神への祈り
ひとしきり泣いて、すっきりした。
私はぐちゃぐちゃになった手紙を破って、ゴミ箱に捨てた。
そして新しい紙を取り出すと、ペンを手に取った。
これまでの感謝と私の気持ちを込めて、書いては破ってを繰り返し、やっと完成した手紙は、まるで遺書のようで笑えてしまった。
もう一度書き直そうかと思ったけど、やっぱりやめた。
たぶん何度書き直しても、意味なんてないから。
伝えたいことがありすぎて、手紙だけでは伝えきれない。
手紙を書いていると、どうしても思い浮かんでくる。
レクシオン様と過ごした時間は短かったけど、私にとってかけがえのない思い出だ。
胸を温め、同時に焦がす想い。
レクシオン様に、出会えてよかった。
「レーヴン。」
窓を開けて、レーヴンを呼ぶ。
気まぐれに私を訪ねにくることはあっても、私から呼び出したのはこれが初めて。
『なんだぁ?』
「レーヴンは知ってたんでしょう?私が神子ってこと。」
『ああ。お前も知ったのか。……で?』
あぁ……やっぱり、レーヴンは初めから知っていたのか。
知っていたから、私のそばにいたんだね。
「レーヴンは、なんで私に構うの?」
『まぁ……もう、話しちまってもいいか。俺は神使……いわゆる神の使いだな。お前とお前に関わる人間を見守るのが、俺に課せられた役目だ。だから、お前のそばにいた。』
私が神子だから。
レーヴンも、レクシオン様も、私が神子だからそばにいてくれた。
私が何者でもないただの孤児なら、きっと私は1人でこの命を終えていた。
「ねぇ、レーヴン。私、この国を救いたいの。私の命を使ってでも。この国は、まだまだ苦しんでいるでしょう?」
『……何で?』
「正直に言うとね、この国はどうでもいい。孤児院も神殿も、私に何もしてくれなかった。助けてほしい時に、助けてくれなかった。……でも、この屋敷にいる人たちは違う。」
この屋敷の人たちは、みんな優しくしてくれた。
たくさんのことを教えてくれて、できたら褒めてくれた。
笑いかけてくれた。
それだけで、この国を救う理由は十分だった。
ううん……
何より……
「レクシオン様が生きる国だから。レクシオン様が愛している国だから、私は救いたいの。あの人に、笑っていてほしいから。あの人の、悲しい顔は見たくないの。」
『…………はぁ……お前もかよ……』
「え?何か言った?」
レーヴンの呟いた声が、風の囁きに紛れて届かなかった。
『いいや、何でもねぇよ。……力の使い方だが、ただ祈れ。神に向かって、思いの丈を祈ってぶつけろ。それで、力は発動する。想いの強さが、力になる。』
「ありがとう、レーヴン。今回のことも、今までも。」
『別に。じゃあな。健闘を祈る。』
「うん。」
きっとレーヴンは、私がこれからすることに気がついている。
その結果どうなるのも。
それでも頑張れって、背を押してくれた。
本当にありがとう、レーヴン。
私は手紙を机の上に置いて、部屋を後にした。
私はお気に入りの庭にやってきた。
ここでよく、レクシオン様とお茶を飲んだ。
たくさん話を聞いてもらって、たくさん話を聞いた。
「あら?お嬢様、散歩ですか?もうすぐ日が落ちてしまいますよ?」
「大丈夫。少しだけ。」
「!?お嬢様、声が!?」
レクシオン様以外の人に声をかけるのは、初めてのことだった。
これも、レクシオン様のおかげ。
レクシオン様がいたから、勇気が、自信が持てた。
私は驚くその人に、静かに微笑みかけた。
「お嬢様……?」
私は静かに目を閉じて、胸の前で祈るように手を組んだ。
どうか、この国が豊かになりますように。
どうか、病気や怪我で苦しんでいる人が、元気になりますように。
どうか、お腹を空かせた人が、お腹いっぱい食べられますように。
どうか、俯いている人が笑顔になりますように。
想いを込めるごとに、胸の中から何か温かいものが流れ出てくる。
夕暮れ時なのに、やけに瞼の向こうが明るい。
目を開けると、温かくて優しい光が私を中心に広がっている。
それは天まで届き、きっと国中に広がっていくのだろうとわかった。
「セレイユ!!」
レクシオン様の声だ。
声だけで、姿を見なくてもすぐにわかるようになった。
私はレクシオン様を振り返り、精一杯の笑顔を向けた。
そして、この温かな光がもっと広がるように、両手を広げた。
光が勢いを増して、夕暮れの空を照らす。
「セレイユ!!」
どうして、そんなに慌てているんだろう?
私はただ、喜んでほしいのに。
どうか……どうか……
「どうか、幸せでありますように……」
私の心からの願いだった。




