変わらない扱い
レクシオン様が去った後、神官長にいくつか質問をされた。
得意なこと、できること、好きなこと。
この神殿で生活していく上で、重要なことらしい。
その後、教育係がつけられた。
名前をスザンヌ。
つい上がった目にメガネをかけていて、見た目が怖そうな年配の女性だった。
神官長からわからないことは、スザンヌに聞くように言われた。
「スザンヌ、王弟殿下からの預かった子だ。言葉を話せないらしい。教育を頼む。それと、よくよく見ているように。」
「かしこまりました、神官長。セレイユと言いましたね。私はスザンヌです。何かあれば私に聞くように。まずは部屋に案内します。ついてきなさい。」
私がコクリと頷くと、微かにスザンヌさんの眉が動いた。
その仕草や雰囲気が、マザーに似ていないようで似ている気がした。
案内された部屋は一人部屋。
孤児院の部屋はここよりも広かったけど、4人部屋だった。
一人なのは、気を遣わなくていいからよかった。
今日は初日なので、休んでいいらしい。
スザンヌさんは、見た目と違って優しいのかもしれない。
一人になった部屋で、窓を開けて空気を入れ替えていると、レーヴンがするりと入ってきた。
『よぅ!元気そうだな。俺の言う通り、状況が変わっただろう?』
「知っ……て、た?」
『いんや。王弟が近くに来ていたからな。予想はできた。お前は、案外抜けてるからな。』
ぬ、抜けてる……
自分ではしっかりしていたつもりなのに、抜けてるって言われた。
「……お、う……てい?」
『今の王の弟だから、王弟。』
そういえば、神官長も言ってた。
意味がわからなかったけど、そういうことだったんだ。
レクシオン様、思っていた以上に偉い人なんだね。
失礼のないようにしないと。
『ま、新しい環境は大変だと思うけど、頑張れよ!』
レーヴンは片方の翼をふりふりすると、空いていた窓から出ていった。
相変わらず自由な鴉だ。
翌日からの生活は、孤児院の時と何ら変わらなかった。
朝から洗濯をして、昼からは掃除をする。
洗濯も掃除も、みんなで手分けしてやっている。
サボる人がいないけど、一人一人の量が多いから大変。
ご飯は3食、みんなと同じものが配られた。
これは少し嬉しかった。
お腹が空いて、悲しくなることがなくなったから。
初めはみんな、新人とのことで優しくしてくれたけど、私が言葉を話せないらしいとわかると、みんなの対応が変わった。
明らかに私を避けている。
これはもう、仕方のないことなんだと思う。
それが悪化したのは、レクシオン様と定期的に会って、その度にお土産をもらっていると知られてから。
「ちょっと、一緒に来てくれる?」
あぁ、また呼び出された。
案内されるまま着いていくと、そこはいつもの裏道。
薄暗くて誰も通ることのない場所。
私を呼びに来た人は、先に待っていた4人に混じる。
一番背の高い人が、私の肩を思いっきり掴み、壁に押し付けた。
「……っ!」
痛い。
まだ先日の怪我も治ってないのに。
痛みで痛みを上書きされる。
それでも私の表情は固まったままで、言葉は口をついて出てこない。
「ほんっと、気持ち悪い。なんで王弟殿下は、こんな異常者を気にかけてるの?何かしたんじゃないでしょうね!?」
怒鳴り声が耳をつく。
耳の奥がキーンと響いて、音が一瞬遠くなる。
「どうせ喋れるんでしょ!何とか言いなさいよ!」
口々に言われる悪意は、私の心を沈ませる。
聞いてはダメ。
落ち着いて。
こんなこと、何でもないんだから。
振るわれる暴力は、孤児院の子どものものとは違って跡がくっきり残る。
痛みも、ずっと長引く。
外からわからないように、服で隠れる場所にばかり暴力を振るわれるから、他の人に気づかれない。
我慢……我慢……我慢……
我慢すれば、終わりが来るから。
結局最後まで何も言わなかった私を突き飛ばして、5人は去っていった。
痛みで動けなかった私は、次の予定に遅れてしまった。
スザンヌさんに怒られた私は、意を決して、身体の傷を見せて訴えた。
けれど返ってきた言葉は「自業自得」、その一言だった。
言葉を話せない私が悪いのだと、だから教育してもらっているのだと、そう言われた。
期待した私が、馬鹿だった。




