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10 心臓部の悲鳴

 運転制御車に、クラリッサの鋭い声が飛ぶ。


「魔導障壁展開!」

「はい!」

「魔石残量は!」

「十分あります!」


 制御盤の赤い警告灯が、拍動するように点滅を速めた。


「共鳴値モニター、魔導配管の流量計、安定化陣の光量……

 全員、表示から目を離すな。緊急体制に入る!

 雪崩の位置を正確に!」


「九時の方向! 最大出力でも回避間に合いません!」

「なら出すだけ出せ! 頭を覆われたら終わりだ!」


 魔導配管がうなりを上げ、車輪のきしみが床下から響き渡る。


 ラインハルトは魔導通信機を握り、低く指示を飛ばした。

「雪崩発生。衝撃に備えよ。体制S11、展開」


 別車両からフェリックスが駆け込む。

「主任!」

「フェリックス、サポートを!」

「雪崩、あと十秒!」

「技師全員、衝撃に備えよ!」


 地響きが雪山を揺らす。


 技師たちは身を低くし、ラインハルトもクラリッサの近くに膝を落とす。

「衝突まで、五! 四! 三! 二!」


 窓が、白から――一瞬で黒へと変わった。


 魔導障壁に巨大な雪塊が叩きつけられ、魔導機関車でさえ軋むほどの衝撃が襲う。

 技師たちの悲鳴が混じり、制御盤が赤く脈打った。


「最大速度! 押し切れ!」

「主任、これ以上は――!」


 クラリッサは突然立ち上がった。

 魔導蒸気管の音に耳を澄まし、背後のアーク炉へと鋭く視線を走らせる。


 ——まずい。


「暴走する! 緊急停止に移行!」

「了解、ブレーキ落とします!」

「フェリックス、ここは任せる! 私は炉に回る!」

「主任、急いで!」


 クラリッサが後方へ駆け出し、その後ろをラインハルトが静かに追う。

 振り返った彼女に、ラインハルトは短く頷いた。


「貴女に何かあれば、この列車そのものが終わります。

 俺は貴女を守る。それが任務です。」


 クラリッサの眉が震えた。


 ――嬉しいなど、考えている場合ではない!


「……お願いします!」

「任せてください」



---


 アーク炉専用車両は薄青い魔導灯に照らされ、重い鼓動のような唸りが響いていた。


 クラリッサは炉の前に立ち、計器の針を追いながら、蒸気弁にそっと手を添えた。


「……どこだ。どこが乱れている」


 魔導路暴走が起これば――山一つ吹き飛ぶ。


 彼女は目を閉じ、炉の音だけに集中する。


「主任!」

 制御車両の方向から技師の声が飛ぶ。


「どうした!」

「魔導灯塔が感知!」

「何をだ!」


 ラインハルトが通信機に触れつつ、クラリッサの肩に手を置いた。

 その声は静かで、しかし戦場の男の声だった。


「賊が出ました。

 ここから先は俺たち騎士団の仕事です。貴女は炉を頼みます」


 クラリッサは息を呑み、頷く。

「電撃ワイヤーを展開します……足元に注意を」

「えぇ、気をつけます」


 彼は一度だけクラリッサを振り返ると、親指を立てて笑った。

 戦場に向かう男とは思えないほど、明るくて、強い笑顔。


 そして駆け出した。


 通信機越しに、ラインハルトの声が響く。


「騎士団、戦闘態勢! 体制B21へ!

 電撃ワイヤーが展開される。足を取られるな!」


 遠ざかる背中を、クラリッサは唇を噛んで見つめた。


「……どうか、ご無事で……」

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