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言葉の力


裏の洗濯場所に着くと、そこにはたくさんの洗濯物の山が3つ。

洗濯当番は他にもいるはずなのに、誰も来ていない。

マザーが言っていた、特別なお客様が理由なんだろうか。


特別なお客様……

貴族の人が養子を探しに来たのかな?


時々、貴族の人が訪ねてくることがある。

養子が欲しかったり、使用人が欲しかったり。


その時が来ると、決まってる子どもたちは新しくて綺麗めの服を着せてもらっている。

特に女の子は、綺麗な服を喜んでいる。

子どもたちは、少しでもいい生活をしたいから、必死で媚を売る。

引き取られた先で、どんな扱いがされるかわからないのに。

それでも良い夢をみる。


私はというと、いつも裏の掃除や洗濯に回される。

担当の子が抜ける分、仕事がかなり増える。

担当の子がいても、私に押し付けるから、普段とあんまり変わらないと言えば変わらないけど。


私は人前で言葉を話せないから、貴族の前に出されることもない。

どうせ選ばれないというのと、言葉を話せない異常者がいることを知られたくないから。


だから、私はいつも裏方。

そして、貴族の訪問が終わる前に全ての仕事を終わらせてないと、キツく叱責される。

一人でこなすには無理な量だと、わかっていながら。


叱責の酷さは、マザーの機嫌に左右される。

孤児の引き取り先が決まれば、機嫌がいい。

引き取り先が決まらなかったり、貴族に厳しい言葉をかけられたら、機嫌が悪い。

今日はどちらだろうか。

できれば機嫌がいい方が、酷くならなくていいのだけど。


「……っ!」


冷たい。

痛い。


水が冷たくて、突き刺さるよう。

それに、昨日踏まれた手が、水に染みる。

幸い血は出てないから、血で洗濯物を汚すことにはならなくてすみそう。


まずは、乾くのに時間のかかる大物から。

何年も使い続けているシーツは、優しく擦らないと破けてしまう。

破いたら怒られるし、破けたシーツを使う子にも、酷い目に遭わされるだろう。

慎重に洗わないと。


全てのシーツが洗い終わったのは、太陽が頂点をすぎてから。

シーツを指定の場所に干して、また洗濯場所に戻る。


基本的に、私は昼ごはんを食べない。

いや、食べられない。

仕事が多すぎて、昼ごはんの時間を過ぎてしまうからだ。

時間を過ぎた子どものために、食事を置いておいてくれる優しい人なんかいない。

その場にいなければ、他の子が食べてしまう。

だから私は、いつも昼ごはん抜き。


次は服や下着の洗濯に移る。

こちらは小さいものが多いので、洗うのは簡単。

だけどその分汚れが強いので、力が必要。

これもシーツ同様、破らないように気をつけないと。


全部の洗濯物が終わる頃には、手が真っ赤に染まり、感覚がなくなってきていた。

息をハァと吹きかけて、少しでも手を温める。

冬が来るのが、毎年憂鬱な気分になる。

たくさんのアカギレと、戦わなくちゃいけないから。


決して分厚いとは言えない、ペラペラな服で過ごすのも辛い。

私に回ってくる服は、全員が着れなくなった服だけ。

だから、生地がペラペラ。

サイズも合わない。

でも、何も言えない。

言っては、いけない。


洗った服と下着は、シーツの横に干す。


早く乾いて欲しいけど、曇りだから時間がかかる。


大人たちの噂話で聞いたことがある。

ここ数十年、晴れと言う晴れがないんだって。

よくて太陽の光がわかる曇り。

でも、一年の7割が雨なんだって。

原因がわからないから、みんな困っているし、不安になっているんだとか。


年々孤児院の食事も寂しくなっていってる気がする。

私は普段から、みんなに食事を取られているから、あんまり実感はないけど。


洗濯が終わっても、子どもたちは出てこない。表で遊んでいるのか、まだ貴族の人と過ごしているのか。


まぁ、私には、関係ないか。


久しぶりの、のどかな時間。

他の子たちにじゃなされない時間は、とても貴重だ。

気分がいい。


誰もいないなら、少しくらい……いいよね?


「お日様さんさん、雲さんさようなら〜♪花は上を向いて笑って、風はささやきを届けてくれる〜♪」


私の願いを、拙い歌に込めて。

どうか、聞き届けておくれ。


私のささやきは、世界に届いた。


分厚い雲が流れて、眩しい太陽の光が地面を照らす。

蕾の花や元気がなくて俯いている花は、瑞々しく上を向く。

爽やかで暖かい風が、洗濯物を揺らしてたなびかせる。


気持ちのいい天気。


満足気に空を見上げて伸びをしていると、草を踏む音が、やけに大きく聞こえた。


「君は……いったい……」


ハッと振り返る。

そこにいたのは、まだ若い男性。


見られた……

見られた……

どうしよう……


頭が真っ白になって、身体から力が抜けてしまった。






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