神子の力 SIDE:レクシオン
セレイユを引き取って、早数ヶ月が経過していた。
初めは緊張して固かった表情も、徐々に柔らかくなっているのを感じられて、すごくホッとした。
どうやら、ここでは穏やかに過ごせているようだ。
私の屋敷にいれば、私の目が届くしすぐに会いに行くことができる。
会いたいと思った時に会えるのは、すごく胸が温かくなる。
憂鬱な仕事も、彼女が屋敷にいると思えば頑張れる。
「旦那様、顔が溶けています。」
ん゙ん゙っ
今は仕事中だ。
しっかりしないと。
「さて、各地の収穫量はどうなっている?」
「例年より多くなっています。それから、天候の安定化と疫病の感染者数の低下も、合わせて報告されています。」
「天候と疫病は、いつからだ?」
「数ヶ月前。ちょうど、お嬢様がこの屋敷にきた頃ですね。」
「そうか……」
「旦那様の思っていた通りになりしたね。彼女がこの国を救うための鍵になると。」
彼女を見た時、本能的に悟ったのだ。
彼女こそ、この国の救いだと。
それは間違っていなかった。
実際にこうして報告が上がっていることから、客観的にも証明された。
「おそらく、彼女の感情が天候の安定化や疫病の低下につながっている。彼女が生まれてからも国が安定しなかったのは、そう言うことなんだろう。そして、この屋敷に保護されて、やっと安心できる環境になった。感情も穏やかになったということだろうな。」
「そういうことでしたか。」
「彼女は、間違いなく神子だ。」
王家秘蔵の文献で、改めて調べてみた。
彼女のような存在が他にいなかったのか。
そして、彼女の力は何なのか。
古い文献には、彼女の力と、同じような存在がいたことが書かれてあった。
彼女のような存在を神の子、神子と呼ばれていた。
神子はこの国が不安定になる時期に現れて、人知れず手を貸してくれていた。
彼女たち自身に、自覚があったかはわからないが。
本来なら神殿で大切に保護されるべき存在なのに、今の神殿はその役割を果たせていない。
それどころか、神子の存在そのものを知らない可能性すらある。
嘆かわしいことだ。
「彼女を保護できてよかった。彼女には、国を助けてもらった。感謝してもしきれない。」
「そうですね。しかし、ここに連れてきた理由は、それだけではございませんでしょう?」
「うっ……」
長年私に仕えてくれているクインには、全てお見通しらしい。
全部見透かされている気がして、すごく恥ずかしくなった。
顔を両手で覆って、項垂れた。
「ただ単に保護するだけなら、王城でもよかったわけですし。実際、国王陛下からは、その提案があったのでしょう?」
「……まぁ……な。」
その通りだ。
王城の方が保護するには、環境がいい。
騎士たちもいるし、警備も厳重。
この屋敷よりも、もっと大切にされていただろう。
けれど、その提案は断った。
私の、わがままだ。
兄上も締まりのない顔でニヤニヤ笑っていたから、私の気持ちはバレバレなんだろう。
兄上が知っているとなると、義姉上にも知られるだろうし……下手をしたら、国の上層部のみんなにも知られている可能性だってある。
それに思い当たって、ますます項垂れた。
「……そんなに、わかりやすいか?」
「それはもう。」
うぐっ
「虐げられている女性だったとしても、さすがに対応が優しすぎます。それに、普段の女性の扱いと全く違う。」
「そんなにか。」
「ええ。屋敷のみなは、いつお祝いになるか楽しみにしております。彼女の勉強も、花嫁修行を混ぜておりますから、いつでも大丈夫ですよ。」
「……おいっ。」
「ほほほっ。」
彼女はやっと穏やかな生活を送れるようになったんだ。
いきなり告白なんかしたら、混乱させてしまう。
彼女を悲しませるのだけは、嫌なんだ。
だから、慎重に距離を詰めようとしていたのに。
私が知らない間に、すでに外堀から埋められてたなんて。
とりあえず……指輪でも買いに行くか。




