4 恋は空回り
ラインハルトは絶句した。
クラリッサから時間と場所を指定されたお茶会当日。
ヴァレリア監修の“ゴリマッチョを美しく見せる完璧コーディネート”で意気揚々とティールームへ向かった彼は、テラス席で硬直した。
王都でも名のあるティールームの広いテラス――。
そこに座っていたのは、ずらりと並んだ魔導鉄道職員一同である。しかも制服姿。その全員が紅茶を片手に静かに談笑していた。
クラリッサは一番奥の席にいた。
ラインハルトを目にすると、パンパンと手を二度だけ叩く。
「諸君。ご存じの通り、あの名高いラインハルト・ハルトマン卿です。
近日予定している大型移送では、彼が護衛を務めてくださる。
本日は異業種交流の機会。静かな場だが、スイーツや軽食も用意してある。好きに楽しんでください」
そう言って、落ち着いた所作で席に戻る。
彼女の右腕、フェリックス・バウマンが手を挙げた。
「ハルトマン卿、こちらへ」
ラインハルトは呆然としたまま礼をし、促されるままフェリックスの隣に腰を下ろした。クラリッサとは正面の席だが、テーブルが大きく、距離がある。
ラインハルトの眉がしょんぼり垂れる。
――思ってたのと違う……っ!!
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クラリッサはちらと視線を向ける。
濡れた子犬のような顔でしょぼくれているラインハルトは、しかしフェリックスとはきちんと話し、礼儀正しく振る舞っていた。
――分かっている。彼が私に惹かれていることは。
――しかし、近づけるつもりはない。
そう淡々と判断したクラリッサは、手にした紅茶を一口含む。
今日の紅茶は少し苦かった。
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後日。
ラインハルトは高級茶店の個室を予約し、半ば強制的にクラリッサとの時間を勝ち取った。
そして、またもヴァレリア監修の“ゴリマッチョを凛々しく見せる完璧コーディネート”を身にまとい、花束を抱えて個室の扉を開いた瞬間――。
「な! なんで!?」
「す、すみません。こういう場とは本当に知らず……」
親友(とラインハルトが勝手に思っている)、セドリック・ヴァーミリオンが、なぜかクラリッサの隣に座っていた。
「知り合いだと伺いましたので、私が呼びました」
クラリッサは視線だけで微笑む。
今日は黒のシンプルなワンピースに薄いベール。未亡人であることをまるで鎧のように纏う姿だった。
ラインハルトは苦悶の表情を浮かべ、セドリックの腕を掴んで部屋の隅へ連行する。
「なんで? え? なんで!?」
「本当に申し訳ないと思っています。クラリッサさんに“ハルトマン卿のためだから至急準礼装で”と……」
確かにセドリックは、クラヴァットも完璧に結び、髪も少し整えている。
ヴァレリアが見たら鼻血を噴くほどのビジュアルだ。
「……待って」
「はい」
「“クラリッサさん”って呼んでるのか?」
「え? えぇ。技術交流会でよくお話ししますので」
ラインハルトの肩から力が抜け落ちる。
そこへ、柔らかい声が背後から届いた。
「お二人は、本当に仲の良いご友人のようですね」
振り向くと、クラリッサが微笑んでいた。
その微笑みが、何よりも距離を感じさせた。
ラインハルトはセドリックの肩に手を置き、小声で呟いた。
「……脈無しってこと?」
「……僕には、ちょっと判断できません」
ラインハルトはまたしても項垂れる。
クラリッサは、その様子を横目で見つつ、紅茶を静かに口に運んだ。




