛けて振り下ろした。カイトがそれを剣で受けたがその瞬間に刃が欠けその一つがカイトの顔を傷つける。

「チッ。ドワーフ作の業物で結構高いんだぞ。後で弁償させてやる。しかし、これは受けるだけではもたないな」

 さらにジェイルが突いてきた剣を横に弾くとカイトは後ろに飛んで間合いを取った。

「ジェイル。悪いがこっちも本気を出させてもらうぞ! うまくさばけよ!!」

 そう言うとカイトは踏み込み剣を振り上げると、攻勢に出た。右斜め上から首を目掛けて斬りつけると、ジェイルは剣を左手に持ち、それを剣のガードの部分で受け止めると無造作にカイトの剣ごとそのまま下におろし、空いている右手でカイトの顔面を殴りに掛かる。カイトはそれをかわすと左手と首を使ってジェイルの右肘の関節を極め、そのまま投げに掛かるがジェイルは自ら前に飛んで一回転してそれを外した。そして、着地でバランスを崩したジェイルにカイトが剣を振り上げ叩き下ろすとジェイルはそれを剣で受けるが、カイトはその瞬間に足でジェイルの腹部を蹴り後ろに飛ばす。さらにカイトが前に踏み込もうとするが、ジェイルは飛ばされたまま剣を横に薙ぎ、カイトの追撃を許さない。

「すごい……。あの二人、これ程の腕だったのか……」

 傍らでその攻防を見ていたエマが感嘆の声を漏らす。

「しかし、これでは……ミーファ!! まだ掛かるのか? カイトが本気になってしまった。このままでは決着が着いてしまう!!」

「え? 決着って? どゆこと?」

 部屋を端から端を行き来していたミーファは突然声を掛けられたが、魔法陣の事で頭がいっぱいでカイト達の戦いを見ていなかったらしく何の事かわからない。

「どちらかが無事では済まない!」

「ええっ!! なにそれ。ちょっと待って。もう少しで何かわかりそうな気がする」

「急いでくれ」

 エマはミーファを急かすが、ミーファも未だ解呪の答えが見つからない。

「わ、わかった。えっと、自我を戻すとなると……自我は生まれてからの経験によって築かれるものだから、ジェイルの本来の自我は過去の経験に基づいて成り立っているはず。……ろくな経験じゃなさそうだな…ってそうじゃなくて、それが表に現れてこないということは……どゆこと?? う~~ん……過去の経験は~、そっか記憶だ。過去の記憶を封じ込めて、オクラの下僕となるような簡易的な記憶を植付けられてるのかもしれない。だからオクラの言うことに従い、私達のことは思い出せないのかも。ということは、過去の記憶を呼び戻せば本来の自我が前に出てマリオネットは解けるかもしれない! う~、自信は無いけど、やるしかない!」

 ミーファは途中で止めていた魔法陣を再度書き始める。

「ミーファ!出来そうなのか?」

「うん、多分……」

 エマの問いにミーファは自信の無さか小声で頷く。その後、魔法陣の記述を再開してからしばらく順調に書いていたが、途中で手を止め頭を抱えた。

「あれ~、ねぇエマ! 記憶って古代文字でどう書くんだっけ?」

「え? 私に聞いてるのか? 人族の古代文字など私が知るわけないだろう」

「だよね……。あ、思い出した」

 エマの焦りをよそにミーファは割とマイペースに魔法陣を書き進める。そして、書き終えると魔法陣用に細かく砕かれた魔石を要所に置いた。

「出来た!! カイト、ジェイルをこっちへ!!」

「なんだ出来ちまったのか。もう少しでジェイルと決着が着けられそうだったんだが」

 カイトはミーファの呼び声におどけて見せるが、カイト、ジェイル共に既に体に数か所切り傷を負っていた。カイトの言葉に二人の戦いを傍らで見ていたエマは冗談には聞こえずイラつきを見せる。

「馬鹿なこと言ってないで早くこっちへ」

「冗談だよ。二人とも端に寄っていてくれ。行くぞ」

 カイトはジェイルに一度切りつけると、魔法陣の中に飛んだ。ジェイルもそれを追って魔法陣に入る。カイトはそれを確認すると魔方陣から出ようとするが、ジェイルは渾身の力を込めてカイトに剣を振り下ろした。


--- ガギィン ッ---


「ぐお!」

 カイトはなんとかそれを剣で受け止めるが、ジェイルは離れずそのまま押し切ろうと力を込めて来たため、その場を動けない。

「カイト!! 離れて! 魔法陣の外へ!」

「だめだ。力を緩めると押し切られちまう」

「しょーがないな!!」

 ミーファは片膝を付くと魔法陣の端に自らの杖を立て、魔法陣に魔力を込める。すると、それに呼応するように魔法陣と要所に置かれた魔石が青白い光を放つ。

「おい!! 俺ごとやる気か?」

「大丈夫! マリオネットに掛かって無ければ影響は無い……と、思う」

「思うって何だ!! 信じてるぞ!!」

「…………」

「何とか言ってくれ!!」

「一言だけ言っておくね!! 私、解呪なんてやったことないから!!」

「何の念押しだ!! 余計不安になるだろ!!」

「えーい!! 大の男が細かいことを気にしない!! いくよ」

 ミーファさらに魔法陣に魔力を込め、力ある言葉を発する。


『自己を形作る崇高なる精神よ、汝を封じる仮初めの記憶を滅し、過去の記憶と共に蘇り給え!!』


 ミーファの普段の声とは違い魔力を含んだ不思議な響きのある声で力ある言葉を唱えると、魔法陣はさらに強い光を発した。

「ぐわぁ!! なんだ、これはっ!!!!」

 カイトとジェイルは合わせていた剣を互いに落とすと、カイトは片膝を付き、ジェイルは天を仰ぎながら共に頭を抱えている。

「うがああぁっっ!!! ---マ---キア--」

 ジェイルは悲鳴を上げると、そのまま両手両膝を付いて倒れ込んだ。

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