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12 暴風、線路に駆ける


 アーク炉の唸りが一段高く跳ねた。


「……っ、まずい!」


 クラリッサは計器の針が震える瞬間を見逃さなかった。

 雪崩の衝撃で魔力脈動が乱れ、外付け導管の一部が歪んでいる。


「外の導管が詰まった……! 炉圧がこのままだと逆流する!」


 彼女は運転制御車に戻り、防寒用の黒いコートを掴む。

 魔導ランプを手にしたクラリッサを見て、フェリックスが蒼白になる。


「主任、まさか——」

「線路脇の導管を直さないと、内部調整だけでは追いつかない!」

「主任、それは——危険です!」

「今行くしかありません!」


 雪は深く、視界は白に沈んでいく。

 いまだ車体の半分は雪塊に覆われたままだ。

 魔導機関車の車輪の振動が地面を震わせ、蒸気が上がるたび雪煙が吹き荒れた。


 クラリッサは迷わず外へ飛び出した。


 ――ここを直さなければ、全員危険に晒される。


 その決断に一片の迷いもなかった。


 だが。


「クラリッサさん!!!!!」


 爆ぜるような声とともに、黒影が雪を割って飛び込んできた。


 ラインハルトだった。


 巨体とは思えない速度で雪原を駆け、跳躍の跡はまるで大獣が走ったかのように深い。


 クラリッサが息を呑むより早く、その腕が彼女の腰を抱き寄せた。


「どちらへ向かわれるつもりですか!?」


 怒鳴り声に近い。

 しかし怒りよりも、どうしようもない“恐怖”が滲んでいる。


「導管を直さなければ——!」

「まだ賊が残っている可能性があります!!」

「今直さねば大惨事になります!!」


 その瞬間、線路奥の雪壁が“ずるり”と崩れた。


 倒れた荷台の影から、盗賊の仲間が現れる。


「主任を狙っている!」


 クラリッサの心臓が跳ね上がる。

 だが——。


「通すかァ!!」


 ラインハルトの咆哮が雪山に轟いた。


 彼はクラリッサを背後に押しやり、剣を逆手に振り抜くと、突っ込んできた賊を一息で弾き飛ばした。


 金属がぶつかりあう火花、雪煙。

 雪の上に、男たちの身体が転がる。


「クラリッサさん! 導管はどこですか!?

 俺は貴女の選択を否定しません! 行くなら——守るだけです!!」


 通信機が騒ぐ。


『ラインハルトさん後方!』

『主任の位置を死守しろ!』


 クラリッサは震える息をのみ、ラインハルトの背中を見つめた。


 ――どうして。

 ――どうしてここまでしてくれるの。


 彼の剣が賊を薙ぐたび、雪は赤い飛沫をあげる。

 暴風のような剣技。それでも無駄は一つもない。

 一歩たりとも、クラリッサの方には近寄らせない。


「……ラインハルト……!」


 呼びかける声は震えていた。


 彼は振り返らず、しかし迷いなく返す。


「大丈夫です! 全部片付けます!!

 貴女は——俺が守ります!」


 その声は確かに、彼女だけに向けられていた。

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