11 暴風、雪を裂く
雪を踏みつける音は、一瞬で“異音”に変わった。
白い地吹雪の向こうから、影が一斉に飛び出す。
「来たか……!」
ラインハルトは腰の剣を抜き放つ。
鋼の刃が雪光を弾き、低く唸った。
「第一騎士団、前へ! 車体から離れすぎるな、左右扇状に展開!」
通信機越しに怒号が飛び交う。
だがラインハルトの声は驚くほど落ち着いていた。
その声一つで騎士たちは瞬時に動く。
雪煙を裂いて、盗賊団が斬り込んできた。
「——ッ!」
最初の一撃は正面からの大振り。
ラインハルトは動かない。
刃が落ちてくる直前、ほんの半歩だけずれ、横から拳を叩き込んだ。
鈍い骨の砕ける音。
男は雪の上を転がり、動かなくなる。
「一……」
背後から短剣——肘で喉を打ち抜く。
「二」
両側から二人。
雪で足元が滑り、読みにくい軌道の刃。
ラインハルトは膝を折り、二本の剣を“肩”で受け、そのまま押し返して叩きつける。
「甘い!」
圧倒的な膂力。
二人の身体が雪煙の中へ跳ね飛ぶ。
「三、四」
斜め下から矢。
鋭い氷を割る音。
ラインハルトは軽く剣を払う。
矢は真っ二つに折れて落ちた。
「狙うならせめて、いい弓を使え」
雪風に乗せて低く呟く。
さらに数名がクラリッサのいる車両へ回ろうとする。
ラインハルトの眉が険しくなる。
「——通すか」
足場を蹴り、巨体とは思えぬ速さで前へ。
剣が横に走る度、黒い影が雪の中へ沈む。
『後方、再接近! ワイヤー範囲に入ります!』
「構わん。俺が処理する」
呼吸を整え、剣先をわずかに下げる。
青い瞳は氷のように澄み、ただ一点を射抜く。
最後の盗賊が飛びかかった瞬間——
ラインハルトの剣が青い弧を描く。
風が鳴り、影が崩れ落ちた。
ラインハルトは雪上に立ち、静かに息を吐いた。
「……以上。掃討完了。
……周囲の警戒を怠るな」
静かな声とは裏腹に、倒れた賊は雪に沈み、冷たい風だけがその場を撫でていた。
『……すげぇ……』
『本当に暴風だ……』
通信機の向こうで、技師たちの怯えと興奮が混じる。
ラインハルトはアーク炉のある車両の方角へ視線をやった。
――大丈夫。
――彼女なら、やりきってくれる。




