そんなつもりじゃなかった SIDE:レクシオン
クインに指摘された恥ずかしさを隠すために、必死で仕事に集中していたら、いつの間にか日が陰っていた。
そう言えば、今日はまだセレイユに会っていないなと外を見ていると、もうすぐ日が落ちるのにセレイユが庭に出ていた。
薄暗さの中に、まるでそのまま消えてしまいそうな雰囲気を感じて、彼女に会いにいかないといけない気がした。
焦燥を抱えながら急いで庭に降りていくと、夕暮れ時なのに、やけに庭の方が明るく感じた。
嫌な予感がする。
ますます、歩く速さを上げた。
庭が見える位置まで来ると、昼間のように明るい、だが柔らかな光が溢れているのが見えた。
その中心にいるのは、セレイユだった。
その光はやがて天まで届き、屋敷の外にも広がっていった。
「セレイユ!!」
何かに急かされるまま、彼女の名を呼ぶ。
セレイユは私の声に振り返と、今まで見た中で一番綺麗な笑顔を向けてきた。
いつもなら喜びこそすれ、こんなに苦しくなることなんかないのに。
なぜだが胸が締め付けられる。
どうしてそこで、そんな笑顔を見せる?
なぜ、こちらに来ないんだ?
様々な疑問が頭を巡る。
セレイユが両手を広げると、さらに光が勢いを増して、夕暮れの空を照らす。
美しい光景なのに、美しいと思えない。
「セレイユ!!」
もう一度、彼女の名前を呼ぶ。
その光を浴びて感じた。
これはセレイユの中にあった力だ。
こんなにも力を外に出してしまえは……どうなる?
「どうか、幸せでありますように……」
セレイユはその一言を囁くと、意識を失って倒れた。
私は地面にぶつからないように、慌てて抱き留めた。
彼女の身体が冷たい。
まるで、温もりが消えてしまったかのように。
私の全身から血の気が引いた。
違う、違うと、何を否定しているのか認めたくなくて、考えを放棄した。
倒れたセレイユをそのままにしておけなくて、彼女にあてがった寝室へ移動した。
近くにいた侍女には、医者を呼ぶように命じながら。
セレイユをベッドに寝かせていると、医者が到着した。
私の屋敷に常駐している医者は、腕がいい。
きっと大丈夫だと、私は自分に言い聞かせた。
「かなり衰弱している様子ですが……申し訳ございません。私にはどうしようもなく……」
医者が苦々しい顔で、言葉を絞り出した。
そうだな。
これはきっと、医者ではどうにもできないことなんだ。
これは、神の領域だ。
ただの人間が、どうにかできるはずがない。
「……わかった。下がってくれ。」
「はい……」
「悪いが、2人にしてくれないか?」
静かにそう告げると、侍女たちが一礼して部屋から出ていった。
どうしてこうなった?
何が原因だ?
わからなくて、手がかりを探すように居室内を歩き回った。
見つけたのは一通の手紙と、たくさんのゴミになった破られた紙だったもの。
悪いとは思いつつ、手紙を開けた。
そこに綴られていたのは、私への感謝が溢れた内容と、私が最初に願った通りに願いを叶えたいと言うこと。
私は何も言えなかった。
胸につっかえて、言葉が出てこなかった。
ゴミ箱に捨てられていた紙を拾い上げ、一枚一枚時間をかけて繋ぎ合わせた。
そこに綴られていた言葉も、私や屋敷の者への溢れんばかりの感謝と好意。
そして、自分の全てを使ってでも、私の役に立ちたいと言う彼女の本心だった。
違う……
違うんだ……
確かに、初めはそう願ったけど、こんなことをして欲しかったんじゃない。
君の命まで使って、叶えたい願いじゃないんだ。
それに、凛として立つ君を見て、君の微笑みを見て、本当は最初から惹かれていたんだ。
けれどそれを認めたくなくて、誤魔化すために保護なんて言ってしまった。
初めから、私は間違っていたんだ。
胸の奥から熱いものが込み上げてきて、涙が溢れた。
彼女の手紙に、一つ二つと、ポツポツ落ちていく。
後悔してもしきれない。
ふらふらと彼女の眠るベッドに近づくと、その傍らに座り込んだ。
「好きだ。好きなんだ。愛しているんだ。私を置いていかないでくれ。目を覚ましてくれ、セレイユ。」
祈るように彼女の右手を握る。
私は無力だ。
こうして祈ることしかできない。
どうか……どうか……死なないでくれ……




