第七話 鈴木
街の風景を見るのが好きだ。
人の流れを把握するのが好きだ。
田中は雲の上に座りながら、街並みを眺めていた。
ビルがゆらゆらと動いている。中に棲まう人間の群れが忙しなく動く様を体現しているようだった。
田中もその群れの中の一人であった。毎日、身体が空中分解しそうになるくらいに動き回り、金を稼ぐ日々であった。
「田中」
鈴木が田中を呼んでいた。
「働け」
鈴木はそう言って、田中をげしげしと足蹴にする。
「べー」
田中は舌を出して、鈴木を挑発した。
「ふええーん」
鈴木は泣き始めてしまった。そして今度は、田中をぽかぽかと殴り始めた。
それが嘘泣きであることは、田中には分かっていた。
「べろべろばーー」
田中は鈴木を挑発する事をやめなかった。
それが鈴木の求めることだと、分かっていたからだ。
「ふええええーーーーん」
「べー。べろべろー」
「ふええーー、ぶっ」
「きゃは、きゃはは」
鈴木は遂に嘘泣きをやめて、笑い始めてしまった。
「よし」
ひとしきり鈴木を笑わせた後、田中は立ち上がる。
そして田中は鈴木に要望した。
「お父さんって、呼んでみて」
田中のその言葉に、鈴木は笑うのをやめ、少し頬を赤らめながら、考えるような素振りを見せる。
そして少しの間を空け、鈴木は言葉を発した。
「お父さん」
鈴木はいなくなった。
オトウサン
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「おとーさん」
「んー?」
とある父と娘が仲良くスーパーを歩いていた。
「あれ欲しい」
娘はレジ付近のとある商品を指差していた。
「おとーさんみたいに、ふーってしたい」
娘の言葉に、父は苦笑いをする。
「それは君にはまだ早いなぁ」
「えー、田中は良いって言ってたよ」
「田中?誰それ」
父は不思議な顔をして尋ねた。
ーー嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。
店内アナウンスで、誰かの声が響き始めた。
「なんだこのアナウンス?」
困惑する父を尻目に、
娘は店内の監視カメラに向かって悪戯っぽく笑って言った。
「田中のばーか」
監視カメラの奥で、田中は苦笑いを浮かべた。