私の選択
見られた。
見られた。
見られた……!!
どうしよう、また化け物って言われる。
気持ち悪いって言われる。
どうしよう。
どうしよう……
頭が真っ白になって、それだけしか考えられなくなる。
落ち着かないと。
早く、早く、落ち着かないと……
落ち着かないと、また傷つけてしまう。
大丈夫……大丈夫だから……!
地面に座り込んだ身体は動かなくて、そのくせ震えは止まらない。
指先が白くなるくらい強く服の裾を掴んで、次の衝撃に備えるために身を固くした。
怖い。
何を言われる?
何をされる?
怖い。
違う……
怖くない……
怖くなんかないんだからっ。
頭がごちゃちゃで、考えがまとまらない。
でも気持ちは正直で。
怖くないと思い込んでも、震えが止まらない。
怖くて顔を上げられない。
「君は……」
きた。
ぎゅっと目を閉じる。
「君は、神に愛されているんだね。」
………………え?
「君のその力は、きっと神に祝福された証だ。愛の証なんだよ、きっと。とても、温かい愛だね。」
愛……
これが……この力が、愛?
俯きながら、頭を横に振る。
信じられない。
違う。
愛なんかじゃない。
だって、本当にそうなら、私は両親に捨てられなかった。
他の人に殴られたり、蹴られたりしなかった。
痛い思いなんかしなかった。
異常者なんて、呼ばれなかった。
これが、愛のはず……ない。
愛はもっと、温かくて、尊いものなの。
これは、違う。
何度も何度も、力なく頭を横に振る。
その男性はさらに距離を詰めてきて、私の前に膝をついた。
綺麗な服が、土で汚れる。
その様子を、ぼんやりと眺めた。
「愛されているよ。だって、こんなにも綺麗な光景を生み出すことができるんだから。」
「ち……がう。わた……しは、いっぱい、傷つ……けた。」
「例えそうだとしても、それはきっと、神は君に大切なことを教えたかったんじゃないかな?」
大切な、こと?
そろそろと、名の知らない彼を見上げる。
彼は、優しく微笑んでいた。
初めて、私に対して向けられた、優しい表情。
「言葉は薬なんだ。量や使い方を間違えると、毒となって相手を傷つけて、時には殺してしまう。けれど、量や使い方を間違えなければ、相手を癒して救うことができる。幸せにだってできる最良の治療薬となる。それを、教えてくれたんじゃないかなって、私は思うよ。」
言葉が……薬……?
人を傷つけて殺し、同時に癒して救う。
私の言葉でも、誰かを救うことが、できるのだろうか。
人を、癒すことができるのだろうか。
傷つけるためじゃなく、癒すために力を使いたい。
「私と一緒に来ないかい?どうか、君の力を貸して欲しい。私たちを、救ってくれないだろうか?」
彼が片手を差し伸べる。
この手を取って欲しいと、そう言われている。
こんな私に、選択肢をくれている。
私が、道を選ぶの?
私が、選んでいいの?
私に、誰かを救うことができるのかな?
本当に……救うことが、できる?
この力が、役に立てる?
この人の、役に立てる?
私が、すべきこと……
ううん、私が、したいこと。
私が、私自身で選ぶ道。
私は、未来を、この先の道を選んでいいんだ。
きっと、こんな機会は、二度と来ない。
これが、最初で最後。
私の分かれ道。
もしかしたら、選んだ先が間違った道かもしれない。
いずれ後悔するかもしれない。
でも、進んでみないと、結果はわからない。
立ち止まっていても、何も見えてこない。
進むしかないのなら、私は…………
私は震える手を、彼の手に乗せた。
そして、離さないように、縋るように、しっかりとその手を握った。
彼は、包み込むようにその手を握り返してくれた。
彼の手は、彼と同じくらい優しくて、とても温かい手だった。
「ありがとう。私はレクシオン。君の名前を、聞いてもいいかい?」
「セレイユ……です。」
「セレイユか。よろしく、セレイユ。」
私はコクリと、一つ頷いた。




