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プロローグ 百合を眺めてただけのモブだったのに

「……さーん。渥美さーん」


 誰かに名前を呼ばれているような気がする。けれど特に聞き覚えのある声でもなくて。


「ん…ぅ」

「あ、やっと起きたー」

「ん……」

「もう授業始まるよーがんばろーね」

「う…ん、ありがと」


 そう言った彼女の去り際に見えた顔に妙に飲み込まれそうになったのは気のせいなのだろうか。

 何か私の大事なものを奪われたような。


 まあきっと気のせい。


♦︎


「はぁ〜ほんっと女の子って可愛い…」

 

 私、渥美桜(あつみさくら)は百合が大好きな高校二年生。きっとどこにでもいるような、そうそこらのモブのような生き方をしている、まあ一応女子だ。

 私の独断なのだが世の女子の多くは何故だか男の子同士の恋愛――そう、BLを好む傾向にあるらしい。そのせいか私はなかなか百合が好きだとカミングアウトできない。故に語り合う仲間もいないのだ。だから結局こうして部屋に篭り1人で感嘆の声を溢しながら眺めている。


「こーんなに可愛くて心が癒しで満たされるのに…」


 ぺらぺら。

 漫画のページを捲ると女の子同士の甘ーい展開が視界に広がる。女の子同士が顔を近づけていき、次第にその唇同士は重なり合う。周りで花が咲き誇っているかのように優雅で、綺麗で。けどそんな口づけを交わした後の二人の顔は真っ赤なのだから、初々しさがあって先ほどの優雅さとは打って変わったような可愛らしさがある。

 これ程までのものを同時に摂取できるのだから頭がパンクしてしまう。


「…いいなぁ、私も…してみたい」


 そう自然と言葉が溢れる。これは私の奥に隠されてた願望…なのだろうか。

 

「ってなになに!?私はあくまでモブ!眺めてるだけでいいの!」


 そんなことをしていたら気づけば日付を回っていた。

 急な話だが私は朝にめっぽう弱い。早く寝たとしても、夜更かししたとしてもなかなか朝は起きられない。結局変わりないのなら、少しでも早く寝た方がすっきりした状態で起きれて少しでも耐性がつかないかな、なんて淡い希望を抱き始めたことをきっかけに早めの就寝を心がけるようにしていた。

 まあなかなか耐性もつかないしで早く起きられないのだけど。


「けどムリムリ!!あっんな百合見てすやすやと寝れるわけないじゃん!」


 けど可愛い女の子が膝枕してくれて優しく頭を撫でてくれたらきっと寝れるんだろうなぁ、とかを考える。

 だがそう望んだところでそんな私にとって都合のいい現実は訪れるのだろうか。…なんて考えたら途端に悲しくなったので考えるのをやめた。


「はわわわ〜」


 そして結局寝るタイミングを見失った私は百合の世界に溺れることとなったのだった。


♦︎


 翌日、おかげで私はしっかりと寝不足で朝を迎える羽目になった。


「頭痛い…ズキズキする」

 

 と、席に座ったら座ったでタブレット端末で漫画アプリを開き、慣れた手つきで連載を追っている百合漫画をタップする。

 頭が痛い時はブルーライトは控えましょう、なんてよく言われるだろうが私にとっては、頭が痛い時は百合を拝みましょう、に値するのでわたしの行動は間違っていない。うん、きっと。


「……さーん。渥美さーん」


「ん……ぅ」

「あ、やっと起きたー」

「ん……」

「もう授業始まるよーがんばろーね」

「う…ん、ありがと」


 時計を見るとたしかに授業開始の3分前。彼女が起こしてくれなかったら、私はきっと寝たまま授業を迎えその後先生に起こされるという恥ずかしい思いをしていたことだろう。だからそんな私を救ってくれた彼女にお礼が言いたい…のだが改めて思う。起こしてくれた彼女は誰だ。


 そんな私を置いてくかのように始業の鐘は鳴る。号令の声がかかり座り直すと、ふと開きっぱなしのタブレットの画面が目に入った。


 は、、、?


 そこには2人の女の子が互いを熱い眼差しで見つめ合い口づけを交わしているシーンが大きく描写されていた。幸いなことに私の席は窓際の1番後ろ――俗で言う神席、であったがために周りには見られていないだろう。おそらく。――いや私を起こしてくれた彼女…にはバレてしまっているだろうが。というか見られていたかもであろう現実を突きつけられて声にも出さずに抑え込めたことを褒めてほしい。


 ぴこん。

 2人の女の子に覆い被さるように通知のバナーが表示される。


 『渥美さんってもしかして女の子好きー?』

 

 そのメッセージで初めて私を起こしてくれた彼女が誰かを把握する。その名が私でもわかるほどにカーストの高い所に位置しているものであったから驚きを隠せない。

 ちなみに私の学校での立ち位置は真ん中寄りの下だ。幸いなことに特別顔が悪い、というわけでもないがために上手い具合に影に隠れることができ特に目立つこともなく百合に勤しむ平穏な日々を過ごせている。

 

 ……。すぅーー、はぁ。


 『す、すきだよー。可愛いし』


 あえて"好き"を"すき"と平仮名で表すことで意味合いが異なるようにする――loveではなくlikeである、というのと同じようなものである。


 ぴこん。

 こんなにもメッセージを見る、ということが緊張するだなんて。心臓がばくばくとうるさく今にも飛び出してきそうだ。


 『私も女の子すきだよー、可愛いよねっ♪』


 いざ返ってくると拒否られるような返事でもなくてほっ、と息が溢れる。

 などととりあえず心臓の音も落ち着いてきていた刹那


「…じゃあここの答えを渥美さん。答えてくれる?」

「はっふぁいっ」


 あまりにも素っ頓狂な声が出てしまい恥ずかしい。私は特にあがり症でもないが顔が赤くなってしまった。


 『当てられちゃったねー』


 私は別に特別勉強ができないわけではないから答えられない、というわけでもないのだが今回は別。さっきまでメッセージで連絡していたのだから当然答えの用意はしているはずもなく。どうしよう…なんて考えていたら、ぴこん、とまた一つ。

 

 『答え、7√3だよー』


 え?と思ったが彼女の名はよく廊下に張り出される模試結果などでも見たことがあったような気がする、という記憶を頼りにとりあえず信じてそう答えることにする。


「えっと、7√3…です」

「はい、正解です。座っていいですよ」


 『えへ〜当たりだねっ』

 『あ、ありがとう』


 なんか無愛想な返事になってしまったがしょうがない。別に誰かとよく連絡を取っているわけでもないのだ。


 『でさでさ〜急んだけど今日一緒に帰ろ』


 ………。突然のことでちょっと驚きを隠せない。別にクラスメイトと一緒に帰るくらいどうってことないはずなのだけど。


 『い、いいよ』

 『おっけ〜じゃあ帰りに。あ、そうだ』

 『渥美さんって私のこと知ってるよね?』

 『う、うん』

 『よかった〜じゃあ帰りにね』


 どうやら私は一緒に帰ることになったらしい。


 別に、緊張なんてしていない。うん。



 この時の私は知らなかった。

これから"百合友達”となる私たちの関係は、

まだ、誰も知らない"セーフの境界線”を彷徨いはじめることを。

お読みいただきありがとうございます、五百雀です。


まだ名前もろくに知らない二人が、

この日を境に“百合友達”としてどんな距離を歩いていくのか——

よければ見守っていただけると嬉しいです。


続きが気になると思っていただけたら、

フォローや感想、評価などしていただけると励みになります!


それでは、次話からもよろしくお願いします。

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