7 暴風、父と義父を突破す
陽が上がりきらぬ早朝。
淡い金色の光が騎士団訓練場を照らし、冷たい風が土埃を静かに巻き上げていた。
魔導灯は朝露をまとい、青白い光をくゆらせている。
——だが、静寂など訪れるはずもない。
「父上ぇえ!! 俺です!!」
「おはよう!! 我が暴風!!」
第一騎士団団長ガレス・ハルトマンが走り込みをしていたその横に、全力疾走でラインハルトが並び立つ。
「父上!! お話があります!!」
「なんだ!?」
「好きな人ができました!!」
「良くやった!!」
「その方は未亡人なのです!! 問題ありますか!?!」
「特に無し!! 連れてこい!! 祝杯だ!!」
「はい!!」
——朝日を背に、壮大な親子の大声が響き渡る。
団員たちは温かい目で走る二人を眺めていた。
「今日も暴風親子は絶好調だな……」
「全身メタルプレート身につけて走ってるんだぜ……」
「もう慣れたけど、規格外だよな……」
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ガレスとの話を終えるや否や、
即座に先触れを走らせ、正装の白を纏い、
ラインハルトはホルン家を突撃した。
第一騎士団正装、白いジャケットに金糸の飾紋。襟元の銀細工。
応接室の光をすべて吸い込んだような、眩い佇まい。
前当主レオポルト・ホルンはその輝きを眩しそうに見つめた。
「突然の訪問、大変失礼致します!!」
胸に手を当て、騎士らしい深い礼。
それから、一直線に顔を上げた。
「私はクラリッサさんに結婚を申し込みたく思っております!
どうか、ご許可いただけませんでしょうか!!」
「……貴方が?」
「はい!!」
レオポルトは息を吐き、小さく頷いた。
「貴方の噂は聞いていますよ。
誠実で、力強く、嘘のつけない男だと」
ラインハルトは頭を下げ、静かに続く言葉を待つ。
「私はね、クラリッサと息子エリアスに、技師としての全てを叩き込んだ。
特にクラリッサは筋が良かった……。
息子の死後も、彼女は家名を守るために上級技師であり続けている」
レオポルトの節くれだった指が、静かに震えた。
「……家名が、彼女を縛っているのではないかと、ずっと思っていたよ」
ラインハルトは顔を上げ、真っ直ぐに見返す。
「クラリッサさんは“誇り”で技師をしていらっしゃる。
家名のためだけじゃない。
アーク炉を見つめる彼女は、苦悩の顔ではありませんでした。
……誇り高いプロの顔でした。
私は、その眼に惚れたのです」
レオポルトは吹き出した。
「……いいな。
貴方なら、クラリッサを託してもいい。
義娘が頷くなら、結婚を許そう」
ラインハルトは深々と頭を下げた。
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その日の夜。
仕事を終えて帰宅したクラリッサは、馬車を降りた瞬間に固まった。
——玄関前に、白い正装で仁王立ちしているラインハルトがいた。
「クラリッサさん!!」
彼は姿勢を正し、堂々と声を張り上げる。
「父上と、そして貴女の義父上から!
結婚のお許しを頂戴しました!!」
「……は?」
「“未亡人”であることは何の問題でもありません!!
あとは、貴女が俺を好むかどうかだけです!!
どうか、前向きにご検討ください!!」
その背後には気まずそうなレオポルト。
クラリッサは眉を押さえた。
「……お義父様まで、絆されてしまったのですか」
ラインハルトの正装は、彼の鍛えられた肩胸をさらに輝かせていた。
だが顔だけは、雨の中の子犬のようにしょんぼりとした。
クラリッサはため息をつく。
「私はお義父様と話したい。
今日のところは、お帰りいただけますか?」
ラインハルトは大きく頷き、深く頭を下げ、何度も振り返っては去っていった。
クラリッサはその背を見送ることもなく、玄関を閉じた。




