表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある子ども

作者: 鰯田鰹節

武 頼庵(藤谷 K介)さんの『24夏のエッセイ祭り企画』参加作品です。

とある子ども





とある子どもを、1週間ばかり我が家で預かった。


その子は、かわいそうな子どもだった。


何がかわいそうって、その子に選択権がほとんど無いことだ。


その子どもには、生まれつき、あらかじめ選択肢がひとつしかないか、答えが用意されていた。


だから、自分で『選ぶ』ということが出来ないようだった。






「何が食べたい?」


と聞いても、


「わからない。何が食べられるの?」


と言う。


たくさんの選択肢を提示してあげると、時間をかけて、やっとその中からひとつを選んだ。




Netflixで映画を見せてあげたら、同じ映画を見たいと何度もせがんできた。

他にもたくさん、映画はあるのに。



遊園地に連れていったら、同じ乗り物に乗りたいと言う。

何度も何度も同じ乗り物に乗った。

他にも、たくさんたくさん、楽しい乗り物はあるのに…。




朝は私のピアノで起きた。


夜はプラネタリウムをつけてあげて、その光の中で寝させてあげた。


私や夫に何度も抱きついてきた。

私も夫も子どもを抱きしめた。


屈託のない笑顔が愛しかった。





子どもって、体温が高い。


ぷにぷにした柔らかな手と、私の冷たい手を繋いで、毎晩一緒に寝た。


なんと、私の娘たち…猫たちも、その子どもと一緒に寝た。




先住猫のネコちゃんが8歳、新入りのコネコちゃんは1歳になったばかりだ。




私の猫たちはその子どもを、愛した。


出かければ、帰るまで、必ず玄関で待っていた。


お風呂に入れば、出るまで脱衣所の前で待っていた。


子どもが何をしていても、少し離れたところから見守っていた。




子どもは、生き物と接したことがほぼ無かったようだ。

はじめは怖がっていたが、次第に慣れて、


「ねこちゃんを、ぎゅーしたいよ。」


と言うようになった。





いま、子どもは、あるべきところに帰ってしまった。


ネコちゃんは玄関で、子どもが帰ってくるのをずっと待っている。


コネコちゃんは、ピアノの下、おふとんの敷パットの下、カーペットの下などをくまなく探している。

そして、子どもがいないことに

「プルャーッ!!」

と不満を訴えている。


2匹とも、お水を飲まないし、トイレもしてくれない。





私もだ。


私も、寂しくてたまらない。


あの子の幸せを、毎分毎秒、祈っている。





私と夫は、結婚当初から、自然妊娠以外は望まないと決めていた。


婦人科疾患をわずらい、3月に子宮と左卵巣を摘出した私は、もう子供は産めない。


そんな私たちのところに、ひと夏の一瞬だけでも、天使のような子どもが来てくれたことに、心から感謝している。





あの子の幸せを願ってやまない。


あの子の笑顔が絶やされないよう、願ってやまない。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 企画から拝読しました。事情はわからないながらも、ただごとではない切なさで、胸が詰まりました……。 お子さんがそこまでなついたということは、よっぽど愛情あふれる居心地いいおうちだったんでしょ…
[一言] どういう事情で子供を預かったのか、またその子の生い立ちも分かりませんので迂闊なことは言えませんが、間違いなく鰯田様ご夫妻にとっても子供にとっても有意義で楽しい日々であったと思います。 提示し…
[一言] こんにちは。 読んでいて切なくなりました。 その子の人生が明るいものでありますように。 祈るばかりです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ