第一話 田中
田中は困惑した。
ふらっと立ち寄った喫煙所で、小学生くらいの女の子が堂々とタバコを吸っているのだ。
ココアシガレットでタバコを吸う真似をしているのならば、まだ理解できる。それであれば、微笑ましいとさえ思う。しかし女の子はキャメルを吸っていた。紛れもない、キャメルだった。
田中は注意をしなかった。さっさと自分のタバコを吸って、できるだけ関わらぬように、さっさと火を消して喫煙所から出ようとした。
しかし。
喫煙所のドアが、開かなかった。
おじさん
注意してよ。
肺がね、こんなんになっちゃってるの。
女の子は胸部をかっ開いて、自身の肺を田中に晒した。
どくどくと、黒い肺が動いていた。
ああああああああああああああ。
田中は衝撃のあまり叫び、意識を失った。
たーなーか。
たーなーか。
たーなーか。
田中。
田中は目を覚ました。
そこは自分の部屋だった。
夢かーーと安心し、田中は起き上がる。そしてベランダに向かい、椅子に座ってタバコに火をつけた。
変な夢を見たせいか、身体が妙に重い。
「田中」
妙に。
「たなか」
身体がーー
た
な
か。
背中の上に、女の子がのしかかっていた。
「副流煙、ちょーだい」
その子が
歯を剥き出して笑うたび、
黒い肺が、うごめいていた。