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視察 SIDE:レクシオン


私が生まれるよりも前から、この国ではよくないことが続いている。

曇りと雨の多い天候。

夏は年々気温が上がり、冬は年々気温が下がる。

それに伴う、作物の成長不良。

飢饉による餓死、気温低下による凍死、蔓延する病。

様々な不況が、一気に押し寄せてきている。


これは、2、300年ごとに、定期的にやってくる我が国の問題だ。

何が原因なのか、今だに解明されていない。

だが定期的にくるとわかっていれば、国としては対策を取っておくことができる。

毎年少しずつ積み立てていた物資や資金を投入しているが、ここ数十年の不況はそれを上回るほど長い期間と問題の大きさがあった。


いくら対策を練っても、死んでいく民の数は一向に減らないどころか増えている。

国としても、かなり疲弊してきているのが現状だ。

どうにか改善できないかと他国に留学したが、転用した対策はうまくいったとは言えない。

ただ、現状維持ができたので、無駄ではなかった。


何とか他国からの支援も貰えているが、資金が尽きてしまえばそれも難しくなる。

何とかしなければという焦りばかりが先行してしまう。


国王である兄は、王城から頻繁に離れることはできない。

それに、国の疲弊が民の不満にもつながっているため、国王を亡き者にと考える者がいないとも限らない。

だから弟である私が国内を回り、民の暮らしを視察しているのだ。


市井を視察してわかったことは、民はもう限界だということ。

たくさんの民から暗い目を向けられると、やるせない気持ちが膨らんでくる。

不満をこぼし、突っかかってくる民はまだ元気な方だった。

限界までくると、生きる気力さえなくなるのだ。

それでも私は民と触れ合い、少しでも現状を改善する方法を探している。


今回の視察には、孤児院の視察も組み込まれている。

子どもは、未来の希望だ。

子どもを守ることは、未来を守ることにつながる。

だがどの孤児院も、現状はよくない。

いや、正直言って悪い。


国からの支援も、貴族からの支援も少なくなっている現状、満足にご飯が食べられていない。

痩せ細り、栄養不足の身体を見ると、胸が痛む。

話を聞くと、幼い子は何人も亡くなっているそうだ。

申し訳なさで、情けなくなる。


だが、今日訪れた孤児院は、少し他の孤児院と違っていた。

栄養不足で痩せ細っているものの、他の孤児院よりマシに見える。

元気もあるみたいだった。

他の孤児院と、どこが違うのだろうか。


孤児院を見学させてもらうと、建物は古いものの、綺麗に掃除されている。

そう言えば、服装もしっかりしたものを着ている。

孤児院の運営者は、やり手なのだろうか。


驚いたのは、畑に実っていた作物だ。

見たことがないくらい瑞々しく、豊かに実っていた。

国中を回ってきたが、こんなのは見たことがない。

院長に素晴らしい畑だと伝えると、子どもたちが世話をしているという。


子どもたち一人一人と話をしながら、あの畑の秘策を聞こうとしたが、ただ水をやっているだけとしか言わない。

その水だって、汚れた水を撒いているだけ。

他の孤児院と、何ら変わらない方法だった。


昼食を一緒にいただいたが、肉こそないものの野菜がたっぷり入った食事だった。


職員たちが、子どもたちの世話をしながらゆっくりご飯を食べていたので、少し近辺を歩かせてもらうことにした。

院長は心配なのか不自然に止めてきたが、気にせずに外に出てきた。

院長が知っているのかは知らないが、この孤児院には何かがある。

私の感が、そう囁いていた。


そしてそれは、正解だった。


孤児院の奥まった裏手、洗濯物が並ぶそこを歩いていると、小さな声が聞こえた。

子どもの声だった。

孤児院の子どもは、全員まだ室内にいるはず。

初めは、少しの疑問だった。

けれどそれが驚愕に変わるのは、すぐのことだった。


「お日様さんさん、雲さんさようなら〜♪花は上を向いて笑って、風はささやきを届けてくれる〜♪」


その子の言葉に合わせるように、分厚い雲が流れて、眩しい太陽の光が地面を照らす。

蕾の花や元気がなくて俯いている花は、大輪を咲かせているた。

爽やかで暖かい風が、身体を撫でていく。


こんなに気持ちがいいと感じたのは、生まれて初めてかも知らない。


太陽は、こんなに眩しかったのか。


あまりに眩しくて、目尻に涙が浮かぶ。

それを指先で拭い取って、この光景を生み出したであろう少女の元に急いだ。


「君は……」


そこにいたのは、孤児院のどの子よりも痩せ細った小さな少女だった。






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