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第三話 田中
たーなかたなか。たーなかたなか。
田中は祭り上げられていた。田中を中心とした宗教団体が完成してかれこれ120年。今日も田中が存在することで、世界は回っているのだと実感する。世界は田中を中心に活動しているのだ。ああ、田中。田中。
と、1人の狂信者は興奮ぎみに顔を紅潮させながら述べた。歯に塗りたくった黒い光沢の液が光る。イカ墨だ、と狂信者は言った。
たーなかたなか。たーなかたなか。
田中は希望である。そして太陽である。我々は田中の周囲をただ回っているだけの惑星にすぎない。全ての事象における中心は田中である。
この意味が、分かるか。
田中。
たーなかたなか。たーなかたなか。
たなか…
「下らない。」
田中は言った。
数秒後、田中教の信徒達は跡形も無く消えていた。
その場にいる信徒だけでない。世界中の信徒が。
全員ぽつりと、最初から無かったかのように、消えた。
「田中」
女の子は田中の手を握り、田中にねだるような笑顔を見せた。
「鈴木、副流煙ほしい」
「だーめ」
田中は朗らかな笑顔で返した。