第二話 【7】
「この部屋には無さそうだな」
カイトが入った部屋へ使われていない部屋なのか、特に何かあるような部屋には見えなかった。カイトがその部屋を出ると、少し離れた部屋でジェイルが手招きをし他の三人を呼んでいるのが見えた。ミーファとエマはカイトよりも先にジェイルの部屋に向かっている。
「どうした?」
ジェイルが調べている部屋に入ると、そこは先ほどオクラがいた部屋と似たような部屋だが机は無く、壁際にはいくつもの本棚が並べらおり、中央は何も無い空間になっている。
「この部屋の本、手書きの本が多い。研究成果を置いている部屋っぽいぜ」
「本当か。よし、この部屋の中の本を手分けして調べてみよう」
カイトの言葉に三人が無言で頷いた。そこにある本はジェイルが言うとおりオクラが今まで研究してきた事の成果が記されているようだったが、大半は合法的な内容だった。
「それっぽいのはねぇな」
ジェイルが呟いた瞬間、すぐ隣りで別の本を見ていたミーファが突然大声を上げる。
「ああ!! これ、うぐぅ...」
「ばかっ!」
ジェイルは急いで手でミーファの口を塞ぐと、ミーファはもごもごしている。
「ぶはぁ。だ、だって、でも、見てこれ?」
ジェイルが手を離すと、ミーファはカイトとエマも呼び、持っている本を開いて見せた。が、見てもすぐにわからないようにするためか、古代文字で書かれていて三人には読めなかった。
「なんて書いてあるんだ?」
カイトの問いにミーファは深刻な表情をしている。
「こいつ、恐ろしい研究をしてる。これはマリオネットの応用で...」
「誰じゃ!!」
ミーファが説明を始めた直後に部屋の魔石が灯り、扉の所に魔法士用の杖を持ち黒いローブを纏った皺だらけのオクラがいた。
「げ、ばれた。ミーファ、お前のせいだ」
「ごめ~ん……」
ジェイルがミーファの頭を小突くとその頭をさすりながら軽く笑ってごかすが、突然オクラに指を突きつける。
「でも、もう関係無いわ。証拠は手に入れた。オクラ!! あんたの野望はこれでおしまいよ!! こんなおそろしい研究は続けさせられないわ!!」
ミーファは指を射している手とは逆の手で先程の本をオクラに見せている。
「お主は!! メイド五号!!」
「だれが五号だ!!」
「おのれ、さては魔法士協会のまわし者だったか! だが、それを見られた以上生きて返すわけにはいかんぞ!!」
オクラは部屋の中に入ると、自らの杖を前に出した。同時にミーファも本をエマに渡し、自分の杖に握る。
「ばかめ」
オクラはそう言うと、杖を床に付き魔力を込めた。すると、床の所々が青白く光出した。
「ん? この床、何か彫ってあるぞ?」
それに気付いたカイトが床を指差すと確かに大きな円に古代文字で何かが彫られている。
「へ、ああっ!! これ、やばい! みんな魔法陣の外に出て!! マリオネットよ!!」
「遅いわ!!」
オクラは魔力が込められた魔法陣に『力ある言葉』を唱え、魔法陣の力を発動しにかかった。
「くそ!!」
ミーファの声を聞いたカイトがミーファを担ぎ魔法陣の外へ飛び出す。しかし、エマは反応が遅れ、それに気付いたジェイルがエマを魔法陣の外まで付き飛ばした。が、自分が間に合わない。
「うがぁ!!」
魔法陣の中でジェイルが苦しそうな声を上げる。
「ジェイル!!」
助けられたエマが駆け寄ろうとするが、カイトがそれを止めた。しばらくその状態が続くと魔法陣から光が消え、ジェイルも魔法陣の中で虚ろな目をしながら立ち尽くしている。
「三人逃がしたか……まぁ、いい。おい、大男! そいつらを斬れ! ただし、メイド五号ともう一人の女は殺すなよ。儂が後でたっぷりと可愛がってやる。ひっひっひっひ」
オクラは不気味な笑い声を上げると、部屋から出て行ってしまった。
「おい、待て!!」
カイトがオクラを追うとするが、ミーファがカイトの手を掴み制止する。
「まって、カイト!! ジェイルが!」
ミーファの言葉にジェイルに目を向けると、背中に背負っていた大剣を抜き、あきらかな敵意をカイト達に向けていた。
「おいおいおい。本当かよ。ジェイル!! 俺達がわからないのか?」
カイトの呼びかけにジェイルは答えない。
「多分、完璧にマリオネットに掛かっちゃった。解かないと、術者の言うことしか聞かないと思う」
「解けるのか?」
「解呪はできるはずだけど、私はやったことないよ……」
「知識は?」
「微妙に…無いことも無いって、うわぁ!」
--- ギィン ---
突然、ジェイルが一気に間合いを詰め斬りかかって来る。カイトは両側にいたエマとミーファを付き飛ばすと、腰のバスタードソードを抜いてその剣を受け止めた。
「ミーファ、しばらく俺がジェイルの相手をする!! その間になんとかしろ!!」
カイトはジェイルと剣を合わせながら叫んだ。
「ええ!! マリオネットの解呪って難しいんだよ!!」
「だからってジェイルを斬るわけにはいかないだろ!」
「そりゃそうだけど……。う~ん、わかった、なんとかがんばってみるよ。エマ!! 手を貸して! ここみたいに床が広くてまだ魔法陣が彫られていない部屋を探して!」
ミーファの言葉にエマが頷くと、二人で周りの部屋を探しにいった。
「さてジェイル、まさかお前とやり合うことになるとはな」
カイトは剣が合わさっている個所を支点に後ろに一度離れると、ジェイルもカイトを追い、今度は横に薙いで来る。
---キィン---
カイトはそれを剣で受けると、両者は再度離れて対峙した。
「まったく、お前とは一度勝負してみたいとは思っていたが、こっちは手が出せないとはとんだハンデ戦になったな」
カイトは攻めることなく、ジェイルの斬り込みを防いでいるが、ジェイルの剣は両手持ち用の大剣であり、カイトは片手、両手のどちらでも使えるバスタードソードである。カイトの剣の方が使い勝手はいいが、こと攻めに関してはジェイルの剣のほうがかなり強力である。それを攻めずに受け続けるのはかなり厳しいと思われた。
互いに様子見ためかしばらく対峙していたが、攻撃できないカイトをよそにジェイルは大剣を一度下げると今度は下からの斬り上げてくる。カイトはそれに対し剣を打ち付けて受けるが、抑えきれず体を浮かされバランスを崩してしまった。
「なんだと!! この馬鹿力が!」
バランスを崩したカイトの首を目掛けて今度は大剣を横に薙いだ。カイトはそれをしゃがみこんで間一髪かわす。
「危ないな。そっちは躊躇無しかよ」